第53話「後処理(1)」

 魔王ロボ、書き換えの際得た情報によると、

名前はミュルグレスって言うんだけど、それをカラドリウスに運び込んだ後、

飛空艇が接近しているので、


「ステルス機能作動後、急速潜行」


取り敢えず海中に潜ったが直ぐには移動しない。飛ぶ鳥跡を濁さずで、

破壊の証拠と、そもそも大きすぎて回収は不可能だから、

戦艦の方は残しておくとしても、量産型ロボの方は回収しないといけないからだ。


 格納庫には事前に連絡を入れていたので、

既にプリシラが待機していてマギカシアになった後、僕が乗り込み、

転移で出撃し、デスグレイドの時と同じように、大規模転移魔法で、残骸を回収。

なお飛空艇に気づかれないように、作業は終始、海中で行い。

帰りも水中発着用のドックから戦艦に戻った。


 僕が戻ると。戦艦は元居た場所に向けて移動を開始した。

もちろん僕がマギカシアで外に出る前に、そうするように命令していたからだけど。

なお海上では飛空艇が到着していたらしいが、

こっちの方には気付いていないらしい。


 さて戻ってきたら、次はミュルグレスの次の処置を行う。

量産型の回収をしている間に、足場の準備をされていた。

僕は命令していなくて、気を利かせた結果なので、


「皆ありがとう」


と礼を言いつつ、足場を登りコックピットの場所、

胸のあたりにへと向かう。言うまでもないけど、

書き換えた際に、場所は分かっている。


「別に一緒に来なくていいんだけど……」

「だってナツキの事、心配なんだもん」


とユズノが付いて来ていた。


「この前が大丈夫だったけど、足を滑らせて、落ちるかもしれないでしょ」

「そんな間抜けな事は……」


と言いかけたけど、あり得なくも無さそうな気もしたので、


「気を使ってくれてありがとう」


と言うとユズノは笑みを浮かべて、


「えへへ、どういたしまして」


と言った。


 そんなこんなで、ミュルグレスのコックピットに到着した。

扉を開けると中は薄暗くて、操縦桿やスイッチ類がある操縦席があるけど、

今回は骸骨はない。


「でもさぁ、あの声の主は誰だったんだろ」

「わからない……」


確かに気になるところだ。


「書き換えた時の入ってきた情報に穴があったから、そこに関係があるのかも」


情報の穴といえば、ゲーム中でストーリーで登場する機体が、

先駆けてガチャで実装する事があり、その際にネタバレ防止の為、

説明文の設定に関する部分に、ワザと読めなくしている部分がある。

それはストーリーの進行と共に、訂正される。

それの様な気がしたけど


(ここはゲームじゃないよな……)


