第49話「一夜の事」

 さて僕が王子に吹きかけたのは、プリシラに作ってもらった霊薬で、

はっきり言うと自白剤。ゲーム中では、アドベンチャーパートとしいて、

捕虜の尋問と言うのがある。選択肢を選ぶ事で、

うまく情報を引き出すと言うものだが、

登場する選択肢はランダムな上、その結果もランダムで、結構難しい。

このパートを一発で成功させるアイテムが自白剤で、

ショップで手に入るんだけど、これは注射器で打つタイプ。

魔法ラボでも霊薬と言う形で、同様のものが作ってもらえて、こっちは噴霧式。


 ゲーム中では、使用時は項目を選択するだけで、設定以外特に違いはない。

しかし現実では、実際に行わなければいけないから、

注射よりも噴霧式の方が使いやすいと思い。こっちの方を使う事にした。


 なお自白剤の事を思い出したのはドット達の一件の後なので、

思い出した時は、あの時使っておけばよかったと思った。


 その自白剤を掛けられた王子は、ベッドで横になって笑みを浮かべている。

実はこの薬は幻覚効果があって、良き夢を見せて、

相手を骨抜きにし、隠し事を洗いざらい白状させると言うもので、

注射で打つ方も同様。

なおゲーム中では男の捕虜に使うヘラヘラして、気持ち悪いだけだけど、

女性の捕虜に使うと、妙にエロいので女性捕虜には必ず使うと言うプレイヤーが、

結構多かった。


 それはさておき、王子は、


「ナツキ……ナツキ……」


とうわ言を言っている。ルビィは、


「こりゃ、幻覚の中で艦長を抱いてるんですね」


しかも、


「両性具有の体、美しいぞ……」


とも言っている。クロウの報告では王子は女好きだか、両性具有にも執着があって、それを描いた芸術品を収集しているとか、僕は体の事は明かしてなかったけど、

両性具有だったらと言う願望を持っていたんだろう。

それが幻の中で反映されていると言うところかな。

しかし、この王子にうわ言で名前を言われるのは、気持ち悪かった。


 気持ちは悪いけど、直ぐには話を聞けず、少し待たねばならない。

これはゲーム中も一緒だ。だから護衛に眠ってもらったのも、

待っている間にで勘づかれたらまずいから。


 そして、しばらくルビィと一緒に待っていると、ドアをノックする音がした。


「ちょっと見てきますね」


と言って寝室を出ていくが、直後、


「えっ、ちょっと待って」


と言う声がしたかと思うと、複数人に人間が入って来たような音はした。


「!」


ただ事じゃないと思い、身構えたけど寝室に入って来たのは、


「アニタさん……ユズノたちまで……」


アニタさんは安堵したように


「どうやら、大丈夫だったようですね……」


事情は聴いていたけど、心配になったよう。それはユズノたちも同じで、僕が


「待っておくように言ったよね」

「だって、心配だったんだもん」


と言うユズノ。


「失敗は要らんかったじゃろう」


と言う雫姫だけど、そう言う割には、ここに来ている。

あと宿は厳重な警戒だったけど、アニタさんは身分を明かして入ってきたらしい。

王女が相手では護衛も通すしかない。


 さて王子は横になったまま、笑顔でうわ言で僕の名前を呼んでいる。

あと涎をたらしだした。


「気持ち悪い……」


と言うサファイアに、


「よっぽどいい夢を見ているんでしょうね」


と言うエレイン。僕は、


「そろそろ頃合いかな」


僕は王子に話しかけようとすると、


「ちょっと待って記録するから」


とアニタさんはボイスレコーダーみたいなものをとりだした。

見た目通り音声を記録するマジックアイテムとの事。

道具も用意したところで、改めて話しかける。


「なぜあなたは、この町に来たんですか?」


寝言のような口調であるが、それでもはっきりと喋った。


「英雄になるためさ、ついでに妹を抹殺する」


アニタさんの抹殺と言うのは、想像がついたけど、

英雄と言うのが気になった。


「具体的には?」


と聞くと笑みを浮かべながら、


「メフィストが用意してくれるオートバタリオンを使ってだ」


その名を聞いて、血相を変えたアニタさん。


「オートバタリオンですって!」

「アニタさん知ってるんですか?」

「えぇ、魔族の兵器の一つですよ」


魔族と結託しているのだからその兵器が出てくるのは、

おかしな事ではないんだけど、


「オートバタリオンと言うのは、自動制御の戦艦と

複数の大型で人型のメファミリア、

いや自動制御のライレムと言ったほうが分かりやすいでしょうか、

それらで構成された部隊と言うべきでしょう」


それは自立起動型のロボット軍団で、対象を定めると、

そこに自動で向かい、戦艦の砲撃と出撃させたロボの攻撃で、

対象地域を徹底的に殲滅すると言う。


「ただ一度戦闘を始めると、魔族であっても制御できず暴走するので、

普段は封印しているそうですが」


メフィストはその封印を解いて使用するらしい。


「兄上の飛空艇にライレム、あと勇者の戦力があれば、

倒す事だけならできるでしょうし、確かに英雄にはなれるでしょうが」


周囲への被害は甚大だと言う。その被害に乗じてアニタさんを抹殺するとの事。

