第47話「王子の襲来」

話は前に戻り、ルビィの追跡を巻いた後、何処かの部屋で、


「まさか付けられていたとは、何者だアイツは?」


とフードを外しながら言うアンスガル。

同じ部屋にいた人物も、フードを取って素顔を見せた。

その髪は銀色のロングヘヤーで、白い肌で、中々の美人の女性だったが、

片目がぼんやりと光っている。


 女性は、


「さあね、でも将来の王様なんだから、脅威に思っている人間は多いはずだよ」


彼女の「将来の王様」という言葉に妙にうれしそうに、


「とにかく、助かったメフィスト」

「いや、礼には及ばないさ」


王子とあっているこの女性がメフィストであった。


「ところで、話って何だい?頼み事なら、先払いだよ」


さて部屋のは机に椅子、ソファとテーブル、そしてベッドがある、


「分かってる」


王子がそう行った後、二人はベッドに向かった。


 少しした後、ベッドの上で、王子は隣にいるメフィストに、

妹の事やカラドリウスの話をして、

特にカラドリウスをどうにかしたいと言う話をした。


「カラドリウスか、ボクも話は聞いているよ。

君らは知らないだろうが、奴らは巨大な飛空艇を持っているよ」

「そうなのか?」

「同胞から、聞いた話さ」


メフィストは、基本的に同族である魔族にも嫌われてはいるが、

それでも、少ないものの知り合いはいた。


 メフィストが、アンスガルに抱き着きながら、


「まさか、君がカラドリウスと関わることになるとはなね」

「とにかく、こいつらをどうにかしたい。妹を消す為にもな」


するとメフィストは、笑みを浮かべながら、


「そんな事よりも、いい話があるんだけど」

「何のことだ?」

「実は、いい考えが浮かんじゃってさ。

君が連絡をくれなくとも、会いに行く予定だったんだ」


と言いつつ、


「カラドリウスの事は放っておいて、ボクの話を聞いてくれないかな」

「いや、カラドリウスの方が優先だ」


しかし、メフィストは笑みを浮かべたまま、


「結果は一緒だよ。もしボクの計画が成功すれば、

君の妹を亡き者にして、王になる足掛かりとなるはずだよ」

「本当か!どんな計画なんだ?」


メフィストは計画の詳細を言い。


「確か、君はライレムの操縦は得意だろ」

「ああ……だが……」


不安気なアンスガル。


「心配なら勇者の力を借りるといい。君は勇者とも懇意だし、

向こうも君を立ててくれるだろうから、手柄の横取りにはならないだろうし」

「確かに……」


そしてメフィストはアンスガルをじっと見据えながら、


「君は王になる男だよ。こんな所で怖じ気づいてどうするんだよ」


と発破をかけるのだった。






 アンスガル王子のリルナリア訪問は、お忍びではないので、

アニタさんと話をした三日後くらいに、近々来るという事で町で話題になっていた。

一応王子だから、警備体制はキチンとしなければいけないので、

衛兵たちが騒がしい他、僕は店を持っている関係上、

商業ギルドすなわち商工組合に入っていて、集会に顔出すのだけど、

そこで一部の経営者が、今回の訪問時に、

いかに王子に取り入るかを話題にしている。

王子に取り入って王族とのパイプを築きたいみたいだった。


 王子の訪問を歓迎する声もあれば、普段からの悪評もあって、

迷惑だと言う声もあった。僕らはアニタさんの一件や、

メフィストとの事も考えれば、碌なことが起きないと思っているので、

不安の一択だった。


 更に、同時期に勇者の方にも動きがあった。

クロウから、バルトルトが王子と同時期にリルナリアを訪れると言う。

まあ、彼がこの街に来るのは、珍しい事ではないけど、

ただ王子と同時期なのが気になった。

聞けば王子がリルナリア訪問を言い出す、ちょっと前に、

二人は王都で会食している。

まあ、この二人の会食は定期的に行われているんだけど、

この時の会食は、かなり警戒していて、お陰でルビィはおろか、クロウでさえも、

そこでの内容が、わからなかったと言う。

この時の会食が、今回の訪問との繋がりがあるかは分からないけど、

時期的に無関係とは思えなかった。


 勇者の一族も、以前の事があるから僕らに良い印象は持っていないのは、

知っている。


(まさか、王子と結託して何かしでかす気なんじゃ……)


