第29話 地球外知的生命体
惑星シヴァーを最短距離で目指す謎の飛行物体、その存在を陽葵たちに知らせたのはユピテルに常駐する人型ロボットだった。ゼウス本体と通信可能でロボットを通じて遠隔操作する事も可能だった。
「ゼウス、敵船の規模は?」
ユピテルにある自宅リビングは緊張感に包まれていた。そんな中、神宮寺が人型ロボットに尋ねる。
『小型の宇宙船が一機。船内にいる生命体は感知できませんでした』
「地球人じゃないの?」
『地球内生命体の反応はありません』
陽葵は期待を込めて聞いたがゼウスの答えはにべもない。
「到着予定は?」
『およそ1176時間後になります』
日数にして四十九日間、まだ時間が残されている事には皆安堵したがどう対応するかは平行線を辿った。
「でもさ、小型の宇宙船なんでしょ? 旅行とかじゃないかな。うん、きっとそうだ」
「どんな惑星か分からない場所に単身乗り込むなんて考えられんな、春翔どう思う?」
陽葵の意見はすっかり無視して神宮寺が春翔に質問した。
「僕たちの移動過程、つまりこの惑星にくる途中で発見された可能性が高いと思います。ゼウスの出力はエネルギー量として大型の惑星を遥かに凌駕します。そんな飛行物体が高速で移動していたら高度な文明を保持している星ならまず見逃さないでしょう」
「真っ暗な森の中で懐中電灯頭につけて走っとるようなもんやからな」
「発見してから軌道確認、その先を辿れば惑星シヴァーは簡単に発見できる。本来なら砂漠の中で一欠片のダイヤを見つける作業のお手伝いをしちまったわけか」
「何にせよ友好的とは考えにくいわな、単身乗り込んで来るのはそれだけ戦闘力、機動力に自信がある証拠や。皆殺し、もしくはこの星もろとも消し飛ばすか……」
「ちょっとちょっと、いっくんまでそんな真剣な顔して、冗談でしょ?」
陽葵は場の空気を和ませようと努めたが緊迫した空気は変わる事がなかった。この時点で陽葵たちの選択肢は二つ。敵船を迎えてゼウスで撃ち落とす。もしくは敵船が惑星シヴァーに到着する前にゼウスで逃げる。前者の場合、相手の宇宙船がゼウスの性能を上回ると、この星の人類は滅亡。後者は残り一年の充電を完了せずに飛び立った時に無事次の惑星まで辿り着けるかが未知数だった。
「どちらにせよ、みんなの意見を聞かんとあかんな」
「ああ」
その日のうちに惑星に住むすべての人間、及び幻影を含めた会議が行われた。意見の大半は戦闘になるのは避けたいが、この星は離れたくないと言う物だった。
「侵略者に鉄槌を!」
「ゼウスで迎え撃て!」
中でも声高々に侵略者迎撃の音頭を取っていたのは果実に紛れてゼウスに侵入していた木村だった。ゼウス本体から不審者が潜入しているとの報告を受けた神宮寺が飛空艇で駆けつけると、うっかり搭乗してしまったと頭をかく木村が、まさか不知火に会いに行っていたなどと疑う人間はいなかった。
一方で、得体の知れない宇宙人と戦うなんて無謀。そんな命懸けのギャンブルには到底付き合えない、さっさと宇宙船で逃げ出すべきだと言う逃走派もまた数多く存在した。この二つの意見は同時進行が不可能、ゼウスで逃げ出せば惑星シヴァーは諦めるしかない。まだ敵船との距離があるためゼウスの超望遠レンズですら全容が掴めていない。結局は全貌が明らかになるまで様子を見るとの事で一旦は解散を余儀なくされた。
「混乱を避けるために言わなかったが全員を連れて次の惑星に辿り着くのは不可能だ」
神宮寺は陽葵たちだけをゼウスの司令室に呼び出してハッキリと言った。意味が分からずに「どうして?」とだけ陽葵は聞いた。
