第36話「サイコパスチビ ~前編~」

「どうなってんだ……」


現在教室内にいた秀吉、寧々、茶々。

もうじき朝のHRが

始まる時間だというのに

教室内には自分達以外誰もいなかった。


「秀吉様、多分アイツら

秀吉様にビビって学校来れないんですよ」


「なるほど」


「とんだヘタレ共だね」


ガラガラガラ


3人が会話をしている最中

教室内に誰かが入って来た。


「……あら!?アナタ達だけ!?」


教室内の生徒の少なさに驚く

若いグラマー女性。

彼女の名は羽田野由唯(はたの ゆい)。

16話にて懲戒免職を食らった

前担任の長野の代わりとして

このクラスに赴任してきた新米教師である。


「はい、僕達だけです」


秀吉は答える。


「あらあら……それはそれは……

まぁ気にしてても仕方ないし

朝のHR始めましょうか!」


「はい」






キーンコーンカーンコーン


「は~い朝のHRはここまで!

それじゃあ3人共、今日も1日

明るく元気に頑張りましょう!」


「「「は~い」」」


HRが終わると羽田野は

授業の準備のため職員室へと戻っていった。


「さて……

2人共、俺ちょっとヤボ用に出掛けてくるよ」


「復讐ですか?」


「うん」


「私も一緒に行きたいです」


「私も」


寧々と茶々は秀吉にお願いする。


「ごめん……それは無理だ……

2人には復讐してる時の

俺の邪悪な部分を見せたくないんだ」


「む~……」


「しょぼん……」


シュンとなる2人。


「ごめんよ……

2限までには戻って来るから……」


ブオンッ


秀吉は2人にそう言い残して

どこかへと消えていった。






~某一軒家~


「ハァ……ハァ……

いつでもどこからでも来い……!!

腐れポンコツ……!!」


全身を銃や刃物で武装し

2階の自室で秀吉の奇襲に備えていた男。

この男の名は木河幹太(きがわ かんた)。

秀吉と同クラスでバスケ部所属の

ドチビ(158cm)である。


「ハァ……ハァ……

警察上等……有罪上等……服役上等……」


木河は秀吉を殺す気でいた。

なぜなら秀吉も自身を殺す気で来ると

思っていたからだ。


ミシッ……ミシッ……


「!!!!」


突然自室の扉の向こうから

階段を上る足音が聞こえた。

両親は仕事で県外に出張に行っていて

この家には自分だけしかいないというのに。


「おいでなすったか……!?」


チャキッ


木河は手に持っていた

アサルトライフルを扉の前に構える。


ミシッ……ミシッ……ミシッ……


どんどん近づいてくる足音。


ドクン……ドクン……ドクン……


高鳴る鼓動音。


「ハァ……!ハァ……!」


乱れる呼吸。


ミシッ……ミシッ……


扉の目の前で足音がピタッと止んだ。


「………徳川か……?」


扉の向こうにいる何者かに

問いかける木河。


「……ああ……俺だ」


木河の予想的中

相手は秀吉だったようだ。


「……お前がここに来た理由は知ってる……

俺に復讐するためだろ?」


「ほう……よく分かってんじゃねぇか」


「あの時の……

ボウガンの件を恨んでるんだろ……?」


「………………」





~3ヶ月前~


「逃げんなよ!!

的が絞れないだろ!!」


「や、やめてくれぇぇぇ!!!」


昼休みに校舎内で

ボウガンを持った木河が

秀吉を追い回していた。


「1発だけ!1発だけでいいから

射たせてくれっての!

新作物の威力を試してみたいんだよ!」


「無理無理無理!!!

シャレにならないから!!!

木とかで試してくれって!!!」


「木じゃダメだ!!

生き物で試してたいんだよ!!」


「なら野生の鹿とかでいいじゃない!!!」


「それもダメだ!!

スリルが足りない!!

やっぱり人間じゃないと!!」


「だからってなんで俺なんだよぉぉぉ!?」


「それはお前がこの学校で

1番の弱者だからだ!!

うらぁっ!!」


ビュンッ


木河は矢を放った。


ズビシッ


矢は秀吉の右太ももに命中。


「ビンゴ!!」


「ぐああああああああああ!!!!」


ズシャッ


廊下に倒れる秀吉。


「うぐ……!!ああ……!!」


矢が刺さった右太ももからは

ドクドクと血が流れていた。


「ほっほ~!!

