第45話「薬草取りのひと時」
夜の王都、アンスガル王子を追うルビィ、
彼女も暗視が使えるので明かりがなくとも問題ない。
アンスガルは人通りの少ない裏通りに入り、立ち止まると、
誰かと合流した。同じようにフード付きのローブを纏っているから、
容姿は分からない。ただそいつはアンスガルに耳打ちをしたかと思うと、
二人とも姿を消した。
(気づかれた!)
慌てて近づくが、何処に行ったのか全く分からず。
アンスガルは明け方に帰って来たが、その間に何があったかは分からない。
あれから数日たったが、特に異変はない。
ルビィの報告では、アンスガル王子は僕らに狙いを定めたそうだ。
何をするかは分からないものの、
夜中にこっそり出かけて何者かと会っていたようだった。
こっちの事が気づかれたのか、光学迷彩で逃げられて、
彼女のサポートとして派遣していたドローンにも追う事は出来なかった。
その時は失敗したけど、その後は気づかれずに、
ルビィは引き続き、王子を監視している。ただ向こうも警戒しているのか、
不用意な言動、行動は避けているようだった。
あれから、アニタさんとは冒険者ギルドで会うほか、
スポーツドリンクに発売を開始したので、
約束通り、そのことを伝えたので、店にも来るようになった。
そして冒険者ギルドで会ったときに聞いた話だけど、
「新しい仲間が決まらなくて、実家から一旦帰ってくるように、
言われてるんですけど……」
との事。訳すとお目付け役が、決まらないので、
一旦、王宮に戻ってこいということらしい。まあ、あんな事があったんだから、
お目付け役の選定に苦労しているんだろうな。
なおアニタさんは仲間がいない状況だけど、仕事はしていて、
この数日間で、近隣で魔物退治を数件、
うち一件はライレム推奨なので、ロボをレンタルして行っていた。
これらは、彼女がAランクの冒険者なので話題になるから、勝手に聞こえてくる。
さて、そんな日々の中、 僕はユズノと一緒に薬草採取の依頼を行っていた。
場所は、リルナリアを出て南にある森の奥。
ただ、採取依頼になのにライレム推奨とあった。その理由は、
「凄く髙かったね」
僕らの前には、巨大な岩の壁があった。
この森の奥には、周囲を岩の壁で囲まれた場所があって、
中も森なんだけど、依頼された薬草はそこにのみ生えていると言う。
人工栽培はできないとの事。
そして言うまでもないけど、登って行くのは大変なわけだから、
ロボが推奨されるわけで、僕はラグナロクで岩壁をブースターを駆使して登り、
後は結構高いので、衝撃が気になるから、
やはりブースターを駆使してゆっくりと落下して、ここにたどり着いた。
ロボだから楽だった。まあ、空を飛べるロボを使えばもっと楽なんだろうけど、
他の依頼で出払っているので、この機体で行くしかなかった。
今はラグナロクはユズノの姿になって、一緒に薬草を採集している。
森の中だから涼しいし、加えてここには魔物も住んでいない。
大変なのは、岩壁を越える事だけ、後は楽だ。
「それにしても、トンネルとか作れればいいのに」
と言うユズノ。聞くところによると岩壁は相当硬いらしく、
トンネルを掘るのは容易じゃないらしい。
あと岩壁は、地下深くまであるので、地下に穴を掘るのも容易じゃないらしい。
(生前、街から見えていた巨大な岩壁を思い出すな)
ふと懐かしい気分になった。
ここでユズノが、取っていた薬草を手にして、
「でも、この薬草って、ここにしかないって事は、
ここで発見されたって事だよね?」
「そういう事になるよね」
「その人は、どうやってここに来たんだろ?」
その辺の詳しい話までは聞いてないので、
「そういや、どうなんだろ?やっぱりロボかな?あと飛空艇とか」
ユズノは薬草を持ったまま、腕組みして首を傾げ、考え込み、
「やっぱり自力で登ったのかな?」
かなり高く切り立った岩壁だけど、無理だとは言い切れないんだよな。
生前、実際あれくらいの岩壁を上ったロッククライマーの話は、
聞いたことがあるからね。
「それも、あり得るからもね」
と薬草を採取しながら答えた。
そして僕は、
「ごめんね。思いつきに、付き合わせちゃって」
実は巨大魔物退治の依頼があって、それが思いのほか早く終わって、
討伐の証である魔石を持ち込んだ際に、
ふと掲示板でこの依頼を見つけた。
薬草採取でライレム推奨と言うのが気になった程度で、
その時は、受ける気はなかったんだけど、
冒険者たちが、いつ掲示板から無くなる、つまり依頼が受注されるかを賭けていた。
聞くところによると、この手の依頼は中々受け手がいないらしい。
薬草採取だから、魔物討伐とか、に比べ報酬が安いからとか。
しかし受注を賭けの対象にされてるのを見て、黙っていれなくて、
