第51話「対決、オートバタリオン」

 場所はかなりの沖合で、リルナリアから目視は難しいと思う。

周囲に船舶はないし、思う存分戦えるけど、

その前に到着後最後の確認として、海中から照明弾を撃った。

当然、攻撃を誘発させない様に、当たらない様にした。

そして照明弾の明かりで、姿を見せた全体像を海上のドローンを介して確認する。


「確かに、赤いな」


全身が赤くて、改めてみるとやっぱり肉塊みたいで、

血が滴り落ちてきそうに見えるが、それっぽく見えるだけで、

分析したところ全体は金属製のようだ。

とにかくオートバタリオンで確定の様な気がした。

なお予測HPは不明と出た。ゲーム中でもこういう事はある。


 とりあえず戦艦を浮上させることにしたけど、先制攻撃を考えて、


「バリアーを展開の後、浮上」


その通りにカラドリウスは浮上したが、戦艦に動きはなかった。

姿を見せた程度では、攻撃してこないらしい。


 そしていよいよ、戦闘準備に入る。

館内放送で状況を伝えているので、準備は出来ていて、

僕も、ブリッジに来た雫姫を艦長代理にして、

出撃準備に入ろうと、格納庫に向かおうとした時、オペレーターが、


「艦長、空中戦艦から通信が入ってます」

「はぁ?戦艦は無人の筈じゃあ」

「そのはずですが……」

「取り敢えず繋いでくれ」


通信は音声のみで、酷いノイズだったが、


「に……げ……ろ……」


という声だけが聞こえた。


「誰なんだ?」


通信は切れてしまった。


(しかし、これって……)


アンデット船団の時、ベルセルクルが幽霊ロボだった時に聞こえてきた声と、

感じが似ていた。あの時の声はメロディのだったけど、


「本当にアンデッド反応はないの?」

「反応はありません」


と言ったのち、オペレーターが


「どうしますか?」

「正体を確かめる必要があるから、こちらから呼びかけてみて」


と指示を出し、実際に呼びかけると、返答はなかった。


 しかし代わりに、


「空中戦艦に、熱源を感知しました。砲撃が来ます!」


向こうからレーザー砲のようなものが飛んで来た。

これは光属性の魔法の一種らしい。攻撃はバリアーで防いだが、

その後もレーザーだけじゃなく、魔法による火炎弾や、

巨大な氷の刃、雷撃など多彩な攻撃を仕掛けてくる。

どうやらこちらからの通信は攻撃とみなされたらしい。


 しかし、バリアーには限界があるので、


「回避行動をとりつつ、攻撃準備!」


カラドリウスは旋回し回避しつつ主砲の準備をする。

まずは艦隊戦。そして回避行動の間も相手は撃ち続ける。

しかし、何時までも攻撃が続くわけじゃないのを僕は知っていた。


 アニタさんは、騎士団の仕事だからと言って、

詳しい攻略法は教えてくれなかったが、

魔族との戦いは勇者の仕事じゃないかと思った僕は、

勇者たちが知っているんじゃないかと思い、クロウに探ってもらっていた。

案の定勇者たちは、過去の記録と言う形で情報を持っていた。

なお情報は騎士団から提供を受けたもので、

勇者たちは一度もオートバタリオンと戦ったことはない。


 それはともかく、情報によると攻撃は、無計画に撃って来るが、

ある程度撃つと攻撃を止めるという。

止めている時間は短いけど、そこが攻撃のチャンスだ。

既に砲塔は展開し、いつでも発射可能だ。ミサイルの準備も出来ている。


「敵の攻撃がやんだら、バリアーを解除し一斉射撃」

「了解」


そして改めて雫姫に


「後は頼みます」

「妾に任せよ。殿こそ、ご武運を」


僕は格納庫に向かった。


 格納庫には準備万端と言わんばかりに、

ラグナロク、エクスレイド、エンジェリオが並んでいた。


(そう言えば、ゲーム中じゃ、設定上この三体が並ぶことはなかった)


