第57話「迷宮を進む」
翌朝、目を覚ますと、布団を片付けコックピットを就寝モードから、
通常に戻し、外に出た。結界が機能している内に朝食を用意したかった。
カセットコンロもどきを使って、パンを焼き、
スクランブルエッグを作り、ベーコンを焼く。
そして出来たものを皿に載せて完成だ。
(うん、我ながらいい感じだな)
見た感じはちゃんとできている。
材料は、魔物の肉じゃなく持ち込んだものだから、不味くはないだろう。
少しして、ラグナロクは光に包まれ眠気眼のユズノに変わる。
余談だけど、変身時に脱衣をさせなかったので、
きちんと服は着ていて、目をこすりながら
「おはよう~」
と挨拶してくるユズノ。
「おはよう、ユズノ」
僕がそう返すと、彼女は気づいたように聞いてきた。
「この匂い……もしかして朝ごはん?」
「そうだよ。昨日はよく眠れたかい」
「うん、おかげさまで……」
と顔を赤くする。
その様子に、
(何か含みを感じるんだけど)
と思いつつも、
(ロボットの姿の時に寝るってどんな感じだろう)
彼女の言葉だけでなく、ゲーム中の設定でも、そうなっていて、
実際にゲーム中、今回のような状況になることもある。
ただ寝ている時の描写とかない。そこでユズノに聞いてみると、
「普通に、お布団で寝てるって感じかな……」
と言うがなぜか目をそらして、顔を赤くしてそれ以上は何も言わなかった。
疑問はさておき朝食を食べる。我ながら味はいいと思うし、
ユズノも、僕と同じ考えのようで、
「美味しいよ~ナツキ!」
と笑顔で言ってくれた。その姿を見ると作った甲斐があると言うもの。
朝食を食べ終えると、後片付けをして出発の支度をする。
今回の仕事は、魔物退治じゃないので、戦闘を避けながら最深部を目指してもいい。
避けて進むなら、ロボは目立つので使わない方がいいのだが、
しかし、このダンジョンは広く30メートルのロボが人間に思えるほどだ。
人間の足だと時間がかかってしまう。ロボを使っての移動が必要になる。
今回の依頼は、急ぐ必要がある。幸いと言っていいか、
谷に落ちたおかげで行程は短縮できたけど、
それでもゆっくりする事はできない。
再びユズノはラグナロクとなり、僕は乗り込んで発進する。
そしてレーダーで敵の位置やダンジョンの構造を確認しつつ進む。
ただ確認できる範囲は狭いので、
事前に過去に最深部まで行ったことのある冒険者が作った地図を、
手に入れていたので、それも参照にしつつも手探りで先に進む。
しかし、魔物はウジャウジャいるので、戦闘は完全には避けられない。
『敵が来るよ』
「僕も確認したよ」
前方の、ちょうど避けて通ることのできない場所には、
ギガント・ゴブリンの群れがあった。屯していてその場から動く気配はない。
この魔物は、巨大魔物の中でも弱い分類で、
元のゴブリンが小柄なので、巨大化しても大型の魔物程度の大きさで、
単体なら、腕にいい冒険者であればロボを使わずとも倒すことが出来る。
しかしゴブリンは群れをなして行動する。
それは、巨大化しても同じことで、さすがに群れ相手では、ロボの力が必要になる。
そして、ブースターを吹かせつつ敵に接近すると、
「フェンリルナックル!」
発射された拳が、複数の敵を吹き飛ばし、
「ヴァルキリーアイズ!」
目から出るビーム攻撃による追撃を仕掛けて、さらに多くの敵を倒し、
あとは徒手空拳で倒していく。
ギガント・ゴブリンとラグナロクの体格差は、人間と通常のゴブリンくらいなので、
普段のゴブリン退治と同じ感覚で行う。
だが今回の仕事は討伐ではないので、殲滅させず、
群れを突っ切っていく、すなわち強行突破だ。
「うおおおおおお」
と思わず声を上げながら、
ロボを操縦して、ゴブリンの群れをかき分けていく。
『行っちゃえ!』
と言うユズノの声もする。
そして多くのゴブリンを倒しながら、強行突破には成功。
そのままブースターを吹かせて距離を取りゴブリンの追跡をかわす。
ある程度進んだところで、ブースターを止めた。
ブースターはエネルギーを消耗するので、
常時使うわけにはいかなかったからだ。
(とりあえず、上手く切り抜けたかな)
まだ巨大魔物はうじゃうじゃいるけど、
今のルートを維持すれば、少しの間は出くわすことはなさそうなので、
一息つきながらも、徒歩で進んでいく。
進みながら周囲を確認する。ゴブリンがいたところは洞窟だったけど、
今はレンガのようなもので、出来た人工的に作られたような通路に変わっている。
壁も整備されているのかのように綺麗だった。
引き続き光を発する意思が照明代わりになっている。
ただ、ここは30メートルクラスのロボが人間大になったような広さ、
幅は同サイズのロボが5体並んで歩いていても余裕のある広さな上、
天井だって、ブースターを使わないと激突する事のない高さだ。
(しかし、誰がこんなものを作ったんだろう)
ここに限らず、この世界にあるダンジョンは、明らかに人工的に作られているのに、
誰が作ったのかと言う記録がないとの事。
これはクロウからの報告だけでなく、冒険者ギルドでも聞いた話だ。
特に気にしてる人はいないようだけど。
ただここまでの規模となると、やはり気になってしまう。
ところどころ自然の洞窟なので、おそらくは自然にできた洞窟に、
手を加えたものなのだろうけど。だれが何の目的で作ったのか、
そもそも何故、巨大魔物の巣窟になっているのか、
あと何故入れる人間が限定されているのかも気になる。
(まさか、ファンタテーラと一緒で、自動生成なのかな。
まあ跋扈している魔物は疑似じゃないけど……)
ふとそんな事を思う。
ただ、入る際はライレム、すなわちロボとセットじゃなきゃいけないので、
ロボで中に入ることを想定しているみたいだけど。
(それに、あのロボは一体?)