仕事を終わったばかりなのに受注してしまった。
ちなみに僕が受けたことで、冒険者たちは、かなり長い日数に賭けていたので、
全員賭けに負けた。
それと僕の個人的なことだから、
既にユズノに相談して、了承は得ているけど、やはり申し訳なく思ってしまったが、
ユズノは微笑みながら、
「別にいいよ、私だって放っておけなかったもん」
と言った。その微笑みを見て、
「そう言ってもらえると助かるよ」
と言いつつ僕は安堵した。
その後、二人で薬草を摘み、頼まれていたの量に達して、
「そろそろ帰ろうか」
と言うと、ユズノが
「もう少しいようよ」
と引き止め、僕の側に寄ってきた。僕は彼女の様子に、
(放っておけなかっただけじゃなくて、僕と二人きりになりたかったんじゃ)
と思った。
「じゃあ、一休みしようか?」
「うん!」
彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、 近くの木の袂に座ると、
隣をぽんぽんっと叩いた。隣に座りなさ言ってるみたい。
「わかったよ」
と言って座った。するとユズノは肩を寄せてきた。
もちろんドキドキする。してしばらくそのままでいると、
「ねえナツキ、キスしてよ」
と甘えた声で言った。彼女とのキスは、初めてじゃないけど、
やっぱりドキドキする。ユズノは目を閉じて待っている。
僕は彼女を見つめて、 ユズノの顔に自分の顔を近づけて行き、唇を重ねた。
「んっ」
ユズノは甘い声を出した。僕はユズノとのキスを終え、
「満足してくれた?」
と尋ねると、
「まだ足りないよ」
とユズノが抱きついてきて、またキスをしようとしたその時、
バキッという感じの、木の枝が折れたような音がした。
思わず僕らは離れ、音の方を見ると、
「あらら、見つかっちゃたぁ」
「「エレイン!」」
「あーしもいるよん♡」
ユイの姿もあった。確かこの二人は、魔物退治行っていたはず。
「どうして……」
するとユイが
「仕事を終えて帰る途中だったんだけど~」
二人は、エレインがレギンレイヴになって、
ユイが乗り込み巨大魔物との戦う事になっていた。
そして、レギンレイヴは飛行能力があるので行き帰りは、
空を飛んでいくのだったけど、
「ここの上空を通っていると、お二人の反応をキャッチしまして」
「何で、こんなの所にいるのかんなぁ~って思って」
急に決めた依頼だったから、艦長代理の雫姫には伝えたけど、
他の皆には使えていない。仕事中で忙しいと思うし、
いちいち伝える事でもないと思ったから。
ちなみに移動中は光学迷彩を使っているのと、静かに降りたと言う事なので、
僕らは来たことに気付かなかった。
「それにしても、まさか艦長とユズノちゃんが逢引してるなんて」
と小悪魔スマイルのエレインに
「やるねぇ~!ヒューヒュー」
と笑顔でからかって来るユイ。
僕らは、顔が熱くなって、更にユズノが、
「私たちは、薬草採りに仕事に来ただけだから!」
と言いつつも、目を背けながら、
「仕事が終わったら変な気分になっちゃったのは確かだけど……」
僕も目を背け、そして恥ずかしくて何も言えなかった。
(これが、ラブイベントって奴か)
ヒロインとの好感度高まればこういうイベントが起きるけど、
最初の内は大抵、邪魔が入る。この前の情報収集の時も、
カナメとサファイアが付いて来ていたけど、
今回のエレインとユイが来たのも、必然なのかもしてない。
恥ずかしい思いをしていた僕らだけど、ここで通信が入った。
「艦長!王子が動いたよ」
相手はルビィだった。
「急に、リルナリアに行きたいって言いだしたんですよ」
「何で?」
「わかんない。急に言い出したから、引き続き張り付いとく」
通信は切れた。同じく通信を聞いていたみんなの方を見て、
「薬草も取ったし、今後の事もあるから、さっさと帰ろうか」
皆頷く、
「じゃあ、エレインとユイは先に戻ってて、
僕らは、ロボで岩壁を乗り越えていくから」
楽とは言え、空を飛んでいくよりは時間がかかる。
するとエレインが手を上げて
「でしたら……」
数分後、彼女の提案でレギンレイヴに僕とユズノ、ユイの三人が乗って、
帰ることになった。操縦は僕がする。
確かに飛行能力のあるレギンレイヴなら、岩壁を登る手間もないし早く帰れるけど、
「う~~~~~~~」
と唸り声をあげるユイ、窮屈そうなユズノ。
そうレギンレイヴのコックピットはそんなに広くないので、
三人乗ると窮屈で、この状況のまま、僕らは急ぎ戦艦に戻る。
ルビィからの連絡のこともあったけど、この窮屈さからの解放が、優先だった。
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