第54話「後処理(2)」

 僕が、食堂に行くと、丁度ユズノもやって来て、二人で遅めの朝食を食べや

食事をしながら、雑談をして、丁度朝食を食べ終わる頃、

ミュルグレスが変化した女性が目を覚ましたという報告が来た。

僕らは彼女の分の朝食を持って医務室に向かった。


 そして医務室に着くと、あれから着替えさせたのか、

パジャマ姿の女性が、ベッドで上半身を起こして、

静かにしていた。昨夜は目を閉じていたから気づかなかったけど、

彼女に左目は青白い光を放っていた。


 そして僕が部屋に入ると彼女は、こっちを向き、


「艦長……」


とだけ言った。メロディの時と同様、僕の情報が頭に入ってるんだろう。

僕の方も概要的な情報が入っているので、名前を知っている。


「おはよう、カレン。朝ごはん持ってきたよ」


彼女に朝食を渡すと、よっぽどお腹がすいていたのか、

ガツガツと食事を勢いよく食事を食べた。


 食事の後、僕は彼女に、


「君は一体、何者なんだ?」


と尋ねると、


「私は、カレン・アヴァロン。魔族……」


と答えたが、ここまでは僕も知っている事、

それ以上の事になると、彼女は悲しげな顔で口を噤んでしまった。

話せないと言うより、話すのがつらいと言う感じに見えた。


 ヒロインガチャが発生しなかった事と、

苗字があると言うところから、彼女もメロディと同じで、アンデッドではないけど、

何だかの理由でミュルグレスに取り込まれていたと考えられる。

この件があって、機体に人が取り込まれている場合、

擬人化すると、その人間になると言う事らしい。

そして魔族と言ってもその姿は千差万別で、

カレンは外観的には片目が青白く光るのが、特徴の一族らしい。

なおメフィストも同じだとか。


 そんなカレンは、詳しい話はしないものの、


「あなたのお陰で私は自由になれた。お礼にあなたの元で働く」


と言ってくれた。


「いえ、お礼を言うべきなのは僕らですよ。

僕らに警告をくれたのは、あなたですよね?

それにミュルグレスの動きを抑えてくれたのも」


あの謎の声はカレンで、ミュルグレスの異常は、彼女のお陰だと、

僕は思っていた。ただ彼女は、


「何かしていたような気がするが、覚えてない」


との事だった。


 彼女と接していて、隠し事はあるけど、

なんとなくだけど、信頼置けない人間じゃない気がした。


(いつの日か、本当の事を話してくれるだろう)


