第48話「パーティー」

 僕は、ドレス姿に着替え、エレインに化粧を施してもらった。

鏡で見た僕は、自分で言うのはあれだけど、別人のようだった。


「凄い、これが僕だなんて」

「どう?私の腕は確かでしょう」


と自信たっぷりに言っていた。ただ化粧をした事で、別人のようにと思ったものの、

ますます王子好みになった事を僕たちは知らない。


 さてパーティーの参加は僕だけじゃなく、

クランのメンバーも参加しても良いと言われていた。

そこで、希望者を募ったところ、ユズノ、カナメ、サファイア、エレイン、ユイ、

ラファエラ、雫姫が参加する事なった。

ドレスは、課金アイテムのパーティードレスがあったので、それを着てもらった。

なお雫姫は和装だ。それと艦長用の衣装にドレスはない。


 パーティー会場は、この街にある多目的ホールのような場所で行われる。

見た感じ、貴族のパーティーのようで、華やかさがあった。あと立食形式。


 しかし前世は男だし、生まれ変わっても、

普段から男物の服なので、女性もののドレスは着慣れてない上に、

ハイヒールを履いた事もないから、

歩き方がぎこちなくて、転びそうになってばかりで、

そのたびに周りに心配されたけど、その都度フォローしてくれていた。


 そんな中、


「大丈夫ですか?」


と声をかけてきたのは、アニタさんだった。


「ナツキさん、ですよね?」


化粧の所為で直ぐにわからないという感じだった。


「アニタさん、来ていたんですか?」


彼女は、グリーンのロングドレスを着ていて、

化粧の仕方を変えていて、同じ正装でも、王女の時とはまた違って見えた。


 そんなアニタさんは、僕の質問に、


「兄上の事が気になりますので、領主さまに頼みまして」


領主は、アニタさんの素性を知っているらしい。


「あくまでも、Aランク冒険者としての参加です」


Aランク冒険者となれば、貴族との繋がりもでき、

こういうパーティーに御呼ばれする事は珍しい事じゃないとの事。


「さすがに、兄上もこの場では手出しに出来ないでしょうし」


真剣な表情で言う。その王子は、会場で町の有力者と談笑しているが、

そこに交じって、バルトルトの姿もあった。実は王子の飛空艇が到着して、

少ししてから、「勇者の一族」の飛空艇が来ていたし、

バルトルトと王子が懇意であるから、

ここに来ていてもおかしくはないとは思っていた。

前に会った時とは違い貴族の様な正装をしている。


(王子は、仕方ないにせよ勇者とはあまり関わりたくないな)


そんな事を考えていた。


 そしてアニタさんは


「ところで、ナツキさん達は、何故?」

「商業ギルドから、頼まれて……」


すると察したように、険し顔で、


「そういうことですか……他の皆さんも?」

「頼まれたのは、僕だけです。でも僕だけパーティーに行くのは、悪い気がして、

来てもらっただけで」


と言うとアニタさんは


「断っても良かったと思いますけど」


と言うけど、僕は耳打ちで、真意を話しておいた。

おかしな勘違いをされちゃ困るから、アニタさんは、血相を変えた。


「それは、危険です!」

「大丈夫ですよ。貴女の思うようなことにはなりませんから」

「ですが……」


大丈夫と言って、納得できない様子だった。

まあ、その気持ちはわかるし、彼女だけじゃなくユズノたちも、

未だに、納得しきれていない様子。


 そんな中、


「おやアニタさん、お久しぶりですね。どうかされまして」

「アドリーヌさん、別に何もありませんよ」


彼女は、赤を基調とした随分と派手なドレスを着ている。

まあ勇者の妹であるから、ここに来てもおかしくはないんだけど、


(何でいるんだよ)


