第52話「魔王ロボ現る」

 突如現れたロボ、勝手ながら魔王ロボと呼称させてもらうとして、

大きさはラグナロクと同じくらい。

気になるのは、クロウが得た情報では、オートバタリオンのロボは、

母艦に制御装置的な物があるらしいが、母艦はもう破壊されているから、

どうやって動いているかは不明。


 そして、これまでのロボ同様、水面に立ち、

右手にこれまた禍々しい大剣を出現させると、

それを手に水上を走りながら、こっちに向かってくる。


『来るよ!』


敵はまず僕に狙いを定めたようで、僕の方にやって来て、

大剣を振り上げる。


「!」


回避行動を取る。敵は右手のみで大剣を振るっているものの、

その動きはそんなに早くはなく、ラグナロクと同じくらいのようで、

ギリギリだけど避ける事ができた。


『危なかった。もろに喰らったら真っ二つだよ』


と言うユズノの焦っている声、

ラグナロクの強靭な装甲でも切り裂けるだけの威力があるよう。

あと今回は予測HPは出たけど、かなり高い。


 それと、魔王ロボが大剣を装備する直前、通信が入った。

それは、オートバタリオンからのものと同じで、ノイズだらけで、


「に……げ……て……」


という声。


(まさか、あの通信は、この魔王ロボからだったのか)


でもこの魔王ロボも、生体反応のない無人機のはず。

ちなみにアンデッド反応もない。

この直後、魔王ロボが大剣を手に向かってきたので、返事は出来なかった。


 その後も、片手で振り回してくる大剣を避けながら、

隙を見て一撃喰らわせ、HPの減り具合を見る。


(五分五分か……)


HPの減り具合から、勝算は割り出せる。

感じとしては多くもなく少なくもない所。

見た目とその気迫から、絶望的な減り具合を想像してたから、

安堵はしたけど、HPは異常に高いし、五分だから油断はできない。


(現状の三機で対応できそうだな)


