第42話 永遠の愛
「めちゃくちゃやな陽葵は」
重力装置、解を発動させた石井はユピテルの自宅に戻りソファで紅茶を飲んでいた。隣の美玲が微笑む。
「不思議な子ね」
「あいつは次元すら味方につけてまうのかも知れへんな」
紅茶には麻酔睡眠薬が入っている、重力に潰されての圧死の苦痛は生身ではとても耐えられない。二人にだんだんと心地よい睡魔がおとずれる。
「美玲……」
「なあに?」
「ええんか?」
「うん」
「ゼウスを作ったとき後悔してん」
「うん」
「たくさんの人が死んだやん」
「うん」
「わしの責任やん、て」
「うん」
「美玲……」
「なあに?」
「そー言う時は、あなたの責任じゃないわ! とか言うねん」
「ふふふ」
「まったく自分もたいがい変わりもんやで」
「ねえ?」
「なんやねん」
「好きって言って」
「はあ?」
美玲は左手の指を石井の手に絡めた。
「恋人つなぎ」
「なんやねんそれ」
美玲はじっと石井を見つめる、石井は思わず目を逸らした。
「す、好きやで」
そっぽを向いて呟いた石井に「わたしも好き」と美玲が返した。涙は出なかった。死は別れじゃなくて始まりだから。肉体は滅んでも意識が消滅することはない、だから。
「来世で会ったらまた一緒になろうや」
「うん」
二人は静かに瞳を閉じた、じょじょに力を失っていく体。それでも繋がれた手を離すことはなかった。永遠に――。
――そして惑星シヴァーの消滅から四十九日後、遠く離れた一つの文明も静かにその生涯を終えた。
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