第56話「迷宮の中にて」

 成功は、僕一人の可能性もあるので、仲間を待つことなく先に進む。

これは事前に決めている事で、それに他にも入れた機体があったとして、

それら機体の性能を考えても、直ぐに追いつくだろうし。


 ダンジョンの中は、全長30メートルクラスのロボが入れるだけであって、

かなり広く。発行する石があって、それが照明代わりになり明るかった。


(何だか、新鮮だ)


ゲーム中では、屋内のステージはあるけど基地なので、

こういう洞窟の中をロボに乗って進むというのは初めてだった。

それと聞いた話じゃ最初こそ洞窟だけど奥に行けば、

人工物が散見されるらしい。あと後ろから、仲間たちがやってこないので、


(入れたのは僕たちだけなのかな?)


通信機で連絡を取ってみたけど、


「繋がらない」


ダンジョンの外には電波が届かないようだった。


「まあいいか」


一機しか入れないことを想定して、十分な準備はしている。


 そして洞窟を抜けると、巨大な谷へと差し掛かる。

そこには最初人工物である石橋があった。その橋は巨大でその上、丈夫だから、

ロボが数機乗っても大丈夫なほどらしい。まあ今回は一機だけだけど。

それとここも天井に発光する石があるので明るい。

あとやはり、ロボに乗って石橋を渡るという事自体初めてだから、

ここでも、新鮮味を感じた。


 まあ、転生して以来のすべての事が、僕とって初めての事、

ロボに乗ったり、冒険者として魔物を倒したり、戦艦を指揮したり、

どれも元の世界ではできなかった事。

ただアニメや小説、ゲームでは見たことがあるから、

初めてなのに見慣れている感じがした。

でも、こういうシチュエーションは見たことないから、余計に新鮮に感じ、

妙にワクワクした。


 僕はその感覚を楽しみながら、谷の奥へと進んだんだけど、

丁度、橋の中間に来た辺りで、


『待って!何か来るよ!』


と言うカナメの声とモニターにも熱源の接近を知らせる表示があり、

ブースターを吹かせて、回避行動をとる。

さっきまでいた場所に砲弾のようなものが飛んできて、爆発が起きる。

因みに、橋は無傷。


「何なんだ!」


そして砲弾が飛んで来たに向けて、モニターがズームする。

そこに見えたのは、大砲を持ったロボだった。


 大きさはこっちと同じく30メートルほど

デザインは悪魔の如く異形で、中世の騎士の鎧風な所もある。

つまりオートバタリオン搭載の起動兵器に似ていた。

ただ頭部の形状が異なっていて赤く輝くランプのようなものが付いていて、


(一つ目……)


ふとそんな事を思った。それと機体から生体反応がない。

人が乗っていない即ち、無人機のようだった。この点も搭載機と同じ。


「まさか、魔族の!」


直後、


『また来るよ』


今度は別の方向から攻撃があった。そっちのほう確認すると、

同型の機体があった。敵は一体だけじゃないようだった。


 この状況に、


(こんなの聞いてない)