と思う。


 ここでカナメが側に来て、


「ちょっといいですか?」


と声をかけてきた。


「何か?」

「実は、戦っている時から気づいていたのですが、

そのロボからは人の気配がします」

「えっ?」

「ただ生者の気配ではありません。でも死人のものと言えませんし」


幽霊が憑りついているのに近いらしいが、断言ができないという。


 なんといえない状況だが、とにかくコックピットには誰も居ないし、

念の為各種センサーで、確認したものの生体反応はない。

取り敢えず、擬人化を試みた。このままだと埒が明かない気がしたからだ。

ミュルグレスは光につまれたが、ベルセルクルの時と同様ガチャは発生せず、

そしてミュルグレスは黒髪でロングヘヤーの女性に姿を変えたが、


「!」


普通擬人化した時は、服も来ているはずだけど、

彼女は一糸まとわぬ姿で、そのまま床に倒れた。


 突然の事にテンパった僕は、


「誰か、『医務室』持ってきて、それと『着るもの』に連れて行って!」


と口走っていてユズノに、


「ナツキ、逆だよ」

「落ち着てください、艦長」


そう「医務室」と「着るもの」が逆になっていた。


「ごめん」


と謝った後、少し心を落ち着け、


「だれか、着るものを彼女に用意して」


指示を出し、エレインが、


「ハイ、ハーイ」


と言って、彼女はシャツのようなものを持ってきて、

彼女を着せた。そして僕とユズノで医務室に運ぶ。

なお僕は足を持ち、ユズノに腕を抱えてもらった。

彼女が上半身なのは、彼女が力が強いのと、

裸一枚にシャツだけなので、あらぬ疑いを掛けられないため。


 医務室に運び、メイヴィスに見てもらうと、


「疲労で眠っているだけよ。それ以外、異常はないわ。

このまま寝かせておけば大丈夫よ」

「そうですか」


そして彼女は


「それにしても、起きていて、正解だったわね」

「あっ」


ここで僕は現在時刻が深夜である事を思い出した。


「すいません、こんな時間まで起きててもらって」


と謝罪すると、


「いいのよ、私も気になって眠れなかったし、まあこれでゆっくり眠れそうね」


と笑って許してくれた。


 彼女を医務室を出ると、廊下には気になって追って来ていたのか、

みんなの姿があった。ここで僕は眠気を感じたし、ユズノも


「ふわぁ~」


とあくびをしたので、他の皆のも眠そうだった。

事が終わって安心したら、眠気がやって来たと言う所だろう。


「みんな、ありがとう」


と礼を言った後、



「今日は遅いから、もう寝よう」


ここで解散し、僕は自室へと戻って、そのまま寝た。


 翌朝は、夜が遅かったから、翌日は遅くまで寝ていようと思っていたけど、

シャロから通信で起こされた。彼女は商店に切り盛りがあるから、

昨日の一件には関わらず、早々に寝ていたというか、

寝るように命令していた。今日もいつものように店に出ていたのだが、


「お休みの所、すいません。アニタさんがいらしてまして、店長にお会いしたいと」

「アニタさんが?」

「はい」

「わかった。ちょっと待っててもらって」


僕らは寝不足だけど、時間的には、訪ねて来ても問題の無い時間帯だ。


(何のようだろ……昨日の件と関係があるのかな)


僕はベッドから起きて、直ぐに身支度を整えて、

戦艦から転移ゲートを介して、商店へと向かった。


 商店に着くと、アニタさんがいて、


「すいません。今日は寝過ごしまして」


と頭を下げると、


「こちらこそ、朝っぱらから押しかけてすいません」


と言いつつ、


「お知らせしたいことがありまして

ただ店先では、ちょっと話しづらいのですが……」

「でしたらこちらへ」


と応接室に案内する。そこで椅子に座ってもらい、お茶を出した後で、


「それで、お話というのは」

「実は、オートバタリオンの件が解決したことをお知らせしようかと」

「解決と言いますと?」


その意味は分かっていたが、知らぬふりをして聞いた。

彼女は、こっちの意図に感づいたのが、

疑いの眼差しを見せたものの、その事を指摘せず、


「沖合で、オートバタリオンの残骸を騎士団が発見しまして、

状況から昨夜のうちに、出現し、

そのまま何者かに破壊されたようなのです」


まあ破壊したのは僕らだが、その事は言わず、


「そんな事が……」


と惚ける。アニタさんも惚けていることは気づいてるようだけど、


「誰の仕業かは不明ですが、兄上ではないでしょう。

兄上なら、早々に声明を出すでしょう。勇者の一族も同様です。

ともかく、これで、この街は救われ、兄上の野望は潰えました」

「それは良かったです」


白々しく思われるが、そう答えておくと、


「もし、その方とお会いしたら」


彼女は、頭を下げ


「ありがとうござました!」


と言い頭を上げ、


「このように、お礼を言いたいのですが」


僕も、


「もしその人たちが、打算とかがないとすれば、

『当然の事をしたまで』って言うでしょうね」


と答えた。


 さてアンスガル王子の話題が出たからなのか、

まあそもそも今日来ると言っていたので、シャロが、


「店長、アンスガル王子が来られました」


今日の事は話してなかったので、


「兄上が!」


と驚くアニタさん。


「実は……」


僕は今日、王子が僕を迎えに来ることを話し、


「きちんと断りますから、ちょっと待っててくださいね」


アニタさんがいると分かると、ややこしい事になりそうなので、

応接室に待たせておくつもりだったけど、


「私も、行きます」


と言って強引についてきた。


 そして店内に戻ると、王子と護衛と思われる人々がいて、

そこに混じって、あの女性兵士の姿もあった。王子は僕の顔を見るなり、


「ナツキ、迎えに来た……って、なんでお前が!」


するとアニタさんは


「どうも王子様。先日のパーティー以来ですね」


身分を隠しているからか、いけ好かないからかは不明だけど、

他人行儀に挨拶した。アニタさんの登場で王子は不機嫌そうだけど、


「まあいい、改めてナツキ、お前を迎えに来た。一緒に行こう」


僕はキッパリと、


「お断りします」


と答えると、向こうは面食らったように、


「なぜだ!」


と声を荒げるも、こっちが答える前に、


「そうか、お前の主人が手放そうとしないんだな!

