第46話「懸念」
ギルドに薬草を届け、戦艦に戻った後、ブリッジにてルビィからの通信を受け、
追加報告として、
「アンスガル王子の訪問、名目は、先の嵐の被災地の視察だって」
「視察って、今更!」
と僕は思わず声を上げてしまった。
嵐の傷跡は、まだ残っているけど、それにしても遅すぎる。
「大方、視察にかこつけた豪遊だと思いますよ。
まあ表向きは初めての視察って事になるみたいだけど」
表向きは、王家は復興のための指示を出して、
現地には来なかったとなっているけど、
ルビィの調べによると、王族たちは秘かに視察に来ていたそうで、
僕らは知らなかったけど、アニタさんもボランティアの冒険者として、
被災地に入っていてボランティア活動を通して、王族として視察をしていたらしい。
他の王族も、身分を隠しボランティアとして、視察に来ていて
なんと女王もお忍びで視察に来ていたという。
来なかったのはアンスガル王子のみ。
それと王子は視察にかこつけて豪遊と言うのは良くしてるそうで、
関係者からはそれだと思われてみたいだけど、
「実際のところは、やっぱりアニタさんの抹殺の邪魔になる僕らの始末と言う所かな
そのまま、アニタさんも手にかけるつもりなんだろうけど、
夜中会っていた謎の人物が関わっている可能性もある」
と僕が言うと、
「私も同感ですね」
とルビィは答えた。
そして現在は先も述べた通り警戒しているから、情報が入ってこない状態。
それでもルビィは、
「とにかく引き続き王子に張り付いとくから、何かあったら連絡しますよ」
と言って通信は切れた。
通信後、アニタさんに、話をした方が良いとおもったけど、
(でもルビィの事なんて説明しよう?)
と考えていると、ユズノが部屋に入ってきて、
「クズ王子の件、何か進展あった?」
クズ王子って言うのは、アンスガル王子の事ね。その通りクズだから。
「進展と言えるかは分からないけど……」
さっき受けたルビィの報告を話す。
するとユズノも、
「アニタさんに話をした方が良いんじゃないかな」
「でもルビィのことどう説明すればいい?」
この国で諜報活動しているようなものだから、詳しい事は話づらかった。
「その辺は、秘密の情報屋って言って誤魔化したら」
ゲーム中にそう言う奴がいたが、
この世界でも、冒険者ギルドで、そういう輩がいるという話は聞いたことがある。
「それで行ってみるか……」
ただあの人は洞察力高くて、嘘を見破れそうだから、
うまく誤魔化せるか不安だけど。
翌日、僕はアニタさんが宿泊している宿に向かった。
本人が仕事で宿にいないかの所為もあるが、その時は宿の人に伝言を頼むつもり。
「私も一緒に行くよ!」
と言ってユズノがついて来ていた。
話をと言い出した割には、僕が女性と会うのは気になるようだった。
宿の着くと、今日は仕事がないとの事で、部屋にアニタさんはいた。
「どうしたんですか?」
「実は……」
ユズノの言う通り、ルビィの事は秘密の情報屋として、
王子がこの街に来ること、その前に謎の人物と接触したこと伝えた。
嘘だと分かったのか疑いの眼差しを向けられたけど、
「秘密の情報屋ですか……」
と言った後、考え込むようなしぐさをして、
そして意を決したように、
「私にも、秘密の情報屋がいます……」
と言った後、
「あなた達の様に兄上の動きまでは知ることはできませんでしたが、
兄と会っていた人物に知っています」
「「えっ!」」
と僕らは思わず声を上げる。
更にアニタさんはとんでもない事を言い出した。
「相手はメフィストと言う魔族です」
「メフィスト……」
「ご存じですか?」
「いえ聞き覚えのある名前で……」
元居た世界で、物語に出てくる悪魔の名前だ。偶然名前が一緒なだけと思い、
「どんな奴ですか?」
「気分屋な便利屋と言うとこですか、基本的に報酬さえ払えれば、
たとえ相手が人間であっても、何でもしてくれると言う感じですが、
ただ気分で依頼を選ぶことがあったり、依頼は成功しても、
依頼者の望まぬ形になることが多々あるようです」
気分屋はともかく、望まぬ形と言うのが、
僕らの世界のメフィストっぽいなと思った。
そのメフィストはその気分屋の性格が災いして、同じ魔族からも嫌われている。
(クロウの情報網にも報酬を払えば、なんでもする魔族の噂ってのがあったな。
噂話なので、詳しい調査は後回しになったままだけど)
この噂の悪魔がメフィストかは不明だけど、その可能性は大きかった。
「兄上は、以前からこのメフィストと関係があり、何度か取引もしているそうです」
アンスガル王子と対立関係にある王族以外で、貴族の何人かが、
突然死したり、不幸が立て続けに起きて失脚したりと、
彼にとって有利に働くような出来事が続いているのは、
僕も情報を得ていたが、これらに、メフィストが関与があると言う。