そう思った僕は、彼女の過去を深く詮索はしなかったし、

側にいたユズノも、彼女の元を離れた後に


「いつか、話してくれるよ」


と言って、僕と同じ考えのようだった。


 そんな彼女は、様々な武器や魔法を扱い、高い戦闘力を持つほか、

使う魔法も、攻撃だけでなく、回復、補助なども使えるほか、

魔族の、正確には彼女の一族特有の力、スキルが使えるとの事で、

攻守補助、なんでもござれの正にオールラウンダーなので、

冒険者として活躍してもらう事にした。

ただ、この世界に置いても魔族は人間の敵とされているので、

左目をアイパッチで隠すことで人間の冒険者として活動することになる。

なおこの事は、彼女から要望でもある。


 カレンは冒険者として、活躍するとして、

ミュルグレスは当面使用はしないようにした。

その力がチートだからと言う事もあるけど、

クロウから、ある事実を聞かされたからだった。


 僕は、彼女にミュルグレスの事を調べてもらった。

魔族の兵器であるオートバタリオンの中から出てきたのと、

あと見た目や魔族であるカレンが取り込まれていた事も待って、

出自が魔族であることは間違いないと思い、

勇者の元に資料があるんじゃないかと思ったから。


 案の定、情報があったけどその内容は、


「ミュルグレスって言うのは、勇者のロボのデュランダルと対をなす、

魔王のロボさとさ」


僕は、当初見た目からミュルグレスの見た目から、

「魔王ロボ」と呼んでいたけど、実際はその通りの魔王の専用機で、

かつて勇者に魔王が倒された際に、

生き残った魔族たちが回収して、その後の消息は不明だと言う。


「しかし、何でそれがオートバタリオンの中に?」

「その辺は資料がないから、何とも言えない」


ただオートバタリオンの破壊を上位の魔族が嫌がっているのは、

戦艦と言うよりもミュルグレスの事か心配なのだろうか。


 とにかくこの事もあって、ミュルグレスは使用を控えることにした。

魔王のロボを持ってると、妙な疑いを掛けられ、

「勇者の一族」に討伐の大義名分を与えかねないし、

魔族たちも黙ってないはずだから、トラブルの元になりかねない。


 ただ僕らが所有していることがバレなくても、

ミュルグレスを失った魔族が、どんな手に出てくるか不安ではあった。

なおカレンはオールラウンダーであるが諜報能力は低めなので、

魔族の動きを探らせることは出来そうになかった。

とにかく、警戒しつつも今は様子見しか出来なようだ。







 魔族の拠点では、何人かの魔族が集まり、


「メフィストめ、まさかオートバタリオンを持ち出すとは」


魔族たちはメフィストが何かするとは知っていたが、

この様な事になるとは想像していなかったのだった。他の魔族は


「もっと早く気付いていればミュルグレスだけでも、回収できたはずが」

「お前だけの、所為じゃない何分夜中だから、みんな寝ていた」


そう魔族たちがやってこなかった理由は、

間抜けな話であるが、夜中でみんな寝てたせいだった。

一部の魔族が、偶然夜中に目を覚まし、事態を知った時には、

オートバタリオンは破壊され、中にあったミュルグレスは消息不明となっていた。


「残骸が無かったから他のライレムと一緒に持っていかれたに違いない。

恐らく持って行ったのは人間だろう。ただ勇者じゃないらしい。

もしかしたらカラドリウスの可能性もある」


実際にそうなのだが、魔族たちは確証を得ていない。


「何者であれ人間には、まともに扱えない代物だ。いずれ暴走する。

そうなれば自然と居所がわかるだろう」

「しかし、そうなれば回収が大変だぞ」

「その時は仕方ないさ、それに被害を被るのは人間だ、

我々の被害は微々たるものさ。まあ捜索はする必要はあるが、

その時を待つのも一つの手だ」


ここに居る者たちはミュルグレスが「書き換え」によって、

暴走するような事が起きなくなっているという事を知らない。


 ここで話題は変わって


「問題は、メフィストだ。何度迷惑を掛けられてきた事か」

「しかし、あれでも功績があるからな。あとアンスガル王子との関係もあるしな」

「しかし、魔王の血筋だからと言って、好き勝手し過ぎだ。

それに今回の件が原因で王子が捕まったではないか、

奴を王にして、デルフィド王国を滅茶苦茶にする計画がとん挫したではないか」

「いやそれなら、まだ機会はあるだろう。しかしメフィストの処遇は考えないとな」

「うむ、そうだな」


そして彼らはメフィストの事で、話し合うのであるが、

指摘のあった過去の功績と、「魔王の血筋」がネックとなり、

中々話がまとまらないのであった。






 王子が捕まって数日、店に来たアニタさんによると、

処遇が話し合ってる状況だが、

今回を切っ掛けに、叩くとホコリが出て来たとの事で、


「余罪も多いですし、未遂とはいえ魔族と組んで破壊活動ですからね。

神託があるので処刑はないですが、幽閉は間違いないでしょう」


とのことだった。勇者の方は魔族との事は知らなかったものの、

オートバタリオンが現れるという話は聞いていて、

その事に対して周りへの注意喚起を怠った事で

厳重注意は受けたものの、それ以上はお咎めなしらしい。


 とにかく王子の処遇が決まった事で、最初にアニタさん助けて以降の出来事が

ようやく終わったような気がした。ただ念の為、ルビイは王都に行って、

引き続き、王子の状況を確認するとの事。


 しかし一連の出来事を振り返ると、


(なんだか異世界ものに良くある話だよな)


助けた人が実はお姫様で、しかもお家騒動が起きていて、

そこに巻き込まれる。まさに定番と言える。


(それにカレンの事も残っているし)


彼女が抱えているものが、何なのか分からないけど、

それが明かされるとき、大きな出来事に巻き込まれるような気がするけど、

まだ先の話だろうと思う。

アニタさんが、スポーツドリンクを買って帰った後、

僕は戦艦に戻り、その日は仕事は無いので、

疑似空間の日本家屋に行って、和室で横になって、今後の事を色々考えるのだった。








 アニタは自身が滞在する部屋で一人、椅子に座って、

マジックアイテムで誰かと連絡を取っていた。


「色々と大変でしたね」

「そっちの方はどうですか?」

「勇者様は荒れてますね。獲物は横取りされたうえ、

女王陛下にも怒られましたからね」


と言った後、


「ところでカラドリウスの方は」

「まあ、謎は多いですけど思った通りですね。

しかしカラドリウスと接触しようと、リルナリアに向かう途中、

襲われて、死にかけたところを助けてもらって繋がりができると言うのも、

運がいいのか悪いのか」


ナツキたちとの出会いは、あくまで偶然である。


「その代償は、仲間たちの死ですからね。だからこそ、

彼女たちの事を見極めなければいけません。

『真の勇者』かどうかを、その為に、しばらくリルナリアにいます」

「頑張ってください」

「ところで、魔族の方は、どうですミアさん」


通信の相手は勇者の恋人であるミアだった。


「オートバタリオンと言うか、ミュルグレスが無くなった事で、

少し騒ぎになってましたが、今は落ち着いています。

ただアンスガル王子の擁立は諦めていないようですから、お気を付けを」

「分かりました」


その後、少し会話をした後、通信を終える。


 そして彼女は天井を見ながら


(必ずこの世界を女神から解放して見せる。この世界の平和のために)


決意満ちた眼差しで、そんな事を思うのだった。

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