呼んで来い!直ぐに話をつけてやる!」


僕はため息をつきつつも、ギルドカードを取り出し王子に見せながら、


「僕が主人ですよ」

「なんだと……」

「勘違いされてますが、僕は奴隷じゃありません。

この店の店長にして、カラドリウスのクランマスターです」


すると王子は、目を大きく見開き、ギルドカードを凝視した。


 しかしギルドカードを見ても信じがたいようで、


「でもバルトルトは奴隷だと」

「それは、あの人の僕への嫌がらせですよ。前に誘いを断ったから、

まあ未だに僕の事を奴隷じゃないと認めたくないかもしれませんけど……」


すると王子は


「クランマスターでも関係ない。俺はお前が欲しい。

望むなら妃にしてやってもいい」


王子は女癖が悪いが、未だに結婚はしていない。

妃と言い出すということは、相当僕の事が気に入ったという事になる。

僕は嫌だけど。


「俺のものになれば、この店に王族御用達のお墨付きをくれてやる。

もちろん、クランにもだ。そうなれば、仕事もいっぱい入ってくるぞ」


と偉そうな口調で言う。


「でも断ります。正直、アンタが気に食わない」


すると王子は顔を怒りで益々顔を赤くして、


「貴様!王子である俺の言う事が聞けないのか!」


怒号を上げたけど、こっち苛立っていたので、


「ええ聞きませんね。女王陛下やアレクサンドラ姫なら別ですけど」


女王陛下はともかく、アレクサンドラ姫の名を出すことが、

相当な地雷である事は分かっていたけど、思わず言ってしまった。


 案の定、王子はますます逆上し、剣を抜きかけ、アニタさんも身構えたが、

ここで止めようとするのは、あの女性兵士。


「王族とはいえ、狼藉は許されない」


そう言って、王子の腕をつかんだ。


「離せ、自分が何をしてしているのか、分かっているのか」


だが、


「狼藉は許されない」


と言うだけで手に力を込めていく。


「痛い、痛い、痛い!おい!誰か、助けろ!」


と叫ぶが、他の護衛の一部は、最初こそ止めようとしていたが、

護衛の何人かが、耳打ちしたかと思うと、全員止めなくなった。


(やっぱりあの人は、タダものじゃないのかな)


やがて王子は根を上げたようで、


「わかった!わかったから!」


そう言うとようやく手を離す。


「くそっ!」


と悪態をつきつつ、


「あと二日経ったら、お前は後悔するからな!」


こっちを指さし、去って行こうとすると、女性兵士が、


「それは沖合にあった魔族の飛空艇と関係はあるのかしら?」


すると王子の顔が固まる。


「何の事だ……」

「昨晩、沖合で閃光と轟音がして、騎士団が確認しに行ったところ、

破壊された状態で発見された。完膚なきまでにな」


すると、


「バカな!オートバタリオンが破壊されたなんて」

「誰が破壊したかは分からない。騎士団が閃光と轟音を察知して、

確認しに言ったら、既に破壊されていた」


と女性兵士が言っていたが、


(まあ、僕らが破壊したんだけどね)



と僕は思っていた。


 するとここで、女性兵士は王子に、


「なぜオートバタリオンだと知っている?

私は、魔族の飛空艇としか言ってないぞ」


なおオートバタリオンは魔族の飛空艇と聞いて、即連想できるものではない。


「お前が破壊していないのは確認済みよ。

昨晩は、随分とお楽しみだったようだから」


その言葉に顔を真っ青にする王子。

見ているはずがないのに、知っているという事は致命的だった。


 そして女性兵士は


「ゆっくりと話を聞かねばならないようねと言って」


そう言うと縄を取り出し


「拘束させてもらうわ」


今度は、王子を縄で縛りあげる。


「貴様!王子の俺に、こんな事をしてただで済むと思っているのか!」


と喚いていたけど、女性兵士は意に介さず。


「連行するわ」


と言いつつ、こっちを見て、


「この度は、飛んだ迷惑をかけてごめんなさいね」


と言って頭を下げる。


「いえ、悪いのは王子であって、貴方ではないんですから、

頭を上げてください」


と僕が言うと、女性兵士は頭を上げ、


「今後迷惑をかけないようにするわ」


そう言って、王子を連れていく。なお王子は


「俺は、王子だぞ!」


と騒いでいた。そして僕は、王子を連行していく女性兵士に


(嘱託とか言いながらも、凄い人なんだな)


と思うのだった。そんな女性兵士の正体を知るのは少し後の事。


 そして人々が去って行ったあと、アニタさんが、


「これで、貴方たちが、しばらく狙われることはないでしょう」


それは、アニタさんも同じだろう。


「改めてありがとうございます。体を張って、兄上の野望を暴いてくれて」

「あの時、貴方も現場にいたでしょう?」

「でも、貴方たちが居なければ、証言を聞き出すことできなかったでしょう。

ありがとうございます」


そして、アニタさんは


「今日は帰りますが、しばらくはこの街にいるので、

今後は客として、寄らせてもらいます」


と言い、店を出て行った。


 彼女が去った後、腹の虫が鳴った。

そう僕はまだ朝ご飯を食べていなかった。

なので、転移ゲートから戦艦に戻り、食堂に向かい、遅い朝食を食べるのだった





 一方、アンスガル王子は、騎士団の飛空艇の一隻に連行されていた。連行中も


「王子である俺をこんな目に遭わせて、お前のやっていることは王族への反逆だ!」


と騒いでいたけど、女性兵士は一切相手にせず。飛空艇に到着すると、


「騎士団の一兵卒ごときに俺を捕まえる権利なんて」


と言っていたら女性兵士は、


「私には権利がある」


と言って、兜を取った。


「そ、そんな……」


顔を真っ青にして声をあげる王子。


「それじゃあ、話を聞かせて貰おうかしら」


さっきまでの威勢は無くなって、王子は大人しく取り調べを受けるのだった。

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