しかし、今回の一件はメフィストって言う魔族が絡んでいる。

一応、勇者は魔族の敵だし、クロウからの報告でも、

魔族のスパイがいるようだけど、結託して何かをしている様子はないと言う。


(勇者は自作自演をしてるからな)


クロウが勇者の一族の動向を探るようになってから、

分かったんだけど、毎回じゃないものの勇者の一族が自作自演をして、

前に僕らが倒したリザードマンや、ワーウルフは、

勇者たちの魔法で巨大化したもの。

ただし、その魔法は、何処かからもたらされたもので、

本人たちのも分からないことが多いらしい。


 ともかく自分たちの功績の為に、自作自演をするくらいだし、

シーサーペントの一件の事もある。魔族とも、結託とまではいわないけど、

時には利用して何か起こしかねないと言う事。とにかく警戒の必要があった。


 そして、その時はやって来た。いつものように朝起きて、

ユズノ達と一緒に朝食を食べていると、オペレーターから、


「艦長、大型の空中戦艦が接近しています」


との連絡が入った。


(来たか……)


と思った僕は、


「わかった。朝食を食べたらブリッジに行くよ」


と返事をした。攻撃されるわけじゃないんだから急ぐ必要はない。


「了解」


と通信は切れた。


「さてと」


と僕は呟き、食事を済ませてから、食堂を出てブリッジに向かった。


 ブリッジのモニターには、ドローンから送られてくる飛空艇の映像が映っていた。

戦闘ができるように武装された飛空艇で、砲台が多く物々しさを感じた。

一緒に見ていたユズノは、


「何だか物騒だよね」


と言い、カナメも一緒に見ていて、


「今から戦争に行くんでしょうか?」


と言ったほど。


 これが、アンスガル王子専用の飛空艇で、事前に情報は得ている。

専用機とは言うけど、実際は借り物。

ただ貸しているのは彼の父方の実家である貴族からで、

彼が王家に引き取られてから、彼の腹違いの妹が、当主となっているが、

形だけで、実質は彼が当主も同然との事で、故に飛空艇も、彼の物と言ってもいい。


 なお王族も飛空艇は所有しているけど、共用で使うものであって、

王族個人の専用機はない。それと使う時も、他国への訪問の時か、

国内の移動は急ぎの時か、よっぽどな僻地への時以外は馬車による陸路が基本。

国内移動に、要件を見たしてないのに飛空艇を使うのは、

王族でもアンスガル王子だけだという。


 飛行艇が到着し、街の入り口に降り立つ際も専用のロボに乗って登場。

その名はアウルソス。この世界特有の騎士を思わせるロボであるが、

装甲は金色で、なんだか成金趣味と言う感じがした。

聞くところによれば、高い戦闘力を持っているらしい。


 なおこの登場は、訪問の際によくやってることで、

王子の威厳を示す為に行っているらしい。

そして降り立つあたりから、僕は街に行き、途中アニタさんと会って

群衆に紛れる形で、この状況を見ていた。

 

 側にいたアニタさんは、額を抑えながら、


「まったく、兄上は……見ていてこっちが恥ずかしい」


と愚痴を言っていた。その王子はアウルソスから降りると、

王族なので、群衆から歓声が上がった。

加えて王子が手を振って応えると更に盛り上がる。

 

 ただ本当に歓迎しているのは王族に取り入りたい奴らだけで、

殆どの住民は通り過ぎた後で、ため息をつき、中には、


「さっさと帰ってくれないかな」


と言う人や、


「女房と娘を避難させたよ。手を出されちゃたまらないからな」


と言う人もいた。王子の女癖の悪さを気にしているようだった。

僕も、彼を直に見たのは初めてだけど、なんだかチャラくて、

女を泣かせていそうなイケメンって感じがして嫌悪感がした。


 ちなみにルビィが探った王子のスケジュールの報告は受けていた。

この後、街の有力者と会食、その後、被災地の視察。

ただ広範囲なので数日かけて行うらしい。その間、この街に滞在するとの事

今晩は、この街で領主が主催するパーティーに参加するとの事。

これは、商業ギルドで小耳に挟んだ事だけど、

領主は、王子の事が嫌いだが、表立って訪問となると、

もてなす必要が有るという事で、渋々らしい。

 

