第6話

 入学して早一週間が過ぎた。俺、卓也、燈也の三人で休憩時間を過ごし、授業中は星森さんと会話をする日常が続いた。卓也はサッカー部に燈也はバドミントン部に入ったことで一人で下校することになった。

「健人君は今日も帰るの」

「菜那もいないし一人でね」

 菜那は吹奏楽部に入りクラリネットを始めた。以前に言ってたどおりフルートはやめたそうだ。

「よかったら一緒に文芸部の見学に行かない」

 神野高校の図書室へは教室がある棟とは別棟の3階にある。噂によれば小説や参考書だけでなく漫画やラノベも充実していて休憩時間には多くの人が訪れるとのこと。

「俺も図書室気になってたから一緒に行こうか」

「うん。でも健人君は本読むの?」

「漫画なら多少は」

 とはいえ流行りの漫画を読む程度で自分から進んで読んでいるとはいえない。アニメも同じだ。

「もったいない。よかったらおすすめ教えようか」

「読みやすいのなら」

 日頃から本を読んでいない人からすれば現文の教科書ですら苦痛を感じる。毎日読み続けることはできなくても最低でも月に1冊ぐらいは読めるようになりたい。

「健人君はなんのジャンルが興味があるの?」

「強いていうならミステリーかな」

 自分でも推理しながら考えることができるのもミステリー小説の醍醐味だ。とはいえその推理が当たることは大体ないけど。

「行ってみて考えようか」


 星森さんと一緒に図書室へ向かう最中に音楽室から様々な楽器の演奏が聞こえる。

「菜那ちゃんと健人君はどうしてあんなに仲が良いの。本当にただの幼馴染なの」

「ただの幼馴染だ」

 やっぱり側から見るとそう見えるのか。中学のときも周りから「付き合っている」「仲良し夫婦」と言われその度に否定していた。

「う〜ん、質問変えるね。いつからあの距離感なの?」

 考えたことなかった。一緒にいるのが当たり前だったから。きっかけはあまり思い出せない…。

「6歳ぐらいのときに出会ってからからかな。それ以降は小中高と同じで一番つきあいが長い友達だな」

 笑いながら言ったが菜那も同じ気持ちだろうな。でも星森さんは納得していなかった。

「菜那ちゃんは多分違うよ」

「どういうこと?」

「分からないならいいや。でも、時がきたら真剣に向き合ってあげてね」

「ああ、わかった」

 分からないがそのときになってから対応すればいいと思い、今は深くは考えなかった。


「うわ〜ものすごく広い」

 テンションが上がりいつもより声が高くなっているのだが、そのことは伝えないで俺は図書室を見渡した。

 噂どおり漫画やラノベも多くあり、休憩時間に生徒が来るのも頷ける。明日の昼休に卓也と燈也を誘って一緒に来るかと考えていた。

 自分の世界に入り込んでいる星森さんとは離れミステリー小説が多くある本棚の所へ行くと高い所にある本を取ろうと頑張って背伸びしていた女子生徒に出会った。

「代わりに取りましょうか」

「あっ、いえ、だ、大丈夫ですので。ご心配、あ、ありがとうございます」

 わざわざこちらを向き丁寧にお辞儀してきた彼女は眼鏡をかけていて身長も150センチも満たない小柄な人だった。あれ、もしかして…。

「まあそう言わずにこれも何かの縁なので、よいしょっと。これであっていますか?」

「あっ、あ、ありがとうございます」

 この反応からしてやっぱり合格発表のときの子なんだなと俺は思っていた。

「君の名前は?」

「わ、私ですか。に、新島有紗です。い、1年C組の人間です」

 オドオドしながらも丁寧に大きな声で自己紹介している彼女の姿は頑張って返事をしようとしていることが伺える。

「俺は山城健人1-Dで新島さんと同じ一年生だからあまり緊張しないで」

「そっ、そうでしたか。わ、私てっきり上級生の方だと思いまして」

「まあ、新島さんよりも背が高いからそう見えるだけだと思うけど」

 あれ前にあったことあるんだけど…。あまいいや。やっぱ同級生でも20センチ以上の差があれば怖いもんは怖いか。

「新島さんはミステリー読むの?」

「あっ、はい。えっと、や、山城君もミステリー、読むんですか?」

「俺はあまり読まないかな。よかったら新島さんのおすすめ教えてよ」

「い、いえ。わ、私もあまり詳しくないので…す、すみません」

「謝る必要ないのに。そうは言わずに新島さんのおすすめ教えて」

「わ、わかりました」

 その後新島さんからおすすめ教えてもらっていたらいつのまにか綺麗な三日月が見える時間になっていた。

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