第4話

 入学式の帰り道、俺は菜那に問い詰められていた。

「ふ〜〜ん。よかったね。隣が、び•しょ•う•じょ•で」

「たまたまだろ」

「それにしてはやけに鼻の下を伸ばしてしたけど」

 今日の俺の振る舞いが気に食わないそうだ。鼻の下伸ばしていたか俺。

「あんな美少女は彼氏がいてもおかしくないから諦めなさい」

 こんな菜那見たことない。今まで隣に可愛い子がいても何も言ってこなかったのに。どうして今日に限ってこんな感じなんだ。

「彼氏持ちの人間が普通初対面の人に下の名前呼びでアドレス聞くか」

「それもそうね。でも彼女はやめときなさい。あんた、多分気づいていなかったでしょうけどクラスのほぼ全員の男子から睨まれていたけど」

 落ち着いた口調で教えてくれた。でも、同じことされて素っ気なく対応できる男子高校生なんていないだろ。お前ら男たちも同じことされても鼻の下を伸ばさずにいられるんか。

「隣になった代償だろ。それは」

「次も同じならどうなることやら」

 そんな偶然むしろ大歓迎だけど。見たことない菜那の前では言えるはずなく俺は黙ってしまった。


「で、どうすんの」

「どうするって何が?」

「彼女作ること」

「高校のうちにつくるのが目標なだけで今すぐつくるわけではないからな。焦る必要はないだろ」

 高校生活のうちの1%も終わっていないのにつくれるほうがおかしい。

「お前はどうなんだ。好きな人いるって言ってけどそいつとの関係は」

 自分に振られると思っていなく動揺していたがすぐにいつもの菜那に戻り答えた。

「う〜ん進展なしむしろ後退」

 他の人のことは突っ込む癖に自分は後退しているとは。人見知りの性格が邪魔しているのか。

「アピールが足らないのはもちろんだけど変わりたくないもん。今の関係」

 雲ひとつない夕日に照らされた彼女の笑顔は嬉しさと共に切なさが混じったそんな雰囲気だった。


 家に帰るとリビングには入学式に来た母さんと父さん、中学3年生の妹である風香の3人がいた。

「おかえり。あんた、よかったわね菜那ちゃんと同じクラスで」

「合格発表のときと同じで俺一人だと心配か」

「あんた一人よりも菜那ちゃんといたほうが安心できるんだから」

 やっぱり母さんのなかでは俺<菜那なんだなとつくづく思う。本当に俺の親か。

「健兄は菜那姉さんと一緒で嬉しくないの?」

 風香は俺のことを健兄と呼び、菜那のことを菜那姉さんと呼ぶ。

「嬉しいは嬉しいが母さんほどではない」

「それもそっか。私は嬉しいけど菜那姉さんと会える機会が増えるから」

 風香は菜那のことが好きだ。菜那に憧れ吹部に入るぐらい実の姉のように慕い、風香のなかでは俺<菜那だそうだ。この家族俺より菜那のこと大切にしすぎじゃない。

「母さんも風香も菜那ちゃんのことよりも健人が入学したことを祝いなさい」

 俺の味方は父さんだけだった。その父さんも菜那のことを娘のように接しているが。


「それよりも健人、新入生代表スピーチの子すごかったな校長の眠たい話を吹き飛ばしてくれたわ」

 俺も同じこと思っていた。俺と父さんは親子なんだなと凄く実感した出来事だった。

「その子俺の隣の席だよ」

「よかったじゃん。健兄は何か話したの」

「話もしたし、RINEも交換した」

 風香がどんな子とで食いついてきた。いつもならこんなに食いつかないのに。こういうところも菜那を慕うなよ。

「めちゃくちゃかわいいし謙虚で優しいという印象。なんで彼女からRINE交換しようと言ってきたんだろう?」

「菜那姉さんやばいじゃん」

 なんで菜那の名前が出るのか分からないが時間は7時に差し掛かろうとしていた。ひとつのテーブルを4人で囲み、談笑しながら俺たちは夕飯を食べた。

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