第7章「迷宮にて」
第55話「ギガント迷宮」
アニタは自身が滞在する部屋で一人、
マジックアイテムで誰かと連絡を取っていた。
「色々と大変でしたね」
「そっちの方はどうですか?」
「勇者様は荒れてますね。
獲物は横取りされたうえ、女王陛下にも怒られましたからね」
と言った後、
「ところでカラドリウスの方は?」
「まあ、謎は多いですけど思った通りですね。
しかしカラドリウスと接触しようと、リルナリアに向かう途中に襲われて、
死にかけたところを助けてもらって繋がりができると言うのも、
運がいいのか悪いのか」
ナツキたちとの出会いは、あくまで偶然である。
「その代償は、仲間たちの死ですからね。だからこそ、
彼女たちの事を見極めなければいけません。
『真の勇者』かどうかを、その為に、しばらくリルナリアにいます」
「頑張ってください」
「ところで、魔族の方は、どうですミアさん」
通信の相手は勇者の恋人であるミアだった。
「オートバタリオンと言うか、ミュルグレスが無くなった事で、
少し騒ぎになってましたが、今は落ち着いています。
ただアンスガル王子の擁立は諦めていないようですから、お気を付けを」
「分かりました」
その後、少し会話をした後、通信を終える。
そして彼女は天井を見ながら
(必ずこの世界を女神から解放して見せる。この世界の平和のために……)
決意満ちた眼差しで、そんな事を思うのだった。
あれから、カレンは冒険者として中々の活躍をしている。
髪型はおさげ髪にして、あと左目に眼帯をつけることで、
魔族であることを隠している。そんな彼女には、相棒が出来た名前はエミリー。
銀髪サイドポニー、小柄で、華奢な体つき、顔は可愛らしいけど生意気な感じで、
落ち着いているカレンとは対照的で、活発そうな少女だ。
彼女の正体は、カレンを仲間にした直後に、
ガチャにラインナップされたロボ、キャリバーンの化身だ。
推奨化身セットガチャで推奨されたヒロインでもある。
キャリバーンと言うの漆黒のロボで、全体的に鋭いフォルムで、
頭部が鳥を思わせるデザインで、
しかも鳥の様な戦闘機形態に変形するので凶鳥と呼ばれていたり、
また全体的には悪魔っぽいデザインをしている。
グラヴィセルク同様、ゲーム中では、これまではCPU専用機として、
戦闘中に乱入してきて、手を焼いた存在。
あと機体の性能と、名前の元ネタが同じ作品であるからか、
エアリエルと関係があると噂されるが公式からの発表はない。
ともかく、今回プレイヤブルとして実装されたようで、
その強さを知る僕としては思わずガチャを回してしまったね。
そしてエミリーは、それなりに戦闘力があるので、
丁度仲間になったばかりのカレンと組ませてみたのだが、
二人は相性が良いみたいだ。戦闘面ではカレンが上を行くが、
現場での交渉となると不得手みたいで、エミリーが担当するほか、
どれだけ強くても一人だと大変なようで、戦闘中でも補助役として活躍している。
また冒険者としてだけでなく、
ロボであるキャリバーンとカレンとの相性もいいらしく。
彼女の愛機となっていて、冒険者としてだけでなく、
パイロットとロボとしても相性が良く、そんな訳で先も述べた通り、
彼女は中々の活躍をしていた。
あと状況の変化としては、「夜の蝶」を仲間にした事だ。
因みに課金で手に入れるキャラでもある。
そして夜の蝶と言うのは、商店経営の一つ、「酒場」の従業員向けのヒロインたち、
ハッキリ言えばキャバレーのキャストだ。
ただそれだけではなく、諜報員としての側面も持ち、
クロウたちと違って、単独ではなくチームでの行動を基本とする。
そして僕が王子にやった事と、同じような事、
まあ破廉恥だけど、色仕掛けで近づき情報を得るような事も出来る。
一応、クロウも出来るけど。