あと僕たちの抹殺も含まれているんだろうけど。


 話を聞いたアニタさんは、


「なんて馬鹿な事を……」


と言って頭を抱えた。確かにこのままでは、巻き添えで

リルナリアを含めこの辺一帯が滅茶苦茶になってしまう。僕は思い立って、


「勇者はこの事は?」

「ああ、知ってる。ただ俺が魔族と通じている事は知らないがな」


メフィストの事は話してないものの、この一件には乗っかる気らしい。


「全く勇者たちは……」


と憤るアニタさん。


 そして、具体的な襲撃の日を聞いた。それは五日後との事。

丁度王子が帰るころだ。しかも当日の朝に、転移でこの街に出現させると言う。

正確には、オートバタリオンを置いてある魔族の拠点からは、

直接転移できないので、三日後に付近の海上に一旦転移して、

そこから直ぐに転移できないので、二日ほど待つという。

この行程は、最初の出現時に間違えて攻撃しない様にと言う配慮から、

メフィストが伝えているという。


 あと街に転移で出現させるのは、シーサーペントの時と同じで、

被害を出させて、その強さを知らしめ、

それを退治する事で、自分の功績を高める事かできる。

もちろん、アニタさんを巻き添えにして始末する目的もある。


「それに転移でも出現なら甚大な被害が出ても、

防げなかったことに対しては、仕方ないという事になります」


ただ唐突に表れるのだから、防ぎようがないから。


 しかしシーサーペントの時も酷かったけど、

今回は余計にひどい。すべてが仕組まれた事なのだから。


「ここまでの会話は記録してるんですよね。これを証拠にどうにかできませんか?」


と聞いたけど、


「これは、証拠と言うよりも備忘録みたいなものだから、

それに自白の霊薬は妄想を口走る事もあるので、証拠としては使えないんですよ」


それはこの世界の自白剤の話で、僕が使ったのは、元はゲーム世界のもので、

完全再現なら、そういう事はないはず。


「メフィストとの接触したという事実がありますから、

私は、兄上の言葉は妄想ではないと思います」


と言うアニタさん。なんでもメフィストならやりかねないらしい。


 ここでサファイアが、


「このまま、始末していいですか……」


と言い出した。僕は


「それはダメだ。罪に問われるだけだよ」


今も十分罪を犯しているけど。それにアニタさんも


「不本意ですが、それは許されません神託がありますから」


一応王子は、「殺すな」と言う神託がある。

神託に反すれば、何が起きるか分からないというし、

実際神託に反して滅びた国の伝説も、小耳に挟んでいる。


「今できる事は、野望を打ち砕く事だよ」


するとアニタさんが、


「ここからは、私たちの仕事です。母上に頼んで、騎士団を動かしてもらいます」


王子を罪に問う事は出来ないけど、

オートバタリオンを海上にいる間に、破壊する事は出来るという。


「いろいろありがとうございました。

事が終わったら、このお礼はいたしますので」


とアニタさんは言った。


 この後は、僕は勝手に帰ったら妙に思われるので、

他の皆には帰ってもらって、僕と潜入しているルビィは残る事にした。


「ナツキ……大丈夫なの」


不安気なユズノに、他の面々も心配そうだが、雫姫は、


「殿の事は大丈夫じゃよ」


と絶対的な信頼があるのか自信満々だ。更に、


「大丈夫、艦長はこのルビィが、責任を持って守るから」


とサムズアップする。


 ただそれでも、不安げな様子であったが、とりあえずみんな帰ってもらい。

その後、朝まで部屋にいた。もちろん昨夜はお楽しみだったように細工もする。

そして朝になって、王子が目を覚まし、


「昨日は楽しかったぞ」


とニヤけた顔で言ってきた。因みに自白剤の効果で、

薬を掛けられたあたりの記憶は失っている。

自白剤は使ってないけど、ルビィが意識を失わせた人々も、

今は起きてるけど、同じように意識を失った瞬間の事は思い出せていない。


 そして僕は、


「では、帰りますね」


と言って帰ろうとすると、王子は、


「なあ、俺と一緒に王都に行かないか?」

「……考えておきます」

「三日後にお前の所に行く。カラドリウスの奴隷という事は、

ヘルメス商会に行けばいいのかな」

「えぇ、そうですよ」

「いい返事を期待しているからな」


と王子は言った後、護衛の女性兵士の一人に、


「送っていけ」


と命じて、その兵士に送られる形で商会に戻る。


(返事はノーに決まってるんだけどね)


と戻る途中そんな事を考えていた。


 そして商会から転移ゲートで戦艦に戻ると、

みんな安堵した様子で迎えてくれた。宿に乗り込んできた時もそうだけど

僕の事を思ってくれているというのが、強く感じられて、嬉しかった。


 でも、まだ終わりじゃない。

アニタさんは、後は自分たちの仕事と言っていたけど、

事情を知ったからには黙ってられず、

僕らもオートバタリオンの破壊を目指すのだった。

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