転生後も初めての気がする。僕はラグナロクに乗り込み、

エクスレイドにはエレインが、エンジェリオにはユイが乗り込む。

 

 今回はこの三機とで戦うことになる。

これは、クロウから得たオートバタリオン情報を元に、

これで十分と思ったから。そして僕は、ラグナロクのコックピットに乗り込み。

通信で戦艦の状況を確認する。いよいよ、敵の攻撃がやむ。


「主砲!放て!!」


と艦長代理の雫姫の掛け声とともに、一斉に主砲を放つ。

敵戦艦の各所に命中し、爆発が起きて破片が海に落ちていった。

この様子は、映像でラグナロクに送られてきている。

レーザー砲だけでなく、ミサイルも発射する。

命中箇所はバラバラだが、ダメージを与えている事は間違いないと思う。

ただ情報では丈夫だから直ぐには破壊できないけど。


 さてこの後はどう来るか、引き続き艦隊戦のみか、

次の段階に移るか、そしてオペレーターが、


「空中戦艦から、大量の起動兵器の出撃を確認!」


早くも次の段階に移行したようだった。


「出撃する!ハッチを開けて!」


と僕が言うと、


「了解」


とオペレーターが返事をして、直ぐにハッチは開き、発進デッキが現れる。


「みんな行くよ!」


皆に声をかける。


「ええ、行きましょう」


エクスレイドに乗ったエレインが優しげな声で応え、


「OK!がんばっちゃうよん」


とエンジェリオに乗るユイが、元気よく答える。そして


『それじゃあひと暴れしようか』


というユズノの声を聞きながら、発進デッキに移り順番に僕らは出撃した。

そしてラグナロクは海面に降り、ホバーでその上に立った。

エクスレイドとエンジェリオは、飛行だけど、

エンジェリオの方が高度を飛んでいる。


 今回の段取りは、相手が空中戦艦だからまずは艦隊戦。

そしてアニタさんの話からも知っていたけど、

戦艦には自立起動のロボ軍団が搭載していて

それが出撃した際にこっちもロボを出撃し迎撃する。

なお相手は暴走状態だから、いつロボを出撃させるかは、

分からず、今回の様に早い時もあれば、遅い時もあったと言う。


 出てきたロボは、すべて同じで、いわば量産型、そして無人機。

赤い戦艦に対し、全機青く、デザインは悪魔の如く異形だけど、

中世の騎士の鎧風な所もある。


(まるでファンタジーの魔王の兵士のよう)


