衰退した魔力が唯一出来ること
CHOPI
衰退した魔力が唯一出来ること
材料は簡単。好きな布、布に合わせた糸、適量の綿、ほか自分が『これを付けたい』と思ったもの。
コツは愛情。込められるだけの愛を精一杯。不器用でも大丈夫。あなたが一生懸命になったものは必ず形になるはずだから。
そこに生まれるのは、あなただけの、
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嘘か本当か。この街の外れ、街の者もあまり近づかないと言われている森の奥。古い洋館が立っていて、そこには魔法使いが住んでいる。
「……って言い伝えがあるから、あんまりあの森には近づかない方がいいぞー」
そう言いながら街案内をしてくれるのは、この街の長の息子だった。
「へぇ、そうなんですね」
「あぁ。まぁどうせ言い伝えでしかないけどな、あの森が迷いやすいのは本当だから、入るのは止めておいた方が良い」
この街に引っ越してきて早数日。とても住みやすそうな街で、ボクは心底ホッとしていた。ちょうどよい気候、ちょうどよい発展具合。全てが今のボクにはちょうど良く、それに数日間しか住んでいないボクでもわかるくらい、ここに住む人たちの人間性もまた、今のボクにはちょうど良かった。引っ越し早々ご近所の挨拶も済ませて、近隣のことで何かわからなければ、この街の長のところへ行くと言い、と助言をもらって行けば、その長が息子に街案内をするよう話をしてくれて今に至る。
「この後、めしでもどうだ?」
人のいい彼がお昼に誘ってくれたが、先ほどの言い伝えが頭をちらついて離れなかった。上手いこと言い訳を探して丁寧に断ると、『残念だけど仕方ないな、そしたらまたの機会に行こうぜ!』とその場で解散となった。
「さて」
一人になったボクは、街の外れの森を目指した。古い洋館とやらをどうしても見たかった。森に近づくと結界の気配を感じて、これが迷子になる原因か、と納得する。ずんずんと目的地に向かえばそんなに歩かずとも、目的の洋館へたどり着いた。
「何か御用でしょうか?」
扉をたたく前から勝手に開いた洋館に足を踏み入れてみれば、自分の身長よりも少し大きいテディベアが歓迎してくれた。……歓迎、という空気では無いか……、とりあえず、反応はしてくれた。
「キミの主人はどこ?」
そう尋ねるとテディベアは少し首を傾げて、『驚かないの?』と言う。
「ん?何に?」
「ボクが、お話しできることに」
「……あぁ、そうか。普通はびっくりするのか」
「テディ!」
テディベアに遮られた視界の奥から、女の子の声が聞こえた。
「キミがこの子の主人?」
そう聞けば『そうだよ』とテディベアが答える。
「……何?何か私に御用?」
そう言いながらボクに近づいてきたその女の子は、だけど一瞬で顔色を変える。
「あんた、魔法、使えるんだ?」
だけどその問いには首を横に振るほかなかった。
「……んーん。使えない。感じられるけど、今のボク自身が使えることは無くて」
『だから、その』と言葉を続ける。
「教えてほしくて。魔法」
「はぁ!?冗談じゃないわ、嫌よ!」
女の子はそう言うけど、ボクはなお食い下がる。
「お願い!ボクも、キミのそのテディベアみたいな、相棒が欲しいんだよ」
そういうと、女の子は困った顔をした。そしてボクにこう告げる。
「材料は簡単。好きな布、布に合わせた糸、適量の綿、ほか自分が『これを付けたい』と思ったもの。コツは愛情。込められるだけの愛を精一杯。不器用でも大丈夫。あなたが一生懸命になったものは必ず形になるはずだから。そこに生まれるのは、あなただけの、
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「私、魔法なんて使えないのよね」
彼女の話を聞くところによると、ここの結界はかつて、彼女のおばあちゃんが張ったものらしい。彼女自身は魔法なんて使えなくて、だけど一個だけ、特技があった。彼女が想いを込めて作った物たちは、意思を持つ、のだ。それがさっきのテディベアらしい。
「ここはどうしたらいいかな?」
「ここはこう縫って……、そう良いかんじ」
話をしながら、時にレクチャーを受けながら……、気が付けば洋館の外は夕日に染まっていた。
「ありがとう。家に帰って、今度はちゃんと一から想いを込めて作ってみるよ」
「たぶん、あんたならうまくできるわよ」
森の入り口まで見送りに来てくれた彼女はそう言うと、テディベアの待つ洋館へと帰って行った。
「……よし、頑張るぞ!」
ボクは気合を入れ直し、街の洋裁店へ向かう。まずは材料集めからだ!
******
――数日後。
「ねー!ボクにもできたー!!」
そう叫びながら、フワフワな鎧の騎士を連れて森に入っていく彼の様子を、見た者がいたとか、いなかったとか。
衰退した魔力が唯一出来ること CHOPI @CHOPI
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