最悪の場合、グラヴィセルクか、嫌われ覚悟でクインハデスの出撃を考えた。

ただ両機ともチートなので、ここは沖合だけど、

街まで影響をもたらす可能性があるので、それは極力避けたかった。


 さて魔王ロボは、僕を狙っているので、基本的に僕が相手をし、


「援護をお願い!」


残りの機体は、遠距離攻撃の援護に回り、

エンジェリオは引き続きのレーザービームを、

エクスレイドはドローンカノンの砲撃と、ビームキャノンを使ったけど

すべてバリアーの様なもので防がれた。

遠距離攻撃を無力化しながらも、剣を振るい、こっちに攻撃してくる。


「くっ!」


こっちブーストを吹かせ、間合いを取ると、

向こうは左手をこっちの方に突き出し、火炎弾を撃って来た。


「!」


弾速は遅めであったが、こっちも反応が遅いので、回避はギリギリだった。


 だが回避しつつも、


「フェンリルナックル!ヴァルキリーアイズ!」


フェンリルナックルを使った後、素早くヴァルキリーアイズを使うが、

飛んでいた右拳は、弾き飛ばされ、ヴァルキリーアイズは打ち消された。

なお弾かれた右拳は、転移で元に戻る。


 ここで雫姫が、


「殿、これより援護射撃を行う。タイミングは殿に任せる」


との連絡が入ったので、エクスレイドとエンジェリオを離れさせる。

魔王ロボは自動制御な上、猪突猛進なところがあるので、

二機が離れていっても、気にすることなくこっちに向かって来る。

そして剣で切りかかって来るが、ぎりぎりで除け、

ブーストを吹かせながらの、渾身の体当たりを喰らわせた。

ダメージはなかったが、機体は大きく吹っ飛んだ。


「今だ!」


底部砲塔から高出力レーザー砲が発射された。

しかし魔王ロボに命中したもののこれもバリアーの様なもので防がれた。


 思わず、


「なっ!」


と声を上げてしまう。

まさか戦艦の高出力ビーム砲まで防がれるとは、思いもしなかったからだ。

そしてユズノも驚いたような声で、


『遠距離攻撃は全てダメって事……』

「みたいだね……」


僕は直ぐにユイに連絡を入れる。


「エンジェリオじゃ無理だ、戦艦に戻って、キュロプスで出撃して」


エンジェリオは遠距離戦主体のロボだから、遠距離が使えないとなると、厳しい。


「わかったよ」


相変わらず魔王ロボは僕にご執心だから、エンジェリオが、この場を離れても、

意に介していない様子で、こっちに向かって来る。

そして大剣を振り回す魔王ロボを相手していると、


「艦長~、戻れない~」


とユイからの通信。僕は、敵から間合いを取りつつ


「どういう事?」

「見えない壁があって、ここから出れないよ~」


ここでオペレーターから、


「その周辺に、特殊な結界が張られています。

発生源は敵の起動兵器だと思われます」


あと分析の結果、この結界は、外からは物は通すけど、

内側からは何も通さないと言うもの。

つまり対象を閉じ込めることに特化した結界で、

そして発生源から魔王ロボが、僕たちを閉じ込めたことになる。


 敵を倒せば、脱出はできる様だが、

この状況では機体の変更はできない。あと外から物を通すと言っても、

限度があって、戦艦は入ってこられない。そこでユイに、


「とにかく、ここは僕らでどうにかするから、出来るだけ離れた場所にいて」

「わかった……」


とユイは元気がなさげに答えた。


 その後は、僕の乗るラグナロクの徒手空拳とエクスレイドのビームサーベルで、

魔王ロボと戦うも、二体だと少しきつかった。

その上、向こうは複数体相手でも平気なようで、

僕らを相手にしても余裕があるように見えた。


 そして大剣の大きな振り回しによる攻撃を回避し、

一旦、両機、魔王ロボから間合いを取ると、剣を持っていない左手を、

こっちに向けたかと思うと、雷のようなものを放って来た。


「!」


直撃は避けたが、かすっただけで、その部分の装甲は砕け散り、

衝撃で後ろに吹き飛びつつ、ブーストを吹かせて、体勢を立て直した。

もしコケるようなことがあれば、海に沈むので、そこから立て直すのは、

大変な気がするし、加えてラグナロクは陸戦用だから、水中での戦いは不利だ。

だから現状を維持しないといけない。


 その後も火炎弾や、光弾などを撃って来た。

恐らく魔法による攻撃と思われる。これらは回避できたが、強力そうだった。


「遠距離、近距離、完璧って事か」


そして遠距離攻撃の無力化と来ている。

ただ防御力自体は、強力ではあるけど、極端ではないから、

辛いけど、相手の攻撃をうまく避けながら、

近距離攻撃を叩き込むしかないという事。

そして戦いながらエネルギーを貯めて近距離の必殺技を使う。

この方針で行くしかないし、五分五分だけど勝てそうではある。


 ただ勝てたとしても、時間は確実にかかるし、

やっぱり不安は、騒ぎを聞きつけて、

騎士団や勇者、王子らが飛空艇でやってくる事かな。

