第13話

 彼の隣にいたい。でも彼にはいつも女の子が隣にいる。名前は高木菜那ちゃん。彼は「ただの幼馴染それ以上もそれ以下もないな」と言っていたけど。私にはそう見えなかった。私も健人君と幼馴染だったらあんな感じだったのかな?


 ある日、文芸部の見学という名目で放課後も一緒に残るように誘った。私の想像を超える大きさの図書室を前に夢中になった私。そんな私と離れて健人君はどっかに行ってしまった。でもまた明日も放課後に残る口実ができたと前向きに捉えた。好きな人と一緒にいることが出来ると思えたから。


 下校前に同学年の新島有紗ちゃんを健人君から紹介された。有紗ちゃんと分かれたあとに健人君と有紗ちゃんのことを聞いたら驚くことを言われた。

「合格発表の日に新島さんが印鑑を落としていたのを俺が拾ったからかな」と印鑑を落とした人の目の前でその話をした。私は運命だと思っていたことが彼には別の人だと言われショックだった。

 そのため私は動揺を隠せずに行動に現れてしまっていて健人君に迷惑をかけてしまった。

 家に帰ると「体調大丈夫」というメッセージが来ていた。私は上手く隠せたと思っていたが健人君にはそう見えなかった。健人君は悪くないのに……。


 次の日には健人君の誤解を解いた。でも気づいて欲しかった私が言わなくてもあのときの女の子だということを。私からあのときに「有紗ちゃんじゃなくて助けてもらった人は私だよ」と言えればよかった。言えなかったのは健人君にも有紗ちゃんにも迷惑をかけてしまうと思ってしまったからだ。

 あのとき言えてたら変わったのかな私たちの関係……。

 やっぱり私は臆病だなこれだけはすぐには変われないよね……。


 私は今日も図書室へ誘った。「この前教えれなかった私のおすすめ教えようか」これは建前で本音は一緒にいたいと思ったから。 

「今日こそお願いね」と言った。健人君はいじわるだ。確かに私も健人君より図書室の本を優先したけど。

「今日は教えるよ」とわざとらしく「は」を強調させて返事をした。


 有紗ちゃんから健人君におすすめを教えてもらったらしい。その姿を想像して私は嫉妬してしまった。

 健人君と有紗ちゃんは謝っていたけれど何も悪くないのにどちらかといえば悪いのは私なのに……。

「ただ私のおすすめ教えて一緒にその本のことを話したかっただけだから」と私の気持ちを素直に話した。

 健人君は優しい。そんな私を気遣って今日中に読んでくると言ってくれた。その気遣いが私には胸が締め付けられるような気がした。

 お詫びではないけど今後も放課後に図書室に来てもらうように誘った。これでまた健人君と一緒に過ごせる。私は少しでも好きな人と一緒にいたいと思った。



 そんな私の前で健人君と彼女さんが歩いているところを見るとショックだった。五月六日、七日と休みの日には自室に引きこもりその出来事を忘れようとしていた。

 それでも諦めることは出来なかった。彼女はいても健人君のことが好きなのは変わらない。私の初恋はこんな形で終わるんだ……。



 五月八日の月曜日の学校での出来事。担任の橋本先生から席替えをすると言われた。

 入学から一ヶ月が経過した。「いい頃合いだろ」とのことだった。

 席替えしたくないな。まだ健人君と話していたい。また隣になれば話せるよね。うん、隣になりますように。


 隣にはならなかった。私の隣には青崎海斗君だった。隣になった青崎君はやけに積極的で「星森さんのこと入学式のときから気になっていたんだ。よかったら今度遊ぼうよ」と言ったり「俺中学のときには歴史で100点取ったことあるから教えてあげるよ」と絡んできたりと正直しつこかった。

 青崎君と離れたかった私は菜那ちゃんや真里ちゃんの席に行き雑談をしていた。


「菜那ちゃんと真里ちゃんはゴールデンウィークの間何してたの」

「えーと、私は吹部の練習が最初の2日しかなかったから、五日と六日で家族で旅行に行ってたよ。そうだついでに今渡すね」

 菜那ちゃんは鞄からご当地キャラが描かれたお菓子をくれた。クッキーやせんべいなどバラエティ豊かな詰め合わせだった。

「ありがとう菜那ちゃん」

「ありがとう菜那」

「どういたしまして。次は真里ちゃんの番だよ。真里ちゃんはゴールデンウィーク何してたの」

「菜那と違ってバスケ部は七日以外はずっと練習だったからどこにも行けなかった。いいな。ウチも旅行行きたかったな」

 菜那ちゃんと対照的に真里ちゃんは部活三昧だったそう。でもちょっと嬉しそう。

「羨ましいよね」

「沙奈もそう思うよね」

「うん」

「その沙奈はどっかに行ったりしたの」

 私がゴールデンウィークの話題を振ったから言わないわけにはいかないよね。

「私は本屋に行ったぐらいで特別なことはしてないよ」

「沙奈ちゃんは本を買いに行ったんだね」

「それが一冊も買ってないんだよね」

「え、なのために行ったの」

 真里ちゃんが驚きながら聞いてきた。でも真里ちゃんの気持ちは分かる。

「買おうとしたけど買わなかった」

「「変なの」」

 2人とも同じことを言った。でもね言えないよ。好きな人が女の子と歩いているところを見て買えなかったとは……。

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