なお色は、事前に聞いたのと、出撃時はまだ照明弾の明かりがあったので、

分かった事。今は明かりがなく暗視カメラの映像なので色は分からない。

それと幽霊ロボ同様。どうやっているかは不明だけど、全機海面に立っている。


 出撃後、


「僕は、正面の敵を担当する。エレインは右を、ユイは左を頼む」

「ハーイまかせて」


と何処か小悪魔っぽくエレインは答えて、ユイは


「OK!あーしにお任せ♪」


と相変わらず元気よく答える。


 なお敵は量産型であるけど、装備はまちまちで、ビームサーベルを持つものや、

物理剣を持っていたり、斧やメイス、更には大砲やガドリング砲をを持つもの。

その数は一個大隊に相当する。こっちは三機、数の上では圧倒的に不利だ。


 だけど、


「フェンリルナックル!」


射出されたラグナロクの拳は、一度に複数体のロボを破壊した。

これで、まだ軽いジョブって奴だ。その後も向ってくる敵を

徒手空拳を基本にして迎え撃っていき、常に複数体の敵を破壊していく。

一方、エクスレイドは、ドローンカノンを展開。


「逃がさないわよぉ~」


とエレインが言うと、全方位、範囲攻撃を発動し、

沢山のロボを破壊していく。


「いっくよぉ~♪」


というユイの声と共に、無数のレーザービームを発射する。

エンジェリオは高い位置にあるから、

ビームの雨が降っているように見え、そして多くのロボが破壊されていく。


 こんな感じで、こっちのロボは基本的に一騎当千。

相手は物量が最大の武器なので、数は多いものの、

一体一体のロボは、大型魔物よりも遥かに弱い。

ハッキリ言ってザコばかりで、数が多くて面倒ではあるけど敵ではない。

ただ、母艦はロボを出撃させた後も引き続き攻撃をしていて、

更にクロウが得た資料によると暴走してるとは言え、

母艦と連携して攻撃することがあり、

そうなったら、大変なので僕らの方でロボは引き付けておかなければならない。


 その後も、ひたすら敵のロボを倒していく。

ラグナロクは基本は徒手空拳で、時にヴァルキリーアイズで焼き払い、

ヴァナディ・テンペストの真空刃で切り刻む。

エクスレイドは、ドローンカノンの攻撃だけでなく、

ビームサーベルで斬りさき、ビームキャノンで破壊していく。

エンジェリオは相変わらずビームの嵐だ。

あと戦艦の砲撃はこっちにも来るけど、全て回避している。

基本的に暴走で、狙いすませているわけでもないからか、

簡単に避けれたし、更には味方であるロボたちまで巻き添えになっていた。


 そしてロボは雑魚だし、そもそも無人機だから、気兼ねなく破壊する事ができる。

あと化石燃料を使ってないようだから海を汚染する事はないし、

ゴミ拾いの必要はあるだろうけど、素材として使えるだろうから、

一騎当千もののゲームをやってるような気分だ。

残骸が、倒した後のアイテムって感じかな。とにかく爽快感がしてきた。


 そして敵はどんどん増えていき、きりがないようだけど、一応限界があるらしい。

ただ、いくら倒しても、次々出てくるようだった。ただ爽快感から、気分が高揚して


(来るなら来い。スクラップの山を築いてやる)


そんな事を思っていたし、心を読んだのか、


『やれやれ、もっとやれ!』


とユズノの声がした。彼女の気持ち高揚してるようだ。


 しかしここで、エレインからの、


「街中じゃなくてよかったわねぇ」


との一言で、状況を想像してしまう。


(これだけの量のロボが街で暴れたりしたら……)


いくら雑魚でも、これだけの量だ。それに戦艦の砲撃もある。

例え勝ったとしても、確実に街の壊滅は間違いない。

そう考えるとゾッとして、頭が冷えた。


 ここでロボを倒しながらも敵戦艦の状況を確認した。

カラドリウスの攻撃で、傷だらけだし、煙も上がっているが、

砲撃は緩んでいる気配はない。こっちも防御がしっかりしているし、

回避行動もうまく出来てるようで、大したダメージは無いから、

このまま行けば、確実に勝てるけど、時間はかかる。


「新たに接近来ている機影はないかな?」


とカラドリウスに連絡を取るとオペレーターが


「いいえ」


と答えた。


 沖合で海路、航路ともに外れている場所とは言え、

ドンパチしていれば、遠方でも気づかれる可能性がある。

海の上だから、やってこれる人間は限られているけど

派遣されている騎士団や王子、勇者は飛空艇を持っている。

 