とそんな事を思った。そして彼女はこっちの方をじっとを見て、


「おや誰かと思えば、貴女、ナツキさんですね。直ぐには気づきませんでしたよ」


僕は彼女の言葉に答えずに、アニタさんに、


「勇者の妹君と面識があるんですか?」


と尋ねると、


「ええ、家族ぐるみで……」


とどこか不機嫌そうに答えた。考えてみれば、勇者は王が任命するわけだから、

勇者の一族が王族と面識があってもおかしくはない。

したがって、アドリーヌはアニタさんの素性を知っているようだ。


 そんなアドリーヌは、


「それにしても、ナツキさん。元より王子様好みと思いましたが、

その御姿なら、確実に心を射止めることができるでしょうね」


と言った後、


「貴女も、王子様狙いですか?」

「『貴女も』って事は……」


間髪入れずに、


「私は違いますよ。一族の付き合いで来てるんです」


ここからは小声で、


「それに、あの王子は兄に似てるんで、好きになれないんですよ」


と言いつつ


「ここに来ている女性は、大抵は王子様狙いですよ」


パーティー会場には、大勢女性がいて、何人かは積極的に話しかける人もいれば、

ユズノ達の様に不本意そうにしている人もいる。


「まあ、本人の意思にかかわらずでしょうが」


自分の意思で来ている女性もいれば、

僕の様に、本人の意に沿わない人もいるようだ。


 そしてアドリーヌは、アニタさんの方を向き意地の悪い笑顔で、


「貴女は王子様狙いでないのは知ってますよ」


と言いつつ、


「お互い、お兄様には苦労しますね」

「そうですね」


とアニタさんは不機嫌そうに返事をすると


「では私はこれで、」


そう言ってアドリーヌは、この場を離れて、

有力者と思える人たちが集まる場所に向かった。

そんな彼女を、アニタさんは怖い目で見ていたので、

恐らく、僕と同じで彼女に良く思っていないようだった。


 その後、僕は王子に近づこうと試みるも、

王子の周りは人が多いというのもあるが、ユズノ達が、さりげなく邪魔してくる。

まあ、僕の事が心配なのはわかるし、僕だってこんな事はしたくないけど、

千載一遇と言ったら大げさだけど、機会は利用したいし、

それに、あの王子やあとバルトルトもそうだけど、

こいつらには、「夜の蝶」の様に専門の奴らでも近づけたくない。


 そしてユズノ達の奮闘もむなしく、


「そこ君、俺とお話ししないか?」


と王子に声を掛けられた。


「喜んで……」


と答えると、王子は嬉しそうな顔をした。

ただ妙に腹の立つ顔だった。


「名前は?」


と聞かれ


「ナツキです」


と答える。ここで、


「お前、カラドリウスの所の奴隷だな」


と側にいたバルトルトが意地の悪そうな笑みで声をかけてきた。

奴隷じゃない事は、知っているから、嫌がらせで言っているんだろ。


「さすがに王子相手では、断る事は出来んか」


というバルトルトに、以前誘いを断った事への嫌味もあるのだろうが、

面倒なので返事はしなかった。さて王子はと言うと、


「俺は、奴隷だろうが構わんぞ」


と言うが、その言い方が偉そうなので、腹が立ってけど、

個々は堪えた。するとバルトルトは、


「まあ、王子様相手に、粗相のないようにな」


と言いつつ、


「それでは、王子さま。ごゆっくり」


と言って、バルトルトはその場から離れていった。

 

 この後は、王子と話をしたが、言い方は何処か偉そうだが、

接し方は、紳士的だった。まあ最初から偉そうにせず、

相手をその気にさせるみたいだった。言っとくけど、僕はその気になる事はない。

あと下心丸出しと言うような感じで、正直イライラしたが

この後の為にも堪えて、うまく行っているように見せかける努力はする。


 そしてパーティーは進んでいき、ダンスの時間になった。


「ナツキ、一緒に踊らないか?」


と誘われた。


「ハイヒールに慣れてないもので、覚束ないですがよろしいですか」

「構わんぞ、俺に任せておけ」


そう言われて、ダンスが始まった。

王子は僕をリードするように、踊り出した。


「お上手なんですね」


と褒めると、


「当然だ」


と偉そうに言いつつも


「足元はおぼつかないようだが、ダンス自体は慣れているようだな。

主人から教わったか?」

「ええ、まあ」


と答えるけど、実際はゲーム内の期間限定イベントで取得したんだけどね。


「この調子なら、思った以上に楽しめそうだな」

「ご期待に、添えればよろしいのですが」


と僕は答えつつも


(早く終わってくれないかな)