出来る事なら引き続き早期決着させたいけど。


 その後は、魔王ロボは遠距離攻撃を止めて、大剣を振り上げ

向かって来る。その一撃を回避すると、

ラグナロクの徒手空拳と、エクスレイドのビームソードで、攻撃を仕掛けていく。

そして、引き続き大剣による攻撃を避けつつ、隙を見て攻撃を叩き込み、

確実にHPを減らしていく。


 更に、


「えっ?」


突然巨大なハンマーが現れ、魔王ロボの脳天に叩きつけられる。叩きつけたのは


「キュロプス!」

「艦長……これより加勢します……」


パイロットはサファイアだった。


「どうして?」

「入れ替わった……」


としか言わないけど、

後で戦艦に残るこの戦いの、映像記録を見返して知るんだけど、

まずユイがエンジェリオから出て、キュロプスに変身する。

その後、エンジェリオがサファイアに戻り、

彼女は、超能力で一定時間空中浮遊できるので、

その力を使って、キュロプスに乗り込むという事したのだった。


 ラグナロクと同じくホバーで海面に浮き、巨大なハンマーを武器に、

僕らに加勢してくれたおかげで、敵のHPの減り具合も早くなって、

状況は幾分か楽になったように思えた。

ただ敵の攻撃が強力で、ダメージ覚悟は危険で

これまで通り、敵の攻撃を極力避ける必要があるので、

攻撃が途切れ途切れになるものの、それでも、一人増えることはありがたかった。


 このまま順調にいくかと思うとそうでもなかった。

これまで通り右手で振り回す大剣を避け、隙を見て、

ラグナロクはパンチ、エクスレイドはビームソード、

キュロプスはハンマーで攻撃を仕掛けようすると、

魔王ロボの体が光ったかと思うと、衝撃波が襲ってきた。


「!」


三機とも吹き飛ばされ、エクスレイドは空中で体勢を立て直し、

僕の方は、さっきと同じようにブースターを吹かせて

海上で体勢を立て直す。一方、キュロプスは、転倒し海に沈んだようだが、

ハンマーを手にしたままブースターを吹かせて、海上に出てきて、

再びホバーで海面に立つ。


 一方、僕らを吹き飛ばした魔王ロボは、左手に巨大なハンマーを出現させた。


「何!」

「あらあら」

「ハンマー……」


キュロプスのとは、見たところ大きさは同じくらいだけど、

黒くて禍々しいデザインをしている。

とにかく見るからに強力そうだ。

何でハンマーなのか、キュロプスの登場に合わせたものと考えられるけど、

実際のところは分からない。


 ともかく以降は右手の大剣と、

左手のハンマーを武器に襲い掛かって来た。

最初の大剣をぎりぎりで横に移動し避けると、

次は左手のハンマーを振り下ろしてくる。

こっちはブーストを吹かせてバックし回避する。


 そしてここで、


「………」


キュロプスが巨大ハンマーで、

魔王ロボの死角となる部分から、攻撃を仕掛けるが、

直ぐに気づかれ、大剣でガードされる。


「ガラ空きよぉ!」


別方向から、エクスレイドのビームソードで切りかかるが、

こっちはハンマーで防御する。


「あらら」

「……!」


そのままに二機は、弾き返される。

しかし、その瞬間、隙ができたので僕はブーストで突っ込み、蹴りを入れた。

一応HPは減ったが、怯むことなく、大剣とハンマーで反撃してくる。

こちらはブーストを使い。それを何とか避けつつ、

隙を見て攻撃を入れるわけだけど、

ハンマーが増えた事で、攻撃を防御されることも多くなってきて、

ますます攻撃が入りにくくなってきた。


(知恵もついて来たのかな……?)


 最初は猪突猛進で、今も僕狙いで、そんな所はあるけど、

攻撃を武器で防御もするようになってきたので、そんな気がした。

ただダメージは確実に与えてきているので、ジリ貧とは言えないけど、

時間が掛かる。先も述べたけど、誰かが来られても困るから、早めにケリをつけたい


 ただそう思いつつも、状況は、直ぐに変わらず。

その後も攻撃を続けていたけど、急に様子がおかしくなる。


「んっ?」


急に動きが止まったこと思うと、両手の武器が消えて素手になった。

直ぐに動きは再開し、今度は徒手空拳で襲って来る。


 拳の威力は、武器に比べればずっと弱く、

ラグナロクにとっては当たっても大剣とかと違い致命的ではない。

だけど弱体化するかと思えば、そんな事はなく、

武器を手放した分、身軽になって、攻撃スピードが増し、

その所為で格闘戦となり拳や蹴りがぶつかり合うも、押され気味となる。


 更に身軽になったせいで、

これまでの様に隙をついての攻撃を叩き込んでいるけど、

避けられるようになって、先ほどまでとは、防御が回避に変わっただけ、

時にカウンターを喰らう事もあった。加えて、


「ヘルモーズ・ラッシュ!」


高速のパンチラッシュだけど、

向こうも同じ速度で対応して来て、相殺しあう。


 この状況に、一旦間合いを取りつつ、


(戦力としては良いと思うけど、後カッコイイし……)