 騎士団がやって来て巻き添えになるのは悪いし

今回の一件に絡んでいる勇者や王子たちは、巻き添えは構わないけど、

横取りになるから揉め事になってややこしい事になりかねない。

それに、魔族が何かしてくる可能性もある。連中も飛空艇を持っているだろうし。

魔族に関しては情報がまだ少ないから、やり合うのは得策じゃない。


 とにかく、誰かが来る前に事を済まさないといけない。

もちろんその為の策は考えている。


「超級熱線砲と絶対零度冷凍砲は?」

「熱線砲は、準備ができていますが冷凍砲まだ」

「わかった」


この二つの兵器が鍵だ。これらを同時ではないけど、

短い間隔で使わなければ意味がないので、

だから両方使えるようにしなければいけない。


 その後も、焦る気持ちを抑えながらも戦いを続ける。

やがて敵の数は減り締めた。このまま、畳みかけて、

もし倒した後も冷凍砲の準備ができてないなら、

僕らも戦艦の方に攻撃を仕掛けるつもりでいた。


 そして、


「てぁ!」


と思わず掛け声を上げながら、ラグナロクのチョップで、

複数の敵を破壊し、エレインが


「それで最後みたいよ」


と言う。そう雑魚のロボは全滅させたようだった。


 このタイミングで


「冷凍砲の準備ができました」

「じゃあ手はず道理に、雫姫、タイミングそっちに任せます」

「うむ、任せよ!」


雫姫は、自信満々な様子で答えていた。

戦艦の甲板に、パラボラアンテナのようなものと、

大砲のようなものが姿を見せる

アンテナの方が熱線砲で、大砲が冷凍砲。

そして現在、カラドリウスはオートバタリオンの攻撃を

回避と防御を行っている。そして敵の攻撃がやんだ次の瞬間、

バリアーを解き、


「熱線砲、放て!」


と言う雫姫の掛け声と共に、パラボラアンテナから熱線が照射される。

敵艦に命中し、その温度を大きく上げるものの、破壊には至らない。

そして熱線の照射が終わると、間髪入れずに、


「冷凍砲、放て!」


次は大砲の方から氷塊が飛び出し、これは設定上では-273.15℃の冷気の塊。

それが戦艦に命中し、その船体を凍らせていく。

しかし、それでも破壊には至っていない。


 だか高温で熱せられ、それが一気に冷やされるとどうなるか?

装甲は一気にもろくなる。これが目的。

更に引き続きカラドリウスの主砲とミサイルが撃ち込まれる。

先程までに比べて大きな爆発が起きて、

大量の破片が海へと落ちていき、更に傾きだした。


 強靭な防御力は完全に失われたようで、

好機だと思った。それは艦長代理の雫姫も同じようで、


「今が好機、撃って撃って撃ちまくるのじゃ!」


と言う号令と共に、出し惜しみなしの砲撃が放たれる。

敵艦の爆発は大きくなっていき、向こうも砲撃を再開したけど、

砲台が破壊されたのか、規模ははるかに小さくなって、

直撃しても、大したことがないので、

バリアーも張らず、回避行動にも移らずひたすら、攻撃を続ける。


 やがて、爆発を起こしながら敵艦は高度を落としていき、

ついには着水した。


「敵戦艦、沈黙」


と言うオペレーターの声を聴いて、


(僕らの出番はなかったな)


ロボを倒したから、今度は戦艦への攻撃に参加するつもりだったけど、

その前に、戦艦は破壊された。


 これで終わったと思った僕は、残骸の回収はあるけど、

それは、マギカシアで行うとして、一旦戻ろうと思い、二人に


「それじゃあ、帰投……」


と言いかけたところで、オペレーターが、


「待ってください。敵戦艦内部に熱源確認」

「えっ!」

「何か出てきます!」


着水した戦艦の中から、その残骸を押しのけながら、姿を見せたのは、


「ロボ……」


それは、さっきロボと同じく、

悪魔の如く異形の鎧を纏った戦士と言う感じだけど、

さっきまでの奴より大きく、鎧のデザインもより禍々しくも、

立派で、背中にはマントを背負い、頭には角の様なものもある。

なお暗視カメラの映像なので色は不明だけで、黒っぽい。

ただ、その風格は比べようがなく圧倒的な強さを感じる。

さっきまでの機体が量産型なら、こっちワンオフ機と言ったところ。

なお鹵獲可能で、それとオペレーターから、


「生体反応はありません」


どうやら無人機のようだが、その姿に、


「魔王……」


思わずそんなことを口走っていた。


 さっきまでの量産型が魔王の戦士ならば、

こっちは、魔王そのものと言う感じだった。


(聞いてないよ。こんなロボがいるなんて)


クロウから得た情報には、このロボの情報はなかった。

ただ過去の記録では戦艦が墜落するまで至ったことはない。

その前、いつも魔族がやって来て回収していくからだ。


(恐らく戦艦の破壊に合わせて起動するようになっているんだろう)


だから、今回が初めての事なのかもしれない。


 とにかく新たな敵を前にして僕たちは身構えるのだった。

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