第50話「戦いの日までに」

 オートバタリオンの出現は三日後だが、付近の海上と言うだけで、

具体的な場所は王子は聞かされてなく、また時間帯も不明だった。

まあ海上は中継点だから、王子としてはいつでも、

どこでも別に気にならないみたいだった。

とにかく、うっかり攻撃をしなけりゃいいと言う事。


 そういう事なので、オートバタリオンの破壊は決めたものの、

付近の海上に現れる三日後までは、やれることは、ドローンを展開し出現後、

できるだけ早く発見できるようにしておくことだった。

攻撃を避ける観点からも、航路や海路を避けているはずで、

その辺に当たりを付けておいた。


 ドローンを配置した後は、この三日間は、

オートバタリオンへの対策を考えつつも、いつも通り過ごす。

依頼も来るけど、幸いな事に日帰りのものばかりだった。

もし宿泊が必要となる依頼があったら、

オートバタリオン破壊に差支えるかもしれなかったから。


 さてパーティーの翌日もロボを使った討伐仕事があって、

あの後、着替えて出発し、昼頃には終えて戻ってくると、

店には、見た事のある人がいた。

妙に年季の入った鎧を着たその人は、僕の事の気付くと、


「久しぶりね」


と声をかけてきた。


「確か、貴方は騎士団の」


以前のボランティアの時にあった女性兵士だった。


「貴女も買い物?」

「いえ、ここはクランの拠点なんです」

「そうだったの」


どうやら僕に会いに来たわけじゃなく、偶然この店に来たようで、


「なんでも、高級ポーションを安値で売っていたり、

珍しいものを売ってるって言うから、この町に来たついでに寄ってみたの」

「この町に来たのは、王子の護衛ですか」


と聞くと、


「ええ……」


と言いつつも、


「でも私は、一線を引いた身でね。時々嘱託で、手伝いをしているの」


あくまで手伝いなので、他の護衛の兵士たちとは違って、

手が空いている時間があるとの事。


「貴女と会った時から、既に嘱託だったんだけど」


僕は思わず、


「えっ!」


と声を上げてしまった。被災地での彼女の様子は、

現役バリバリの兵士の様に見えたからだ。


「そうは見えなかったですけど」

「あの時は、力が入っていただけよ」


と答えるけど、その声に、妙に重みがあって、

威厳の様なものを感じた。


 その後、彼女はスポーツドリンクに傘やレインウェアを買った。

彼女が話題に出したポーションは、売り切れてはいたが、

元より買うつもりはなかったようだった。買った商品を手に、


「機会があったらまた来るわ」


そう言って店を後にした。

彼女の言う、その時が直ぐに来ることになるのだった。


 そんな出来事から一日、その日も依頼があって、

それも終えた夕方、食堂で夕食を食べていると、一緒に夕食を食べていたユズノが、


「いよいよ明日だね」

「いや今夜かもしれないよ」

「えっ?」

「言ったよね。敵はいつ来るか分からないから、深夜の可能性もあるって」


なんせ相手は気分屋で、時間指定はしてないから、

その日が来ればいつでも、お構いなしの可能性がある。

だから0時が過ぎればその日となるから、

夜中の可能性もあるし、逆に明日の午後11時の可能性もある。

ただ二日後の転移の事を考えれば、こっちは当日の朝と、

ざっくりではあるが指定しているので、

できうる限り早い時間になるのは確かだった。


「周囲への影響を考えると夜中の方がこっちも都合がいいけど」


海上だから航行する船舶以外は影響はないようっだけど、

同じようにオートバタリオンを捜索している騎士団の事を考える必要があった。


 ドローンによる監視の中で、騎士団と思える飛空艇を、

大型、小型問わず集結しているを確認している。

アニタさんが、言っていた通り女王陛下に掛け合って、騎士団を動かしたんだろう。

目的の日が来たら、直ぐに捜索できる様にしていると思う。

あと飛空艇は、王子に気付かれないように、動いているように見えた。


 気付かれれば、失敗が目に見えるので、取りやめという事になりかねない、

まあ、それはそれでいいかもしれないけど、

王子もメフィストも、そのまま諦めるような人間じゃないから、

必ずまた実行する気違いない。でもその時はいつやらかすか分からないから、

未然に防げそうなこの機会を逃すわけにはいかない。それは僕らも同じだ。


 そして僕はユズノに、


「とにかく、今夜は気を抜けないよ」


と言うと、


「うん、分かった」


とユズノは力強く答えたのだった。

ただ、ユズノに限らずみんなこの件に関しては妙に力が入っている。

僕が、王子と一夜を共にしたのが影響しているような気がした。


 とにかく今晩は、何時でも出撃できるようにして、寝るつもりだし、

あと討伐の段取りも既に話し合っていて、後は時が来るのを待つだけ。






 その頃、アニタが通信ができるマジックアイテムで、

母親である女王と話をしていた。


「母上、騎士団を動かしてくれて、ありがとうございます」

「民の危機なのだから、当然の事をしたまでよ。

それにしてもアンスガルが、こんな事をしようとしているなんて、

自白剤の証言だから、罪には問えないわね」


王様とはいえ、できうる限り法に従う。それが彼女の主義。


「危機は未然に防がなければいけないわね」


と言いつつも悲しげな声で、


「私がもっと早く、早くあの子を引き取っていれば、こんな風にはならなかった」


アンスガルの振る舞いは、暮らしていた父親の実家である貴族家の影響が、

色濃く出ているからだ。


「いえ、兄上には母上の背中を見て、改める機会はあったはずです。

それをしてこなかったのは兄上自身です。

母上は、親として十分過ぎる程に頑張っておられました」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど」