ただ一番の敵である王族関係者には何もないので、
特に怪しまれることはないし、僕も不可解には思ったけど、
有利には働くと言っても、大きくじゃないのであまり気にしていなかった。
「おそらく王族関係者に関わる依頼は断っているんでしょう」
「どうして?」
と聞くと
「気分屋ゆえにですよ。まあその内、気分が変わって王族に手を出すでしょう。
今回、気分が変わったのかもしませんし」
それが今回のリルナリアに行きに繋がるかもしれないと言う。
ここでユズノが、
「魔族と繋がりがあるってだけ問題なんじゃ?」
「ええ……今のところは……」
と言ってアニタさんは目を背けたので、
その様子が気になりつつもユズノは続ける。
「その事を、訴えればいいんじゃないかな」
するとアニタさんは目を背けたまま、
「そうしたいのは山々ですが、確証を得ることは出来てませんし、
それに情報源を母上に話す必要がありまして、
相手が母上でも、話せないんです。こっちも秘密の情報屋ですから」
彼女にも人には言えない事情があるようだった。
言えないことがあるのはお互い様だから、深く聞くのは避けた。
あと情報屋からの情報で、王子とメフィストがあって、
何だかの取引をしているところまでは分かるが、
具体的な内容までは、その情報屋でも分からないという。
そして彼女は目線を戻すと、
「ただ、メフィストと会った後で、この行動ですから、
関係があるとは思いましたけど、違うかもしれません」
もちろんメフィストと会ったばかりだから、
何かしでかすのは間違いない。
それがこの訪問とは無関係な可能性もあると言う。
「過去に兄上は、気に入らない冒険者に対し、ギルドに圧力をかけて、
資格をはく奪させた事があります」
基本的に冒険者ギルドは、独立性が認められていて、
王様の命令には逆らえないものの、それ以外の人間、
それこそ王族であっても口出しは出来ない。
「王都にある本部は大丈夫ですが、地方の支部となると、
一部、汚職が蔓延していて、一部の貴族や商会の言いなりになってるところも、
多いんです。そう言う権力に弱い支部だと簡単に屈してしまうでしょう」
流れの冒険者故にいろんな場所を見て来たから彼女だから言えること
なお、この街の支部は大丈夫だそうだが、王子は知らないので、
圧力を掛けに、やって来ると言うじゃないかとの事。
「たとえ支部が突っぱねたとしても、他の手もあります。
例えば苦情をでっち上げるとか」
「えっ!」
「この街の支部はきちんとしていますから、濡れ衣は直ぐに晴れると思いますが、
多少の時間は掛かるかと……」
その間は、冒険者登録は凍結されて、仕事はできない。
「指定の依頼とかも……」
「受けられませんね」
待ってもらえる依頼なら、ともかく急ぎの依頼なら迷惑が掛かる事になる。
ただ、ここまでの話は、可能性の話。
「私が居る状況でそういう事をするとは思えませんし」
過去に同じことをして、女王から大目玉を喰らったらしく、
次に同じことをしたら、ただじゃ済まないらしい。
そしてアニタさんは、王都と繋がる通信機の様なものを持っていて、
彼女から即、女王に連絡が繋がる状況らしい。
それを向こうが分かっていれば、そんな事はしないだろうとの事。
「ただ通信装置が、まだ壊れてると思い込んでいる可能性もありますが」
最初に僕らが助けた時は、盗賊の襲撃で壊された。
その後、修理したもののドットたちに壊され、
再び、どうにか修理したけど、調子が悪いので、
新しいものを届けてもらったらしい。新しい通信機でも会話は、
この前、話をした「戻ってこい」と言う話だった。
王子は、この通信機をドットに壊すように命じた可能性があるけど、
新しいのが用意されていることまでは知らないと思われる。
それで、直ぐには連絡が付かないと思って、事を起こす可能性はあった。
そしてアニタさんは、
「あくまで可能性の話ですよ。確かなのはメフィストと会って、
何かをしようとしているという事ですからね」
と言った後、
「私の方も気を付けておきますから、あなた達も、
特にナツキさん気を付けて下さい」
「えっ!」
「ナツキさんは、兄上の好みそうですから」
その後、少しの間会話をした後、アニタさんの部屋を出て。
商店を介して戦艦へと戻った。
そして自室の戻ると、しばし悩んだ。ルビィが張り付いているとはいえ、
警戒されているから、新しい情報を得ることは、難しいだろう。
ただアニタさんが言っていた。僕が王子好みと言う言葉が気になった。
クロウの報告書にも、王子は女好きで、その好みに関することも書いていたが、
どうでもいいと思っていて、きちんと見ていなかった。
まあ、改めてみても、実感がわかない。
だけど僕は後に、この事を利用する事になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます