第9話
「健人君は何か借りたの?」
昼休憩後の授業で星森さんから聞かれた。
「何も借りてないよ」
実際は借りている。神野高校では一人三冊までという制限があり卓也が五冊借りようとしていたが一人では借りることが出来ないため俺が借りたことにして卓也に渡している。
「でも、意外だったな浅見さんが本読むなんて」
「真里ちゃんはあまり本読まないそうだよ」
じゃあなんで本持っていたんだ。何の本か分からなかったが二冊は持っていたぞ。
「私も何借りていたかは見てないから分からないけど。でも家で読むと言ってたよ」
「そっか。星森さんは何か借りたの?」
「私は放課後に借りる予定だから」
部活のときに借りるのだろう。まあ、そのときには俺は学校から出ているだろうけど。
「よかったら今日も図書室へ一緒に行かない」
来てしまった。断る理由もなく早く帰ってもゲーム以外にやることないから星森さんの誘いに乗った。この子誘うの上手なんだよ。
「この前教えれなかった私のおすすめ教えようか」
言えない。この前新島さんから教えてもらったとは言えない。この前のことの罪悪感から断るのも引けるし。とはいえ誤魔化すのも彼女なら気づきそうだし。
「今日こそお願いね」
「今日は教えるよ」
「は」が強調されていたが触れないで置こう。とりあえずおすすめされた本を借りて家で読もうと…どうしよ俺今二冊借りていることになっているから断っても「とりあえず借りとけば」なんて言われて二冊以上進められたら…。あの時卓也のために代わりに本を借りたことを言っておけばよかった…。
「あっ、あの、こ、こんにちは」
本棚の後ろにいた新島さんがこちら見つけるなり挨拶をした。
「こんにちは有紗ちゃん」
「…こ、こんにちは新島さん」
先ほどの話の動揺からか挨拶が遅れた。
「あっ、あの、や、山城君は今日も、み、ミステリー小説読むんですか?」
「え!健人君どういうこと」
「えーと…」
「有紗ちゃんに教えてもらっていたの」
星森さん怖いです。新島さん俺が今一番言ってほしくない言葉を言ってしまったね。こうなるぐらいなら先に教えてもらっていたことを伝えればよかった。
「いっ、いえ。わ、私のおすすめより、さ、沙奈さんのおすすめを教えたほうがいいと、お、思います」
助け舟のつもりだろうがその発言が今は追撃になっている。気持ちはうれしいけど…。
「ごめん星森さん…本当にごめん。先に教えてもらっていたことを伝えればよかった…」
「ううん、こちらこそごめん八つ当たりしてしまって。ただ私のおすすめ教えて一緒にその本のことを話したかっただけだから。気にしないで」
「だったら今からでも教えて今日中に読んで明日話そ」
「そしたら有紗ちゃんが教えた意味がなくなるから。気持ちはありがとう」
「ごめんなさい。また今度教えてください」
「なんで敬語なの。別に健人君は悪くないのに。でも有紗ちゃんから教えてもらっていたことは伝えてほしかったな」
また悪いことしちゃったな。星森さんは悪くないのに気を遣ってまで俺のことを悪くないって言ってくれて…。
6時を過ぎた頃に俺は星森さんに声をかけた。
「また遅くなるから今日はこれぐらいで帰ろう。また明日くればいいからさ」
前回の反省から下校時刻よりも早めに声をかけて一緒に帰宅するよう促した。
「え?!もうこんな時間?!」
「星森さんすごく熱心に読んでいたね」
「うん。すごく面白くて」
優しい口調で彼女は俺の顔を見て話すと、本棚へ向かい先ほどまで読んでいた本を返した。
「本借りないの?」
「うん。だって借りたら家で読み切ってしまうから」
「そっか」
なおさら借りればいいのに。彼女の真意が分からず、俺たちは一緒に図書室を出た。
「健人君は部活入らないんだよね」
図書室から出た後星森さんから聞かれた。
「うん、そうだよ」
「だったらさ、たまにでいいからさ文芸部に遊びに来てよ」
文芸部は3年生3人、2年生5人、1年生3人の計11人だ。他の部員は本を借りたらすぐ帰ったりおしゃべりしているだけだ。
「でも新島さんに悪いし」
静かに本を読んでいる新島さんには気が散るのではないか。と思った。
「わっ、私は山城さんがいても、だ、大丈夫ですよ」
「ほら有紗ちゃんもそう言ってるんだからさ。たまにでいいからさお願い」
「わかったよ」
「やったー」
何に対して「やったー」なのか俺は分からなかった。本を借りに来る時だけでも遊びに行くかと俺は思った。
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