すっげぇ深く刺さってるじゃん!!

徳川!!痛いか!?」


「い……痛い……!!

痛い痛い痛い!!!」


「ふむふむなるほど……

右太ももは痛いと……じゃあ反対は?」


ズビシッ


木河は秀吉の左太ももにも矢を放った。


「ああああああああ!!!!」


「左も同じくらいか……

じゃあ次は右肩」


ズビシッ


「がああああああ!!!!」


「ほうほうなるほど……

太ももに比べると余裕ありそうだな」


このような調子で

木河は秀吉の体に無数の矢を射ち込んでいった。


~数分後~


「……ぐ……ああ……!!」


「すっげぇ!!

サボテンだぜこりゃ!!」


計45発の矢を射たれ

全身から血を流し

苦悶の表情を浮かべていた秀吉。

そしてそれを見て興奮していた木河。


プルルルルルルッ


突然木河の携帯に友人からの着信が入る。


ピッ


「もしもし?」


「あ、幹太?お前どこいんの?」


「え?何で?」


「何でって……お前今日の朝

昼休みバスケやろうって

言ったじゃん

もうみんな体育館集まってんぜ?」


「あ!そうだった!

わりいわりい!今すぐ向かうわ!」


「ったく~……急げよ~?」


ピッ


通話を切り

木河は体育館に向かおうとする。


「ま……待って……!!救急車……!!

救急車を呼んでくれ……!!」


「やだよめんどくせぇ

自分で呼べよ」


「そ……そんな……!!」


その後結局木河は

秀吉に特に救済処置をする事もなく

その場から立ち去っていった。


「ヤバい……目が霞んできた……

もう……ダメだ……無念……」


過度な出血により秀吉は意識を失った。

そしてそのまま

天に召されるかと思われたが

たまたま近くを通りかかった

女子生徒が救急車を呼んでくれた事により

なんとか一命を取り留める事となる。








「…………地獄の苦しみだったぜ……あれは……」


上記の事を思い出し

怒りで体をプルプルと震わせる秀吉。


「……相当……恨んでるみたいだな……」


「当たり前だろボケが!!!!

逆にあんな事されて

何も思わない奴なんているか!!??

ああ!!??」


「それもそうだな……」


「木河……お前にも同じ様な……いや……

あれよりも更に上の苦痛を味わわせてやるぜ」


そう言って秀吉が

木河のいる部屋の扉を開けようと

ドアノブを回した直後。


「ああああああああ!!!!」


ドパパパパパパパパパパッ


木河は構えていたアサルトライフルを

扉に向かって乱射。


「こふっ!?かはっ!!!」


秀吉の全身に弾丸が直撃する。


「死ね死ね死ね死ね!!!」


ドパパパパパパパパパパッ

……カチッ……カチッ……


弾切れ。

全弾撃ち尽くした模様。


「ハァ……!ハァ……!

や……殺ったか……!?」


木河はゆっくりと扉を開ける。

するとそこには蜂の巣になり

絶命していた秀吉の姿。


「……へ……へへ……!

やった……やったぜ……!!

殺してやったぜぇぇぇ!!

A組のみんな!!

もうこれでコイツの復讐に

怯える事なんてないぜ!!」


秀吉の死体を見ながら

大歓喜する木河。

そんな木河の背後から

何者かが話しかける。


「人を殺して大はしゃぎとはな……

お前はマジでサイコ野郎だな……」


「!?」


誰だと思い振り返る木河。

なんとそこには秀吉の姿。


「は!?え!?」


木河は慌てて後ろを確認する。

そこにはちゃんと秀吉の死体があった。


「ふ……2人……!?」


「2人じゃねぇよ」


立っている秀吉の後ろから

もう1人秀吉が出現。


「なっ……!?3人!?」


「3人じゃねぇよ」


さらに後ろから

4人目出現。


「4人……だと……!?」


「4人じゃねぇよ」


廊下のトイレの扉が開き

その中から5人目出現。


「ど……どうなって……!?

はっ……!!そ……そうか……!!

前に話してたチートってやつか……!!」


「「「「はい」」」」


(くっ……!!この狭い場所で

この人数は捌ききれない……!!)