それは置いておき、
「夜の蝶」を仲間にしたのはヒロイン達からの要望があったからだ。
なお基本課金で手に入れるヒロイン達は知らない事が多い。
ただ「夜の蝶」は知られている。
そしてなんで要望があったかと言うと、
王子にした事を僕に二度とやらせない為との事。
まああんな事は、しょっちゅうある事じゃないけど、
ただ、クロウが「勇者の一族」の方に掛かりきりなので、
身近な場所の情報収集が、ドローン一択の状態で、
ドローンには情報を引き出す力はないので、そういう事ができる諜報要員が、
必要な部分があったので、「夜の蝶」を仲間にして、「酒場」を開くことにした。
歓楽街にちょうど空き店舗があり、そこを購入した。資金があったのと、
いわく付きじゃなかったので、ヘルメス商会の様にトラブルはなかった。
店名は「ザナドゥ」、理想郷と言う名の如く、来てくれたお客様にとっての、
夢のような世界であって欲しいという願いを込めた。
店をやるからには、情報収集だけでなく、お客様の事を考え、
最高のおもてなしを提供しなきゃいけないからね。いいお酒も用意している。
まあ用意してくれたのは夜の蝶のリーダーで店の店長でもあるエルネスタだけど、
彼女は、お酒には詳しいから。
そのエルネスタを筆頭に「夜の蝶」達が美人で、高い接客力があるおかげで、
直ぐに常連客ができ、繁盛している。
同時に客を通していろんな情報が集まって来る。
どうでもいい噂話も多いけど、今後の役に立ちそうな話も多い。
なお役に立ちそうな情報は、冒険者ギルドでも手に入る事がけど、
客の多くは仕事帰り冒険者で、ギルドに報告する前にやって来る人が多くて、
「夜の蝶」達の話術で、酒の席で口を滑らす形になって、
結果ギルドよりも早く情報が集まってくる。
とにかく店は収益と情報収取の面で役に立っていた。
カレンとエミリー、そして「夜の蝶」や「ザナドゥ」の開店など、
あれから状況は変化していった。そして今僕は、ラグナロクの乗って、
洞窟の中にいた。全長30メートルクラスのロボが、
まるで人間になったかのように思えるほどの巨大な空間だ。
ここはギガント迷宮と呼ばれるロボで入る事が出来るダンジョンだ。
そして僕とユズノはロボットにも乗らず、物陰に隠れて、巨大魔物を避けていた。
どうして、僕はここに居るのか。事の発端はエルネスタから話を聞いた事だった。
「夜の蝶」のリーダーである彼女はブラウンのロングヘヤーで、
豊満な体つき、瞳は緑で、その顔立ちは美しく、
その表情は慈愛に満ちていて、どこか母性を感じさせる魅力を持っていて、
高級店のナンバー1ホステスと言う感じがする。因みに歌が上手い。
ただ彼女は露出度の高めのセクシーな衣装を常時着ているので、
目のやり場にこまる。因みに「夜の蝶」は、みんな似たような格好だけど。
それはともかく、起床して朝食を食べに食堂をに向かって、
戦艦内の廊下を歩いていた所で、
夜の仕事なので、逆にこれから寝る予定の彼女とばったり会ったのだが、
「ちょうどよかった艦長、冒険者絡みの話なので、一応お伝えしますが……」
昨夜、常連になっている冒険者ギルドの職員が、
酒の席で、これから募集を募る依頼の事に関して、
聞いてもないのに口を滑らせたという。
「ギガント迷宮での収集の依頼だそうで」
「ギガント迷宮……」
ギガント迷宮の事はクロウから聞いていた
行先はダンジョンだけど、依頼は収集。
「迷宮の奥にある。アルティポーションを取ってきてほしいとの事です」
アルティポーションと言うのは、
ギガント迷宮の地下で湧いている天然のポーションとの事。
僕らの世界に言うなら「奇跡の水」と言う所。
ポーションと似た力を持つが、効果は段違いで、
普段ポーションが治せない傷や病気を治してしまうという。
