第12話

 五月五日のとあるコスメストアで私、星森沙奈は見た。健人君が女の子と一緒にいるところを……。菜那ちゃんでもない同年代の人と……。

 ああ、健人君が菜那ちゃんと付き合っていないって言ってたのはそういうことなんだ……。彼女いたんだ……。私にもチャンスがあると思っていたのに……。


 離れたところで落ち込んだ女の子がいる一方で別の女の子は兄にコスメについて話していた。

「いい、健兄にも分かるように言うとピンクでも薄い色もあれば濃い色もあるの。後は保湿力や美容成分など去年私が止めたのは知識がないのにプレゼントしようとしていたからだよ」

「なるほど。風香が止めた理由が分かったよ」

「プレゼントしたいなら来年までに勉強して来なよ」

「そいうことなら違うものにすると思うが」


 落ち込んでいる女の子のほうは悲しい現実(勘違い)を前に打ちひしがれていた。

 彼女さんと一緒にデートしているんだ。菜那ちゃんとは違う距離の近さがあるよあの2人……。彼女さんのコスメの買い物に着いて来ているんだ……。

 私みたいな子だと勝ち目ないよね。ファッションセンス抜群で明るい子相手では……。

 でもよかった。学校とは違い眼鏡をかけていて私服だからすぐには気づかれないだろうから。

 うん。本を買って家に帰ろう。そして今日のことを忘れよう。こうして私は本屋に向かった。


 どれくらい経ったのだろう。健人君と彼女さんが本屋へ来た。彼女さんの荷物をもってあげている。優しいな健人君……。彼女さんも本が好きなのかな……。もしかして彼女さんがミステリー小説が好きだから自分も読んで一緒にその本のことを話そうと……。

 今日見てきた行動の一つ一つが胸に突き刺さる。

 失恋ってこんな感じなんだ。気づいたときには家にいた。本は買わずに帰っていたようだ。



 健人君と私が初めて出会ったのは合格発表の日。

「すみませんどうかされましたか」これが彼に初めめ出会ったときだった。そのときの私は大事な印鑑を鞄から探していたが見つからず背の高い男の子から声をかけられたことが怖かった。

「ご、ごめんなさい。すぐしますのでごめんなさい」と返すので精一杯だった。

 そんな私に「これを探していましたか」と彼に言われた。彼の手には探していた印鑑があった。

 お礼を言った私はすぐに立ち去ろうとしたがこけてしまう大失態をおかしてしまう。そんな私の手をとり本日2度目の助けられたことに対して恥ずかしさと共にスマートに助けてくれた彼のことに惹かれていた。


 私は決心した高校デビューをすると。

 今までの学校生活は教室の端で静かに過ごしている女子だった。クラスの人とは一様話すし、いじめられていたわけではないけれど居てもいなくても変わらないそんな存在だった。そのためクラスメイトという言葉が一番当てはまる人間だった。

 だから高校に入ってからは今までの自分にさよなら出来るようにコンタクトに変えて髪を今まで以上に手入れした。身だしなみから変えようと努力した。次に話し方なども改めるようになった。私が胸を張って「私変わったよ」と言えるように。見た目だけでなく中身も変えようと思ったからだ。


 入学式のときに新入生代表スピーチをすることになった。今までの私はこういう場では緊張して声が裏返ったり早口になるなどのことがあった。そうならないようにひたすら練習した。

 入学式のことはあまり思い出せない。緊張していたことだけは覚えている。スピーチのときはみんなに聞きやすい声で話せているか不安だった。

 その後の教室で私は出会った。隣の席の人がこの前助けてくれた男の子だった。名前は山城健人君。

 彼はスピーチに対して「さっきのスピーチすごく良かったよ」と言ってくれた。そのときに私の頑張りが報われた気がして嬉しかった。彼にはこれで3回も助けられた。


 彼とは授業中は勉強の話をして休憩時間は雑談するなど一緒に話す時間が多かった。男の子とあまり話すことがなかった私は今までに感じたことない充実した生活を送ることができていた。そのため私は彼と話していくうちに「もっと話していたい」「もっと一緒にいたい」と思うようになった。そう思ったときにはすでに好きになっていたと思った。

 出会いは最悪だったけど今思えば彼に助けてもらったあのときから私の人生が変わった。好きな人と話す日々が楽しかった。偶然を運命と呼ぶ。運命の歯車はすでに動いていた。恩人であり好きな人そんな彼の隣にいたいと思った。

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