過去に、クロウから聞く形でギガント迷宮に入り生還した人間の話を聞いていた。

強力な魔物に出くわしたという話はあれど、

こんな奴らに出会ったという事は聞いていなかった。


 とにかく砲撃を避けつつ、

フェンリルナックルやヴァルキリーアイズで攻撃を仕掛け、

数体は倒したけど、倒しきれずに、攻撃も避けきれず


「!」


数発被弾、そこにブースターが含まれていて、

機体は落下を初めて橋にも戻れない。


「仕方ない……」


早々に戻る事は諦め、機体は谷底へと落下しつつも、僕は回避に専念した。

その後、攻撃が届かなくなってきたのか砲撃がやんだ。


 無事なブースターを最大限に活用し、上昇はできないが、

落下速度を緩やかにする事が出来た。

とにかく僕は、落下する機体を安定させようと、ブースターの出力調整を行う。

実は、無事とは言ってもブースターの中には、

さっきの攻撃でいつ壊れてもおかしくない物も多くあって。

無事着地するには、状況を見ながら、うまく調整しないと、いけなかった。


 そして地面が近づいてきたから、気が抜けちゃって、

調整に失敗し、壊れかけのブースターが停止。


「!」


僕は着地に失敗して、機体を地面にめり込ませた。

コックピットにかなりの衝撃があり、地面が大きく揺れたに違いない。


「ユズノ、大丈夫!」

『うん、どうにか……』


地面に近いとはいえ、かなりの衝撃と、

先の砲撃の影響もあって、機体はまともに戦える状況じゃなかった。


 僕はラグナロクを降りると、機体は尻もちを付いた形で地面にめり込んでいる。

なお谷底だけど、発光する岩のお陰で明るい。

そしてラグナロクはユズノに姿を変えた。彼女も同様の体制で、


「イタタタタ……」


と言いながら、起き上がって来たので、


「大丈夫?」


と言いつつも、彼女はいつも通り裸なので、思わず目を背けてしまう。


「大丈夫……別の気にしなくてもいいのに」


気にしなくてと言うのは、怪我の事なのか、

それとも裸である事なのか、その辺は分からない。


 その後、彼女は服を着た様だったので、改めて彼女の方を向いて、


「こんな目に遭わせて、ごめん」

「いいんだよ。それにショートカット出来たんだからいいじゃん」


目的のアルティポーションは遺跡の奥、つまり最下層だ。

谷底は、最下層に近かった。普通に進んだら大回りだから、

近道には違いない。しかし谷は深いから、

ロボの乗っていても近道で使うにはリスクが高くて誰もやらない事だった。


 しかし最下層に近づくと徘徊している巨大魔物も強力になっている。

聞くところ、ラグナロクなら一体でも大丈夫そうな奴らばかりだけど、

機体は落下の影響でダメージを受けていて、

人間体になっている間は、自己修復が働くから、

しばらくしたら直るけど、それまでは機体は使えず、

戦えないので、岩陰に隠れて魔物を避けるという事になった。


 ただ、避けるのはあくまで巨大魔物だけで、

普通の魔物もいるので、そっちの方には、対処できるように、

武装はしている。ただ最下層近くになると普通の魔物も強いという。

その中でも強力な魔物がいて、それに対抗する為、

この時僕らは首に特殊なチョーカーをしていた。


 実際このチョーカーは直ぐに役に立った。

その時僕らは、ラグナロクはまだ使えないので、

ギガントリザードマンをやり過ごしていた。

因みに、僕らと戦っていた個体と違って武装はしていない。


「ふぅ……」


と一息ついているとユズノが、


「あっ、うさちゃんだ!」


と叫んだ。ユズノが指し示した場所には、ウサギがいた。


「かわいい~」


と言って向かって行くが、


「近寄っちゃいけない!」

「えっ?」


次の瞬間、ユズノの首にウサギが噛みついていた。


「きゃあぁぁ!」

「ユズノ!」


僕は近づき、必死にウサギを引き離そうとする。


「痛い!痛い!痛い!」


ウサギは、中々離れないが、何とか引き離した。

そして離れたウサギは、魔法銃で撃ち殺した。


「ユズノ、大丈夫」

「うん……大丈夫だよ」


彼女は首を抑えていたが、すぐに手を離した。

傷は無いものの、内出血を起こしていた。


「チョーカーのお陰で助かったけど、ネックハンターの話はしたよね」


さっきのウサギは、ウサギの姿をした魔物ネックハンター、別名首狩りウサギ。

一撃で人間を含めた獲物の首を狩る魔物で、

岩陰などに隠れ待ち伏せをしていて、油断した獲物を狩るほかに、

普通のウサギと変わらず可愛らしい外見で騙された人間を狩る事もする。


 僕らが付けているチョーカーは、

ネックハンターの首狩りを防ぐマジックアイテムだ。

ただ首を落とされるのを防ぐだけで、ダメージを完全に防げるわけじゃない。

実際彼女は、首に内出血を起こすほどのダメージを受けていた。


「ごめん……つい可愛くて……」


と申し訳なさげに言う。


「気を付けてね。チョーカーだって限界があるんだから」

「うん、気を付ける」


そうは言うけど、彼女はドジっ子なところがあるから、

僕の方も気をつけなければ行けない。


