衰退した魔力が唯一出来ること

CHOPI

衰退した魔力が唯一出来ること

 材料は簡単。好きな布、布に合わせた糸、適量の綿、ほか自分が『これを付けたい』と思ったもの。


 コツは愛情。込められるだけの愛を精一杯。不器用でも大丈夫。あなたが一生懸命になったものは必ず形になるはずだから。


 そこに生まれるのは、あなただけの、特別ぬいぐるみです。


 ******


 嘘か本当か。この街の外れ、街の者もあまり近づかないと言われている森の奥。古い洋館が立っていて、そこには魔法使いが住んでいる。


「……って言い伝えがあるから、あんまりあの森には近づかない方がいいぞー」

 そう言いながら街案内をしてくれるのは、この街の長の息子だった。

「へぇ、そうなんですね」

「あぁ。まぁどうせ言い伝えでしかないけどな、あの森が迷いやすいのは本当だから、入るのは止めておいた方が良い」

 この街に引っ越してきて早数日。とても住みやすそうな街で、ボクは心底ホッとしていた。ちょうどよい気候、ちょうどよい発展具合。全てが今のボクにはちょうど良く、それに数日間しか住んでいないボクでもわかるくらい、ここに住む人たちの人間性もまた、今のボクにはちょうど良かった。引っ越し早々ご近所の挨拶も済ませて、近隣のことで何かわからなければ、この街の長のところへ行くと言い、と助言をもらって行けば、その長が息子に街案内をするよう話をしてくれて今に至る。


「この後、めしでもどうだ?」

 人のいい彼がお昼に誘ってくれたが、先ほどの言い伝えが頭をちらついて離れなかった。上手いこと言い訳を探して丁寧に断ると、『残念だけど仕方ないな、そしたらまたの機会に行こうぜ!』とその場で解散となった。


「さて」

 一人になったボクは、街の外れの森を目指した。古い洋館とやらをどうしても見たかった。森に近づくと結界の気配を感じて、これが迷子になる原因か、と納得する。ずんずんと目的地に向かえばそんなに歩かずとも、目的の洋館へたどり着いた。


「何か御用でしょうか?」

 扉をたたく前から勝手に開いた洋館に足を踏み入れてみれば、自分の身長よりも少し大きいテディベアが歓迎してくれた。……歓迎、という空気では無いか……、とりあえず、反応はしてくれた。

「キミの主人はどこ?」

 そう尋ねるとテディベアは少し首を傾げて、『驚かないの?』と言う。

「ん?何に?」

「ボクが、お話しできることに」

「……あぁ、そうか。普通はびっくりするのか」


「テディ!」

 テディベアに遮られた視界の奥から、女の子の声が聞こえた。

「キミがこの子の主人?」

 そう聞けば『そうだよ』とテディベアが答える。

「……何?何か私に御用?」

 そう言いながらボクに近づいてきたその女の子は、だけど一瞬で顔色を変える。

「あんた、魔法、使えるんだ?」

 だけどその問いには首を横に振るほかなかった。

「……んーん。使えない。感じられるけど、今のボク自身が使えることは無くて」

『だから、その』と言葉を続ける。

「教えてほしくて。魔法」

「はぁ!?冗談じゃないわ、嫌よ!」

 女の子はそう言うけど、ボクはなお食い下がる。

「お願い!ボクも、キミのそのテディベアみたいな、相棒が欲しいんだよ」

 そういうと、女の子は困った顔をした。そしてボクにこう告げる。


「材料は簡単。好きな布、布に合わせた糸、適量の綿、ほか自分が『これを付けたい』と思ったもの。コツは愛情。込められるだけの愛を精一杯。不器用でも大丈夫。あなたが一生懸命になったものは必ず形になるはずだから。そこに生まれるのは、あなただけの、特別ぬいぐるみです」


 ******


「私、魔法なんて使えないのよね」

 彼女の話を聞くところによると、ここの結界はかつて、彼女のおばあちゃんが張ったものらしい。彼女自身は魔法なんて使えなくて、だけど一個だけ、特技があった。彼女が想いを込めて作った物たちは、意思を持つ、のだ。それがさっきのテディベアらしい。

「ここはどうしたらいいかな?」

「ここはこう縫って……、そう良いかんじ」

 話をしながら、時にレクチャーを受けながら……、気が付けば洋館の外は夕日に染まっていた。


「ありがとう。家に帰って、今度はちゃんと一から想いを込めて作ってみるよ」

「たぶん、あんたならうまくできるわよ」

 森の入り口まで見送りに来てくれた彼女はそう言うと、テディベアの待つ洋館へと帰って行った。

「……よし、頑張るぞ!」

 ボクは気合を入れ直し、街の洋裁店へ向かう。まずは材料集めからだ!


 ******


 ――数日後。


「ねー!ボクにもできたー!!」


 そう叫びながら、フワフワな鎧の騎士を連れて森に入っていく彼の様子を、見た者がいたとか、いなかったとか。

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