 パーティーには地元の有力者、

王族に取り入りたい奴らが集まって来るわけだけど、

僕は商業ギルドのギルドマスターじきじきに、パーティーの参加を頼まれていた。

余談だけど、このギルドマスターは初老の男で、

会合で顔を合わせるくらいで、挨拶程度の会話しかしたことはない。


 これはルビィからの報告の後で、王子がやって来る数日前の事だ。

そのギルドマスターから、


「王子には機嫌よく過ごしてもらわなければいけない

君は……その……王子の好みの顔と言うか……」


アニタさんからも言われていけど、

王子が僕みたいな顔が好みだというのは有名な話らしい。


「つまり、僕が王子の相手をしろと?」

「無論、王子が望めばだけどな。悪い話じゃないだろう。

王子に気に入られれば、御用達にしてもらえるだろうし」


別に御用達にして貰わなくともいいんだけど、


「まあ、嫌ならいいんだが」


とも言われたけど、この時、利用するという考えが思いついた。

今、王子の警戒は強い現状で、ルビィはその目的を掴めずにいる。

そこで破廉恥な手だけど、僕が相手をすることで、

彼の目的を聞き出せるのではないかと思ったんだ。

もちろん乗り気ではないんだけどね。


 その後、参加を決めブリーフィングルームに集まってもらって、

パーティーの参加と、僕の考えを伝えると、みんな良い顔はしなかった。


「どうして、ナツキが!」


と声を上げるユズノ、


「………」


無言で抗議するサファイア、カナメも


「わざわざ艦長がする事ではないですよ。他に人材はないんですか?」


無いわけじゃない。クロウもその一人だし、

またゲーム中の商店経営の一つの「酒場」、

実際はキャバレーだけど、そのキャスト向けのヒロインたち、

夜の蝶シリーズと言われる者たちがいる。ショップで仲間になるキャラで、

多くはキャラ&ロボカードだから、今すぐ仲間にできる。


 だけどたとえ彼女たちでも、あの王子の相手はさせられなかった。

今いるヒロインたちは、なおさらで、


「皆にあの王子の、相手はしてもらいたくない。でも情報は知りたいから、

僕が行くしかないんだ。幸い彼は、僕が好みタイプのようだしね」

「だけど……」


と言うユズノを含め、皆、納得いってない様子だったけど、

その後、渋々了承してくれた。


 いざ参加を決めて、魔法ラボに行きプリシラにあるものを作ってもらった。

それを手に入れて、準備完了かと言うとそうでもなかった。

僕は、体は両性具有だけど、表向きは女性で通している。

まあ心が男のままだから、話し方や仕草はそのままだけど、

それは置いておいて、心が男のままだから、

どんなドレスを着ていけばいいか分からなかった。

みんな渋々だったから、相談出来ず。街の服屋に向かうけど、

店に入れずおろおろしていた、


「どうしたの艦長さん?」


とエレインが、声をかけてきた。


「もしかして、パーティーに来ていく服で悩んでいるのかしら」


と言われ、


「そうなんだ……」


すると


「じゃあ、私がコーディネートしてあげるわ」


彼女も難色を示した方だったが、何故かノリノリで、


「やっぱり艦長は、青が似合うわ」


と青系の色をメインにしたドレスを選んでくれて、

それに合わせたアクセサリーや

化粧品も用意してくれた。因みにドレスはレンタル。


 そんな彼女は、


「正直、私の乗り気じゃないのよ。でも参加するなら、

艦長には綺麗な格好で出てもらいたいの」


とも言っていた。


 とにかく王子の訪問の日を迎え、そしてパーティーの夜を迎えた。

彼女のコーディネートのもと、そこに参加するのだった。

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