「とにかく、今は兄上の野望を阻む事です。リルナリアとその周辺の人々の為に」

「そうね……」


と悲しみが尾を引くのか暗い声で言う。


 そして声のトーンを戻しつつ、


「過去の事例を鑑みて、オートバタリオンを倒せるだけの戦力を、送っているわ。

ただ……」 


女王には、一つ気になる事があった。

過去の記録、それこそ女王が即位する前からであるが

これまでもオートバタリオンと戦う機会があり、

破壊寸前まで追い詰める事もあったが、

何時も魔族の邪魔が入って、逃げられているのだ。


「オートバタリオンは魔族であっても制御できない代物なのに、

魔族たちは、破壊を嫌がるみたいなの。特に上位の魔族ほどね」


邪魔しに来るのは上位の魔族たちで、強力なロボでやって来る。


「それでは、今回も?」

「その可能性があるわ。それも計画のうちかもしれないけど、

『勇者の一族』も一緒なら、返り討ちにできるだろうし」


オートバタリオンだけでなく魔族を倒したとなれば、より高い名声を得られる。


「でも兄上はそんな話はしなかった」

「だったら、邪魔は入らないと言う事かしらね。

魔族が関わる自作自演なんだから、あり得る事かも、

でも騎士団相手では別でしょうね」


目的がアンスガルに破壊させることなのだから、

それ以外の相手は話は別と言う事になる。


「まあ撤退であっても野望を阻む事ができるわ。

過去の記録では、撤退したオートバタリオンの再出現までは、

かなりの年月が掛かるから、修復に時間が掛かっているんだろうと思うわ」


しばらくは同じ手は使えない。


 だが問題は魔族の邪魔が入った時、当然ながら、戦闘状態になる。

撤退が目的だから本格的なものではないが、周囲に被害が出てしまう。


「海上だから、損害が騎士団にとどまればいいんだけど」


戦力は、一応邪魔が入ることを想定している。


「とにかく騎士団の配備は出来ているから、

あとは事が無事済むように祈るだけよ」

「そうですね」


と答えるアニタだが、


(やっぱりカラドリウスの力を借りた方がよかったでしょうか

でも彼女たちは冒険者とは言え一般人、強力な戦力を持つとはいえ、

ある意味お家騒動なこの状況に、巻き込むのも)


と躊躇していた。


 そして女王は、


「この前から言ってるけど、一旦王宮に戻ってきなさい。

今回は稀な話かもしれないけど、

貴女の暗殺に周囲を巻き込むことを厭わなくなってるわ」


王宮に戻ってくれば、身の安全を保障されるだけでなく、

何かあった場合、事を王家だけで留める事もできるからだ。


「今回の一件が終わったら考えます。

でも今はここに残って事を見守ります」


今回、自分の暗殺はついでな所はあるから、

街を出たとして、事は実行されるだろうし、

そうなったら、民を置いて逃げたみたいになるので、それが嫌だった。


 女王は、アニタの思いを理解したのか、


「分かったわ。あなたの好きなようにしなさい」


とだけ答えた。アニタは、


「ありがとうございます」


と返した。


 この後、通信は終了するのだが、

最後にアニタは、密かに気になっていた事を女王に聞いた。


「ところで、母上、今、どこにおられるのですか」


女王は返答せず通信を切った。








 時間は午前0時前、僕はブリッジにいた。

敵が来るかもしれないと言う思いから目は冴えていた。

それでも、こんな時間帯に来ないだろうと言う思いも抱いていた。


 だが、0時ちょうどとなった時、オペレーターが


「艦長、巨大空中戦艦の出現を確認。映像を表示します」


ブリッジのスクリーンに飛空艇というか空中戦艦の姿は表示される。

ドローンがとらえた映像。


「確かに異形だ」


何というか砲台は沢山ついている肉の塊の様に思えた。

ただ、暗視カメラの映像だから色までは分からなかった。

そこで、ライトを使ったが、ドローンに搭載されているものでは、

全体を照らす事ができない。照らした部分が赤いのは確認できた。


「ドローンからの情報では、内部からは生体反応はおろか、

アンデッド反応もありません。完全な無人で航行しています」


見た目とこの情報から、相手がオートバタリオンである可能性は高かった。


 そして僕は、


「全艦発進!」


潜行したままカラドリウスを発進させ、

オートバタリオンのいる海域に向かうのだった。

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