「もともと二人分しか食料も用意していない、一人二人、いや。十人や二十人くらいなら問題ないが三百人を超えるとなれば話は別だ。当然エネルギーも余分に食う、そうでなくても本来ならあと一年は充電しなきゃならんのだ。宇宙空間でエネルギー切れになるのは目に見えている」
神宮寺は白衣からタバコを取り出してライターで火をつけるとゆっくりと白い煙が天井に吐き出された。
「えっと、カプセル! 冬眠させちゃえばお腹空かないよ」
「残念ながらカプセルは二つしかない」
「幻影! 幻影になってれば良くない?」
「ゼウスにその設備はない」
「えっと……じゃあ……」
陽葵は頭をフル回転させるが良案は浮かばなかった、しかしそれは石井と春翔も同様だった。陽葵は激しく降り注ぐ落雷で跡形もなく消え去った人たちを思い出した。二度とあんな思いはしたくない。何もできずにただ茫然と見ている事しかできなかった過去の記憶。
「この惑星の問題や、陽葵らは逃げたらええ。相手が絶対に敵かもわからんしな」
「むり!」
陽葵はその場で立ち上がって歯を食いしばった、自分たちだけ逃げるなんて冗談じゃない。十四年の間に沢山の人たちと繋がりが出来た。それぞれに夢や悩みがあり懸命に生きている。助け合い、時には喧嘩もした。同じ数だけ仲直りして決して短くない時間を共に過ごした。陽葵は死の恐怖よりも仲間を失う悲しみのほうが圧倒的に上回る事を実感した。
「戦おう!」
「まあ、そう言うと思ったよ。元はと言えば俺たちの責任だしな。きっちり掃除してから次の星に向かおう」
陽葵の決意に神宮寺はあっさり同意した。春翔はうんうんと頷き石井は目を細めて下を向いた。神宮寺は指を咥えて敵船を待っているよりもゼウスで先制攻撃する方が得策だと提案した。いくら宇宙が広大で超越した科学技術を要する惑星があったとしても攻撃力、旋回力においてゼウスが負ける事など皆無。神宮寺は絶対的な自信をゼウスに持っていた。
「せやな! コイツが負けるわけないわ」
石井はバサバサバサッと羽を広げてテーブルの上に乗ると三人の顔を順番に見た。
「春翔、こいつらは抜けとるからしっかりフォローしたれよ」
「はい!」
「陽葵、自分はアホやけど周りに勇気や希望を与える不思議な力を持っとる。最後の最後、ホンマにキツい時にそれがきっと力になるわ」
「うん!」
「モジャ男、ワシほどやないが自分も中々の天才や。二人を護ったれよ」
「ふんっ! 言われんでも分かってる」
「サヨナラは言わさへんで、必ず戻ってこいや!」
「いっくんは行かないの?」
「ああ、この姿じゃ流石に無理や。それにいきなりわしら全員が姿消したらユピテルの住人たちが不安になるやろ。どの道、自分らが失敗したらみんなお陀仏や。人型ロボットがあればかなりの距離までは通信可能や、何かあったら連絡しいや」
その日は、深夜まで四人で語り明かした。はじめて出会った日からあっという間にすぎた十四年。関西弁を使う珍妙な生き物は天才物理学者のアルベルト=アインシュタインだった。愛嬌たっぷりの天才はまるで陽葵の本当のおじいちゃんのように優しく、時に厳しく接してくれた。人間の生きる意味、死ぬ理由。いまだ辿りつかないその答えの片鱗を彼は示してくれた。
そのままソファで眠りについてしまった陽葵は夢か現実か分からない夢幻の狭間で確かに石井の声を聞いた。しかし、それはすぐに記憶の奥底に入り込んでしまい朝起きた時にはすっかり忘れていた。
――ゼウス。最優先事項の命令や! 危険を感じたらそのまま次の惑星に向こてくれ。絶対にこの三人の命だけは護るんや、分かったな。
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