第43話 エピローグ
ずっと気がつかなかった。惑星シヴァーを離れてもう三年も経つのに。でも部屋の机にある抽出しなんて開けることはないし、下手すればずっと開けないままなんて事も十分に考えられた。
一周忌なんて地球の一年換算は宇宙じゃなんの意味もない、意味もないけど陽葵は毎年その日には、石井と美玲が好きだった紅茶にお茶菓子を添えて自室のテーブルにお供えした。
抽出しを開けたのは詩でも書こうかと思いついて紙とペンを探したから。代わりに出てきたのは一通の手紙、色気のない茶封筒には『わしやで』と異様な達筆で書かれていた。陽葵はすぐに中身を取り出して読み始めた。
――ひまりへ――
ちゃんとした別れもせんと勝手なことして悪かった。でもな、自分ら絶対に反対するやん、そーいうとこあるやん? 死にたくなーい、とかゆうといて危険かえりみずに人助けとかするやん。どないやっちゅうねん。
でもな、ひまり。それでええねん。
人は自分の命よりも大切なものがあんねん。それが見つかった人間は幸せや。わしにとってそれがお前たちだった言う話や。血は繋がってない、いや一人ばかし怪しいやつもおるが……。まあそれは置いといて、自分らはわしの子供や。自分の大切な子供たちのために命かけんねん、これめっちゃいい死に方ちゃう?イケてるやん!
そーいうことや。
ひまりらしく生きるんや、ほいで大切な人を見つけるんや。それこそが人生やで。
ほな達者でな、いつまでもメソメソしとるなよ。寂しなったら子作りでもせんかい。優也か春翔どっちかにしとき。
――天才科学者 いっくん――
「なーにが天才よ、陽葵も漢字で書けないくせに……」
小さく呟くと陽葵は丁寧に手紙を畳んで茶封筒にしまった。机の抽出しにしまうと、昨日のことのように石井の言葉が蘇る。
宇宙には時間の概念が存在しない空間があんねん――。
陽葵は部屋を飛び出して司令室に向かう、なぜか心臓がドキドキした。部屋に入ると息を切らした陽葵に三人の視線が集まる。膝についた両手をはずして顔を上げた。
「また、二人に会えるよね?」
なんでそんな事を聞いたんだろう、不思議だった。でも優也と春翔は優しく微笑んだ、そして神宮寺がハッキリと答えた。
「当たり前だ、宇宙は広い。必ずあえるさ」
もしかしたら三人はとっくに手紙を読んだのかも知れない。陽葵は久しぶりに大きな声で返事した。
「うん!」
【第一部 完】
三千世界 〜惑星シヴァーと天才科学者〜 桐谷 碧 @aoi-kiritani
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