そう思った木河は

即座にサングラスを装着し

胸元にぶら下げていた閃光手榴弾を

足元に放った。


カッ


「「「「眩しい!」」」」


秀吉達が目を眩ましている間に

木河は家から脱出するべく

1階に下りて玄関の扉を開けた。


「!!!???!!」


木河は外の光景を見て戦慄した。

なんと1000人は越えてるであろう

大量の秀吉が自宅の周りを囲っていたのだ。


「な……なんだこの数は……!!」


「驚いたか?」


上から謎の声。

パッと見上げると

スーツを着て葉巻を咥えた秀吉が

空中に立っていた。


「俺が本物だ」


「お前が……!!」


「おい、やれ」


秀吉(本物)は

自身のクローン達に

木河をリンチするよう指示を出す。


「うおおおおおおおおおお!!!」


無数の秀吉のクローン達が

一斉に木河に襲い掛かる。


「くっ……!!この人数はマズイ!!」


木河はすぐさま家の中に避難し

玄関扉の鍵を掛ける。


バンバンバンッ!!!


ガチャガチャガチャガチャ!!!


「開けろオラァ!!!」


「チビが悪あがきしてんじゃねぇぇ!!!」


「殺すぞぉぉぉぉ!!!」


ロックされたドアを何度も叩いたり

ドアノブを何度も回したりしながら

怒鳴り散らす無数の秀吉達。


「くっ……どうする!?どうする!?」


木河はとりあえずリビングに移動し

窓のカーテンの隙間から外の様子を伺う。


「~~~!!!」


外で1人の秀吉が

何やら誰かを呼びつけていた。


「何やってんだ……?」


険しい表情で秀吉達を観察する木河。


ブゥンブゥンブゥゥゥン!!!


突如秀吉の群れの奥から

チェーンソーを持った秀吉出現。


「チェ……チェーンソー!?」


ギィィィィィィィィィィッ!!!


「!!!」


チェーンソー持ち秀吉は

ロックされてる玄関ドアを切り始めた。


「クソッ!!

突破されるのも時間の問題か……!!」


パリィィィンッ!!


「な、何だ!?」


2階からガラスの割れる音。

気になって急いで上ると

廊下の窓が割られ

そこからハシゴを使って

1人の秀吉が家の中に入ろうとしていた。


「おい~す木河~

邪魔するぜ~」


「ちぃっ……!!

させっかよ!!」


ブンッ


木河は近くに置いてあった花瓶を

中に入ろうとしてる秀吉に向かって

投げつけた。


ガシャアンッ


「がはっ!!」


ドシャアアンッ


「おわぁぁぁぁ!!!」


「ぎゃああああ!!!」


秀吉は顔面に花瓶を喰らい

その勢いでハシゴごと地面に落下。

それにより下にいた他の秀吉達も

巻き添えを喰らった。


「クッソ……!!ヤベェ……!!

一刻も早くここから脱出しないと!!

どうする!?どうする!?」


必死に脱出方法を考える木河。

そしてちょっと考えている内に

ある方法を思いついた。


「……!!そうだ……!!

あの部屋のベランダから

隣の家の屋根に飛び移れば

逃げられる!!」


あの部屋……両親の寝室の事である。

木河は急いでそこに向かった。


ガチャッ


「んめぇな~」


「お前取りすぎ」


寝室の扉を開けると

中で先程登場した4人の秀吉達が

流しそうめんをやっていた。


(無視だ無視!!)


木河は秀吉達をスルーし

ベランダの窓を開けて

隣の家の屋根に飛び移った。


「よし!脱出成功!」


木河はそのまま

屋根から屋根に飛び移りながら

どこかへと逃げていった。


「………逃げられたか……」


逃げる木河の様子を

秀吉(本物)は千里眼で観察していた。


「どうしましょう?」


1人のクローンが秀吉(本物)に尋ねる。


「……半径20km圏内に包囲網を張れ

それから近隣住人達に奴の手配書を配れ

何が何でも奴を捕らえろ」


「うっす!おい聞いたかお前ら!

いくぞぉぉぉぉぉ!!!」


「おおおおおおお!!!」


秀吉のクローン達は早速行動を開始する。


「フフフ……逃げられると思うなよ?木河……」


秀吉(本物)はニヤリと笑いながら

そう呟いた。

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