ぼくたちのいっしょう
ザイン
ぼくたちのうんめい
(熱い…………狭い…………苦しい)
身動き1つとれない暗闇の中、揺れる不気味さそれが僕を不安へと駆り立てる。
最後に見た景色は、明るい場所に並べられた棚に無数に広がる品々。僕よりも何十倍もある生き物がそれらを所々隙間の空いた入れ物に納めていく。
僕の目の前にいる生き物は、何故か微笑むと僕を他の品々同様に隙間の空いた入れ物に納めた。
それからというもの、ずっと真っ暗だ。
何がどうなっているのかがわからない。それが僕をより恐怖に駆り立てる。
「ただいまー」
なんの音?音が複数聞こえる。落ち着いた音に優しい音に元気な音…·……
「ワァー!パパ!!開けていい?」
「勿論!」
開ける?何を?急に光が差し込み僕は思わず【目】を閉じる。
「あ〜〜〜!欲しかったぬいぐるみさんだ!!パパありがとう!!!」
ぬいぐるみ………ってなに?
目の前の元気な生き物は僕を軽々と持ち上げる。………そうか僕が【ぬいぐるみ】なのか
「私奈津美(なつみ)!よろしくねベアちゃん。」
先輩達の言葉を思い出した。
(我々ぬいぐるみは幼い人間を喜ばせる為にあるのだ)
そうか奈津美と名乗ったこの娘を僕はこれから喜ばせる為に生きるのか
僕は己の生きる意味をようやく理解した。
奈津美は元気な女の子だ。毎日奈津美の両親と同じように僕に挨拶する。
僕は返事などしないのにとても嬉しそうだ。
なにもしていないのに、なんで奈津美は嬉しそうなのか
僕にはよくわからない。
奈津美は僕達ぬいぐるみが大好きな子のようだ。僕の先輩達『ぴょんちゃん』『パオくん』『トラさん』と僕と一緒に遊んだ。【おままごと】なる奈津美のお母さんがよくやっていることの真似事や【お医者さんごっこ】という奈津美が一度連れてってくれた。白い服を着た人達の真似事を奈津美はよく僕達とやった。
奈津美が寝る時に一緒の布団に入るのが段々日課になっていた。
一度家族のお出かけに僕を連れて行ってくれたことがあった。その出掛け先で僕と奈津美が離れ離れになってしまった。
僕はいつの間にか奈津美が側にいないことが不安だった。
暫くすると、奈津美は両親と一緒に僕を見つけた
「ベアちゃん。ごめんね!ごめんね!!」
大粒の涙を流しながら謝る奈津美。喜ばせるべき相手の奈津美を悲しませてしまっていることに申し訳なさを感じたが
力強く抱き締めてくれる奈津美に悪い気はしなかった。
大きなカバンを背負うようになると、奈津美の友達がよく奈津美の部屋に来た。
僕達を使って遊ぶ奈津美はとても楽しそうだ。何より僕は常に奈津美が使ってくれた。それが嬉しかった。
そんな日々に変化が訪れたのは奈津美が制服なる整った服を着てよく出掛けるようになった頃。
奈津美は僕達とあまり遊ばなくなった。机に向って何かを書いていたり、出掛けたり………僕達に
おはよう
とも言ってくれなくなった。
何か奈津美に嫌な事をしたのか?僕に思いあたる事はない。
どうして遊んでくれないの?奈津美!!
僕の気持ちはなんともいえないモヤモヤした気分だ。
制服という服装が変わる頃。
奈津美は僕達に見向きもしなくなった。
僕は奈津美のベットの棚に置かれているからまだましだ。先輩達は真っ暗なクローゼットの中に何年もいる。
奈津美を何年も見ていないどころか、光すら見ていないのだ
僕もいつか先輩達みたいに彼処に
そう思うと奈津美が怖くなった。
奈津美と一緒に過ごして随分と経つがこんな気持ちは始めてだった。
奈津美と目が合う度に僕はいつしか緊張をしていた。
奈津美がよくわからない。
時々………ベッドに寝転ぶと僕を持って話しかけてくる
「どうしたらいいのかな私………」
奈津美の話している内容はよくわからない。奈津美はなんの返事もしない僕に一方的に話すと
「ありがとう」
そう言って布団の中で僕を寝かせてくれた。ほんの僅かな一時は奈津美が僕のことを忘れていないということを感じさせてくれて嬉しかった。
そんな日々も段々無くなり奈津美が部屋を開けることが多くなったある日。
奈津美が自分の部屋を整理し始めた。
そうか………僕と奈津美はこれまでなんだ………
僕は察した。奈津美にとって僕はもう必要無い存在なのだと
黒に統一された凛々しい服装に身を包んだ奈津美はクローゼットを懐かしそうに整理する。
先輩達は袋に入れられていた。
(ベアよさらばだ)
(元気でね)
(あばよ)
袋越しに先輩達からそんな声が聞こえた。
クローゼットを整理し終わると、奈津美はこちらにやってきた
「……………」
自分の心臓が高鳴るのがわかる。僕の運命はどうなるか検討はついている。
奈津美!人思いにやってくれ!!
僕は叫んだ。
奈津美は僕を…………力強く抱き締めた。
えっ!?
僕は驚いた。
「今まで………ありがとう」
奈津美の瞳から流れる一滴が僕の身体に落ちる。
奈津美は僕の事をこんなに思ってくれていたんだ。
そう思えたらたとえどう成ろうが覚悟は決まった。
奈津美は久しぶりに僕を手に持ちあるいてくれた。
「奈津美お姉ちゃん〜」
出会った頃の奈津美のような女の子が奈津美に近寄る。
「このぬいぐるみさん?お姉ちゃんがくれるってぬいぐるみ?」
「そうだよ」
!?
奈津美!どういうことだ!?なんで見ず知らずの子どもに僕を………
奈津美は女の子と同じ目線に立つとじっとその無垢な瞳を見つめた。
「このぬいぐるみさんはね。お姉ちゃんの大事なぬいぐるみさんなの。大事にしてくれる?」
「うん!大事にする!!」
「…………じゃあ。どうぞ」
「ありがとう!奈津美お姉ちゃん!!」
奈津美の手から女の子の手に僕は渡った。
「よろしくね、ベアちゃん」
我々ぬいぐるみは幼い人間を喜ばせる為にあるのだ
そうか………奈津美はもう幼い女の子じゃないんだ。僕と別れるということは奈津美は立派な大人になったんだ。
あの言葉の真の意味をようやく理解した気がした。
「ベアちゃん。奈津美お姉ちゃんとバイバイしよ」
ゆっくり揺られながら長年暮らしてきた奈津美の家が遠くなる。
新たな持ち主となった女の子の乗る乗り物を
奈津美は手を振りながらずっと見送ってくれた。
わかったよ奈津美。今度はこの子を幸せにするよ
僕は決意を新たにし新しい持ち主との生活を始めた。
ぼくたちのいっしょう ザイン @zain555
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