 さてネックハンターの死体はそのまま残っている。


「何で魔石にならないんだろ……」


事前に聞いた話なんだけど、

このダンジョンじゃどんな魔物も魔石にならないという。

理由は不明だけど、一説には、ここの湧き水と関係があるって言われている。

ふと思い立って死骸を回収した後、少し進むと、ちょうど湧き水があったので、

それを少しすくうと、ユズノの首に塗った。


「これ、何?」

「話したはずなんだけど……」


事前に説明したんだけど、ユズノは覚えてないか聞いてなかったのか、

変な顔をする。そして直ぐにユズノの内出血が治った。


「最深部の水だけでなく、他の所から湧いている水にも治療の効果があるんだよ」


アルティポーションとは雲泥の差で、この程度の傷しか治せない。

普段からこの水を飲んでいるから、

体質が変わって、魔物が魔石化しないんじゃないかって言われている。


「ところで、魔物の死骸はどうするの」

「一応、僕は捌けるから、捌いて料理しようかなって」


ゲーム中で手に入れた解体スキルがあり、

それが現実にも反映されている、

ゲームでは魔物ではなく、野生動物だったけど、

まあ似たようなもので、実際に同じ要領で捌く事が出来た。

あとユズノも分析ができるので彼女にみてもらった結果、


「毒はないよ」


との事。


 その日の夕方、巨大魔物が入ってこれない横穴を見つけて、

そこで野営することにして、

夕食は僕が捌いたウサギを調理して食べる事にした。

食料は持ち込んでいたけど、もしもの為に、

調理器具や調味料も持ち込んでいた。

もちろん収納空間に入れているから荷物にはなってないよ。

それと料理の腕は、ゲームで得たスキルじゃなく、僕が生前に得たものだ。


 この世界で手に入れた魔石を使ったカセットコンロのようなものを使って、

油を引いたフライパンを熱し、そこに調味料を振りかけた肉を放り込む。

「ジュー」という音と香ばしい匂いが漂う。


「美味しそう」


ユズノが呟く。いい感じに両面焼けて、ネックハンターのステーキの完成だ。


 出来上がった料理を、二人分焼いていたんだけど、それぞれの皿に乗せ、

フォークとナイフを添えて彼女分を渡し、一緒に食事をした。

味はと言うと、食感は鳥の胸肉に近かったが、


「何とも個性的な味だね……」


と引きつった笑いで言うユズノ。

確か、不味い訳じゃないけど、凄く微妙な味だ。


「ナツキの料理の腕は確かだから、この肉が悪いんだよ」


不味くて食えないわけじゃないから、せっかく作ったという事もあり、

平らげる事にした。


 すると頭の中に、


「スキル『転移(短距離)』取得」


と声が聞こえて来た。詳細も頭に入ってくる。

短い距離だけど転移ができるみたいだった。


(そういえばネックハンターは、転移が使えるんだったんだったな)


ユズノの首に嚙みついたときに、実は転移を使っていた。

ただ彼女から引き離して、魔法銃で倒された際は使わなかったけど。


(まさか、肉食べたから、スキルが使えるようになったとか……)


昔、読んだ異世界転移系の小説にそんな話があったけど、

そういう奴なのだろうか。ただユズノの話すと


「私はそういうのないけど……」


という事だったので、僕だけの特性なのかもしれない。

ただゲーム中にはそういう話はなかった気がするけど。


 ともかく食事も食べ終えたところで、

明日のことも考え、早いけど寝ることにして、

収納空間に入れたあった魔物除けの結界を発生させるマジックアイテムや、

あと寝袋などを用意しようとすると、ユズノは、


「あのさ、もう変身できるよ」


数分後、僕らは横穴から出て、ユズノはラグナロクに変身し、

僕はコックピットの中にいた。コックピットには就寝モードと言って、

座席が変形してベッドみたいになり、ご丁寧に布団まで出てきて

そこで寝る事ができるようになる。


 ただ横穴を出て巨大魔獣が跋扈する空間で過ごさねばならない。

一応、魔物避けと光学迷彩で、安全は保たれるけど、

横穴の方がより安全な気がしていた。でもユズノの頼みで、

半ば押し切られる形で、こういう事になった。


 なおコックピット内は空調が効いていて快適な空間になっている。

だけどユズノに負担をかけてる気がして、


「横穴の方がユズノもゆっくり休めるけど」

『いいの、就寝モードを使ってくれると

私も心地よく眠れるから、

それにナツキが中にいると思うと、安心できるの』


そう言われては、それ以上は言えず、そのまま就寝することに。

しかしロボであるヒロインが心地よく眠れるというのは初耳だった。


 用意された布団を座席が変形したベッドに引き、

その中にも潜り込むと


(暖かい……)


布団の温かさとコックピット内の空調のお陰なんだけど、

なんだか、ユズノに抱きしめられているような気持ちになった。


『お休み、ナツキ』


とユズノの声が聞こえると、妙に幸せな気分になって、


「お休み……」


と言って僕は眠りに落ちた。

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