入った際に出くわした謎のロボたち、
無人機だったが、見た目から魔族の兵器の可能性がある。
そう考えると、魔族の関わりも考えられるけど、
過去に探索した冒険者の記録にはなかったので、
最近魔族が、ここにやって来た可能性もある。
(とにかく謎だらけだけど、圧巻ではあるかな)
巨大な人工の空間と言うのも、すごいし、
それに、そこをロボに乗って進んでいるというのが新鮮だった。
そんな事を思っていると、
『前方に魔物がいるよ』
とユズノの声、レーダーを確認すると先に魔物がいる。
望遠カメラで見ると、
「サラマンダーか……」
炎を纏いしトカゲ型の魔物で、個体によって大きさがまちまちで、
トカゲサイズから、巨大魔物サイズまであるが、
クラーケン同様に、巨大な個体でも、頭にギガントとは付かない。
そのサラマンダーが、前方の通路を塞いでいる。
『どうするの?』
ユズノの言葉に僕は、
「やり過ごすよ」
塞いでいると言っても、ゆっくりとだけど、
動いているので、少し待てば、通り過ぎて進むことが出来る。
先も述べたが討伐依頼ではないので、倒す必要はないし、
急ぎとはいっても、慌てなければいけないほど、
時間が掛かることもなさそうで、
とにかく、ゴブリンの時とは違って強行突破の必要性はなさそうだった。
そう言うわけで、気づかれないように離れた位置で機体を止めて、
待つことにする。そしてサラマンダーは、こちらに気づくことなく、
ゆっくりとした動作で、進んでいく。
(このままいけば、やり過ごせそうだ)
そう思って一息ついていたのだが、
「!」
僕がレーダーをチェックしていると、後方に反応が突然現れた。
振り返ると、こっちに石橋のところで遭遇したのと同型のロボが、
向かってきていた。
『どっから来たの!』
とユズノが驚いている。更に、レーダーで気づいたけど、
本来の進行方向にも数機、これも突然出現した。
「まさか、転移……」
突然現れたから、そうとしか考えられなかった。
なお最初に遭遇した機体と同じで、
すべて生体反応なし、つまりは無人機。
あと今回は大砲じゃなくて、大剣や棍棒など、
接近戦向けの武器を持っていた。ともかく前方後方を抑えられてる以上、
戦うしかないようだった。
敵の大きさはラグナロクと同サイズで、手にしていた武器で襲い掛かってきたが、
動きは素早く避けきれなかったが、大砲の時とは違い威力は、大したことなく、
避けきれなかった大剣は、肩に当たるもその装甲を、傷一つつけることなく、
勢いあまって弾かれるくらいだった。
そこで攻撃を腕や手で受け止めつつも、
蹴りを入れるというカウンターを仕掛けたり、
複数機の攻撃を受け止め、押し返しヴァルキリーアイズで追撃の繰り返し。
攻撃力も弱く、動きも単純でこっちの攻撃は必ず命中するなど正直言って弱かった。
しかし、その割には耐久力があるのか、予測HPは高く、
加えて、攻撃への回避力は低い割には、
先も述べた通り、素早いのでこっちも攻撃を避けづらく、
逃げられなくて、相手をし続けなければいけなかった。
今回の仕事は、討伐じゃないから、
魔物同様、全滅させる必要はないし、あまり時間もかけたくはなかったが
(サラマンダーが退くまで、まだ時間はあるから)
そう思って相手を続けていたが、
『まずいよ、ナツキ』
と言うユズノ声がする。レーダーを見ると、
サラマンダーの動きが変わり、こっちへと向かってきたのだ。
どうやら、こっちの戦いに気づいて向かって来たらしい。
そして謎のロボたちは全滅させたが、
サラマンダーが僕たちの前に立ちふさがることとなった。
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