過去に再現が試みられたけど、未だに成功していない。
依頼人はとある女性商人、女手一つで娘を育てているとの事だけど、
その娘が病気で、その治療の為らしい。
ギルドの職員は、女性とはプライベートでの付き合いがあり、
娘とも見知っているわけだから、酔って我が事のように話していたという。
「受け手の無さそうな依頼らしくて、お客さんが悲観して泣いてたんです」
「聞いてはいたけど、職員が悲観するとなると、相当なんだな……」
ギガント迷宮に関する依頼は、基本的に指定の依頼ができない。
掲示板に張り出し、冒険者が名乗り出るのを待つしかない。
因みに掲示板への張り出しは今日からなので、
早出しの情報とはいえ、特に何か影響があるわけじゃない。
「我々に影響のある情報かは分かりませんが、
一応冒険者絡みなのでお伝えしました」
そう言うと彼女は去って行った。
彼女から話を聞いたことが、この依頼を受けるきっかけと言っても過言じゃない。
その後、僕はギルドの掲示板の前に行き、
そして実際にギガント迷宮の依頼書を見つけた。
内容もエルネスタから聞いたとおりだったけど、冒険者たちの反応は、
「またギガント迷宮か、俺は無理だったな……」
とか
「俺も無理だな、あそこのダンジョン、機体を選ぶからな……」
などなど、 あまりいい反応では無かった。それと、
「アニタさんならいけるんじゃねえか」
という話も出た。
聞くところによれば、彼女は過去にギガント迷宮に行きの依頼を受け、
その依頼を達成していると言う。
しかし、そのアニタさんは、いまリルナリアを一時的に離れている。
理由は王家の行事に参加の為、アニタさんは冒険者として働く傍ら、
王族としての公務もこなしている。とにかくしばらくは帰ってこれない。
しかし、病気の子供への薬なので急ぎの依頼でもあるので、
アニタさんを待つ余裕はなさそうだった。
ちょうど手が空いているということもあって、
僕は依頼を受注することにして、ギルドに申し出た。
だからと言って受けれるわけじゃない。
ギガント迷宮の依頼の受け手がいないのは、
中に跋扈する魔物が巨大魔物だからとか、ライレム推奨だけじゃない。
ある迷宮のある特性から、受けたくても受けれないという事があるからだ。
そして、さっそく現場に向かいダンジョンの前で依頼人と会う。
依頼人は、帰ってくるまで待っているとの事だが、
その間の護衛要員は、僕らとは別に雇っていた。
さてダンジョンへの入り口は岩山にあるんだけど、
妙な紋章が書かれた岩の扉が入り口を塞いでいた。この扉が問題だった。
これは、特定のロボに、特定のパイロットが、乗った状態で、
紋章に触れることで開くもので、要件は不明で、
しかも両方がそろわないと開かない。
冒険者が言っていた人と機体を選ぶというのはそういう事で、
これが、受けたくても受けれない理由でもある。
ダンジョンに入れなければ仕事はできないんだから。
ダンジョンの前にはラグナロクを含めた複数の機体と、
僕を含めたパイロットも用意していて、
取り敢えず順番に試していくことになっていた。最初は僕とラグナロクに試すと、
「開いた」
一回目で成功だった。幸先が良さそうな気がした。
ただ開いたからと言って、入れる機体は扉の要件を満たしたものだけ、
他の人間や機体が入ろうとすると、見えない壁に弾かれるという。
あと急ぐ必要がありそうなので、成功した機体から順次入る事にしていた。
「それじゃあ、先に行くから」
「お気をつけて」
と通信機越しにカナメが返事をくれた。そして、中に入ると扉は閉まる。
そしてこの後に起きた出来事の所為で、
僕らはロボットに乗れず巨大魔物から身を隠すという状況になるのだった。
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