一応鹵獲可能なロボなので、そんな事を思ってしまったけど、

相手が強いので、鹵獲を考えての手抜きはできなかった。

変に手を抜いて、僕だけでなく仲間がやられてしまってはいけないし、

そもそも例え鹵獲しても、チートだから周りへの影響も考えて、

グラヴィセルクやクインハデスの様に控えめにしなきゃいけない事もあって、

鹵獲は考えない事にしていた。ただ機会を目の当りにしたら別だけどね。


その後も戦いは続いたけど、


(どうしたんだ?)


時折、魔王ロボの動きが止まるようになった。

止まると言っても一瞬で、その隙に攻撃できることもあったけど、

殆どは、何もできず、こっちが有利になると言う事はなかった。

ただおかしな事が起きているのは確かだった。


 そんな中、遂に、


「艦長、空中戦艦が複数向かって来ています」


どうやら気付かれたようだった。なお向かって来ているのは、

騎士団の飛空艇らしい。到着まで時間はあるようだが、

早期に決着をつける必要があった。


 丁度その時、急に魔王ロボの動きが止まった。

先程からちょくちょく止まってはいたけど、

今度は、一瞬とかではなく、完全に動きが止まった。


『気を付けた方がいいよ。何かの罠かも』


心配そうにするユズノ。僕らも気になって、間合いを取る。

ここで、再び通信が入った。相変わらずノイズだらけで


「今……だ……撃……て……シールド……解除」


と聞き取れた。


 するとここで、エクスレイドはビームキャノンを撃った。


「ちょっと、何を」


遠距離攻撃は無力化されるはずだった。しかし今回は命中した。


「えっ?」


と思わず声を上げる僕、エレインは、


「やっぱり」


と言ったので、


「どういう事?」

「シールド解除って言ってたじゃない」


それは遠距離攻撃を無効化しているバリアーの解除の事だったらしい。


 とにかく、遠距離攻撃が効くようになったのなら、

思い立って戦艦に連絡しようとすると、向こうから


「殿、これより再度援護射撃を行う」

「わかった。こっちが合図したら撃って」


更に、


「艦長~、アブソリュートバニシング使ってもいい?」


いつも間にかエンジェリオがいた。

さっきと同じ手順で入れ替わったらしい。

ただユイは空を飛べないので、わずかな間だけど海に落ちている。


「いいよ」


と答えつつ、僕もゲージがたまっていたので、


「僕もオーディン・バーストを使うから、合わせよう」


するとエレインが、


「じゃあ私は、ドローンカノンとビームキャノンで」


と言い出し、三人同時攻撃に、


「オーディン・バースト!」

「いっけぇー!」

「これで、終わりよぉ~!」


魔王ロボは動けないので、攻撃は命中し爆発が起き、


「今だ撃って!」


更に戦艦からの高出力ビーム砲による攻撃で、

正にオーバーキルと言う感じだったが、


『まだ、終わってないよ』


煙の中から魔王ロボが姿を見せた。

予測HPがわずかに残っていたから、破壊できてないとは思っていたけど、

無事ではなく、装甲はむき出しになり、あちこちから煙と火花が出て、

立っているだけがやっとの様子。


 あと一撃で倒せそうだったが、


「鹵獲!」


結局、「書き換えの力」を使う。

先も述べたけど狙ってはないよ。機会が巡ってきたから鹵獲するんだ。

力によって、元通りの姿になった魔王ロボ。

もちろん機能は停止したままで、あと海に沈みそうなので、

鹵獲の際にラグナロクで体を支えている。


「結界の消滅を確認」


との連絡を受け、


「それじゃ、戻ろう。あとちょっと手伝って」


他の二機の手伝いの元、魔王ロボを戦艦に運び込んだ。

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