と思っていた。あと王子と踊っているわけだから、

注目の的になっていて、落ち着かないというのもある。


 しかし、ここで、


「何だ、あの女は」

「美しい」

「異国の方だろうか」


という声が上がった。


(雫姫か……)


彼女は、たった一人で、扇を手に日本舞踊の様な舞を披露していた。

これが人々の、注目を集める事となり、

僕らへの視線が緩和され、気が楽になった。

彼女は、それを目的に自分に注目を向けさせたようで、

ありがたいと思った。


 一方、王子との接触を邪魔していたユズノ達は、

接触後は、邪魔してくる気配はないけど、

時折、目を向けると不安気にこっちの方を見ていた。


(早く事を終わらせて、皆を安心させたいけど……)


今、主導権は王子にあるし、変にこっちが握ろうとして、

失敗してもまずいしな。


 引き続きダンスを踊っている僕らだが、ここで王子は


「それにしてもあの女、美しくて、なかなかの舞だな」


と雫姫の事が気になったようだったが、


「だがお前の方が好きだ」


こっちの目をジッと見つめながら言って来た。

正直気持ち悪かったけど、堪えつつ、


「ありがとうございます」


と答えた。


 そしてダンスを終えて、しばらく会話した後、


「今夜は、俺の部屋に来ないか?」


と言われた。ようやく来たと思った。


「喜んで」


と答える。そしてパーティーの後、

会場近くの王子が滞在する高級宿へと向かった。

滞在中は専用の飛空艇ではなく、この宿で泊まるとの事。


 王子が滞在するだけあって、厳しい警備となっていて、

建物に入る段階で、持ち物検査。スキルによる収納空間まで調べられ、

そして問題なしという事で、建物に入る。

なお当然ながら王子の部屋はスイートルームで、僕と王子が部屋に入ると、


「失礼します」


メイド姿の女性たちがいて、再度持ち物検査。ここでも問題なしとなった。


 さて僕らは部屋の奥の寝室へと向かう。部屋のリビングには

メイドや護衛となる兵士がいる。因みに兵士は女性。そして寝室に入ると、


「ナツキ、お前の事は気に入ったぞ」


とベッドを前に王子は言う。


「光栄です……」


と僕が答えると、


「それじゃあ俺の物に……」


と王子は、事の及ぼうと僕に手を伸ばしてくるが、

僕は素早く懐からスプレーを取り出すと、王子に吹きかけた。


「何を……」


王子はふらつき、ちょうどベッドに倒れた。


 同時に隣のリビングの方から、バタバタっという音がした。

寝室から出てみると護衛の兵士やメイドたちが一人を除き、倒れていた。

みんな眠っているだけ。


「艦長、こっちはうまく行きましたよ」

「こっちもうまく行ったよ。ルビィ」


一人だけ無事なメイドは以前から潜入しているルビィだった。

僕が持っていたスプレーが、持ち物検査に引っかからなかったのは、

部屋に入った時の持ち物検査の際に、ルビィが渡したからだ。

なおスプレー自体は、王子が到着し、パーティーが始まるまでに、

王子とともにやってきていたルビィを呼び寄せて、渡している。

そして、兵士やメイドはルビィが眠らせた。邪魔されないようにする為。


 そして僕はルビィを連れて、寝室に戻る。

すると王子は横になったまま笑みを浮かべていた。


「どうやら効果が出て来たみたい」


そうここからが本番なんだよね。

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