第7話

「あれ、まだ健人残ってたんだ」

 私、高木菜那は健人の下駄箱を見て学校にまだいることがわかった。バスケ部の見学にでも行ったのかなと思っていた。なんだバスケしたいんじゃん。とこのときは思っていた。

「高木さん一緒に帰ろ」

「うん」

 吹奏楽部の友達に誘われ健人より一足早く下校していた。


「星森さんもうすぐ下校しないと先生に怒られるよ」

 と俺、山城健人は声をかけていた。

「あれ、もうこんな時間」

「もしかして気づかなかった?」

 ちょっとからかうように言ってみた。

「わかっていたなら言ってよ。いじわる」

 ちょっと頬を膨らませ拗ねているがその姿も可愛いからあまり罪悪感がない。

「ごめんって。後、文芸部に入る一年生がいるから紹介するよ」

 話題を変えるように俺の後ろにいた新島さんが出てきて自己紹介をした。

「は、初めまして、に、新島有紗です。い、1年C組です。よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね有紗ちゃん。私は1年D組の星森沙奈。沙奈でいいよ」

「あ、あの、沙奈さんは入学式のときに前に、で、出ていた人ですか?」

 やっぱり記憶に残るんだなあのスピーチ。と俺は感心していた。

「そうだよ。でも大したことないよ」

「い、いえ、ものすごくよかったです。わ、私にはできないことなので」

 誰だってあのレベルのスピーチができるなら苦労しないって。あれは星森さんがすごいだけだから。

「ありがとう。でも私もあまり得意じゃないけどね」

「え、あ、あんな凄かったのにですか?」

「うん。私苦手なの人前で喋るの」

 新島さんは納得してなかったようだがそれも無理はない。俺も同じ気持ちだったから。

「時間も時間だし帰ろっか」

「は、はい」

 星森さんの掛け声と共に図書室を出て三人で下駄箱に向かう。その際に星森さんと新島さんは本のことについて話していた。新島さんも星森さん同様様々なジャンルの本を読むことがわかった。


「きょ、今日は、あ、ありがとうございました。わ、私は、バ、バスなので、お、お先に失礼します」

 と学校の近くのバス停で新島さんと別れ二人で歩いていた。聞けばどこにあるか分からない遠くの町から来ていることだけはわかった。

「さっきのことまだ許していないんだけど」

「さっきのことって?」

「……最低」

 ああ、時間伝えなかったことね。今思い出した。

「ごめん。時間のことだよね」

「遅いよ気づくの、でも私も本教えてあげなかったからこれでおあいこね」

 新島さんに教えてもらったからよかったものの新島さんがいなかったらなんのために図書室へ行ったのかがわからなかった。

「健人君と有紗ちゃんはなんで仲良かったの?」

「合格発表の日に新島さんが印鑑を落としていたのを俺が拾ったからかな」

「え?!」

 そこまで驚かなくてもいいのに。まあ、そんな偶然が起きないもんな。

「そ、そうなんだ」

 どうして落ち込むんだ。変なこと言ったか俺。

「あ、あの…」

「どうしたの?」

「その話詳しく聞かせて」


 俺は合格発表のときの話をした。

•菜那と一緒に学校へ来たこと

•印鑑を落としていた眼鏡をかけた女の子と出会ったこと

•その帰り道菜那が俺のせいだと言うから喧嘩になったこと

話していくうちに星森さんは元気を無くしていき、気分転換も兼ねて近くのコンビニに立ち寄った。俺は肉まんを買い、星森さんは緑茶を買った。

「そんなことがなあったんだ」

 どうも変だ。数学の時間に俺が寝ていると優しく起こしてくれて、他の授業では分からないところを率先して教えてくれる彼女とは大違いだ。

「大丈夫星森さん?」

「だっ、大丈夫だよ。それよりも健人君はなんでその…」

「印鑑を落とした話のこと」

「そう、そのこと。なんで覚えているの?」

「そうだな。やっぱり印象に残っているからかな」

 そりゃ印鑑落とした後転ければ覚えてしまう。それぐらい衝撃的なことだったからな。

「そっ、そうなんだ。わ、私、あの、急がないといけないから、まっ、また明日」

「うん、また明日」

 急いで帰る星森さんを見送った。しかしさっきの星森さんの動揺がどうも気になってしまい先ほどまでの会話を忘れてしまいそうな初めて見る彼女の姿だった。

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