第43話「一旦の決着」
その後、戦いに適した場所まで、誘導した後、二人と対峙、
「死ねい!」
ドットが叫びながら剣を振り下ろしてきた。僕はバックステップでかわす。
「このぉ!」
先びながらルシアナは短剣を激しく振るって来る。
そっちの攻撃の軽くステップを踏み、ダンスをしているような感じで避けていく。
言っておくけどふざけているわけじゃないよ。
ゲーム中の動きが、そのまま反映されていて、
半ば無意識にこういう動きをしてしまう。
「ちょこまかと!」
とルシアナが声を上げた。
その後の攻撃は苛烈で、僕を始末しようと躍起になっている。
ただ、僕の言葉で頭に血が上っているからか、
その動きは感情任せで、精彩を欠いていて、二人いるのに連携が取れていない。
それでも、こっちの弾丸を武器で弾いて防御して来るので、
こっちも回避ばかりで攻撃を当てられずにいる。
しばらくその状態を続けていると、
「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」」
と二人の息が上がり始める。余談だけど、僕はリーダー格の男を縛る前に
限界だったので、ポーションを飲んでいる。
だから、体力には余裕があった。ちなみにアニタさんも同じで、
僕につられるようにポーションを飲んでいる。
そして僕は、バックステップで、間合いを取りつつも、二人に問う。
「どうして、そんなに血筋が重要なんですか?
血筋が良くたって、碌でもない人が王になったら、この国が滅びますよ!」
するとドットは、
「我らの血に価値があるのだ! お前のような奴隷では分からぬだろうがな!
そもそも平民は、平民らしく平民同士で結婚すればいいものを!
特に、あの方の血筋をこそ、もっとも高貴で王に相応しい!
平民の血筋の混ざった者など王になる資格……」
僕はイラっと来て、遮るように大声で、
「演説で誤魔化さないでください!」
物語とかでよくいるよね。演説で誤魔化す人。
現実に見たのは初めてだけど、
言ってることがだいたい支離滅裂だから聞いてて腹が立つ。
「貴様に何が分かる! 下賤なものに我々の崇高なる理念が!」
同じことを言い出すので、余計に腹が立ってきて、
「黙れ!売国奴!」
「何だと!」
声を荒げるドット。僕は構うことなく。
「アンスガル王子を王にするなんて、国を亡ぼす行為だ!そんなことをするには、
売国奴以外にありえない!」
こっちも腹が立っているので、負けじと声を荒げる。すると向こうも、
「我々は国の為にやってるのだ!」
「そうよ、私たちほど、この国を想っている者はないわ!」
と声を荒げる二人に、僕は更に、
「国を想って、裏切る奴ってのもいるからね」
と言うと
「だから!我々は売国奴ではない!」
と叫んで剣を振り上げ襲ってくるドット。
飛び掛かってくるルシアナ。二人の様子から、一応愛国心はあるようだった。
向かってくる二人に、こっちも発砲するけど、避けられるか、武器で弾かれる。
そして再びドットの重そうな斬撃と、ルシアナの素早い刃が襲ってくる。
相変わらず連携は取れてなくて、
僕もステップを踏むような足取りで軽々とした動きで避けてるけど、
やっぱり攻撃を当てられないとジリ貧な気がして、
(二丁拳銃はやめて、煌月流に切り替えようかな。
あれなら確実に二人を倒せる気がするし)
そんな事を思った。
この状況で、ドットは、剣を振りながら、
「それに!あの方は!神託を!受けているのだ!」
と大声を上げる。そして地面を蹴って間合いを取るけど、
素早くルシアナが間合いを詰めてきて、
そしてこれまた、短剣の素早い斬撃を繰り出しながら、
「高貴な血筋と神託これだけで王の資格がある!」
と大声で、早口で言った。
アンスガル王子の取り巻きが多いもう一つの理由だ。
女神アルヴァオトが人々の前に降臨し、神託を下すことがある。
「勇者」や「女神の客人」そうだけど、
初代の王も同じように女神の神託で選ばれたともいう。
「あのお方が王になるのは、女神さまの意思、定めなのだ」
と叫びながら剣を振るうドット。
僕は、神託の事もクロウからの報告で知っているので、
間合いを取りながら、
「ちょっと待って神託内容は……」
そう言いかけたところで、
「ウィンドシュート!」
二人に砲弾の様なものが着弾した様に、爆音と土埃が舞った。
使用されたのは風系の魔法だ。使用したのは、
「アニタさん……」
「遅れてすいません……」
僕らを追って来たみたいで、援軍で助かるんだけど、
せっかく引き離したんだから、正直、来てほしくなかった。
そして砂ぼこりの中から、見た目がボロボロになった二人が出てきた。
「アレクサンドラ姫……」
ここで、アニタさんは二人に向かって、
「兄上が受けた神託は、『見捨てず、殺すな』と言うものです。
王になれとは、言っていません」
あれだけ大声で話していたから、来る途中で聞こえたんだろう。
それと神託は「王になれ、勇者になれ」と言う様にハッキリとしたものもあるけど、
殆どは幾らでも解釈できるものばかり。どこかの予言の書みたいなもの。
「母上は何かしでかした時に、死罪にせず、
目の届く場所に幽閉しろ解釈しています」
王子の評判から見ても、僕もその解釈で間違いない気がする。
だがドットたちは、こっちに足を薦めながら
「違う!神託は、あのお方を大事にしろと言う事だ!
それすなわち、王にしろと言う事!」
その解釈には無理がある気がする。それ以前に最初は血筋の事を言っていて、
後から言い出したところを見ると、
あの二人も無理のある解釈だって知っているのかもしれない。
「あの方を王にする為、姫には死んでいただく!」
とドットは叫び、剣を振り上げ襲い掛かってくる。
アニタさんも剣を抜き、応戦する。
「アニタさん!」
僕は、助太刀しようとしたけど、
「あんたの相手は、私だよ!」
と言ってルシアナが立ちふさがった。
あいかわらず両手に装備した短剣による斬撃を繰り出してくる。
頭が冷えてきているのか、動きがだいぶ良くなっている。
ただ状況は、あまり変わっていない。
敵の攻撃をステップ交じりの動きで避けつつも、
隙を見て攻撃と思ったら、防がれるの繰り返し。
拳銃以外に武器はないから、素手でも使え、
遥かに強力で、相手の防御を打ち破れそうな煌月流を使おうと思ったけど、
(女性を殴るのは、さすがに気が引けるな……)
既に殺傷性がない弾丸とはいえ、何度も発砲しているのだから、
今更なのかもしれないけど、それでも気が引けるものだった。
なおルシアナは、武器を振るいながら、
「奴隷が、ちょこまかと!」
と声を上げる。彼女だけでなく、ドットも僕の事を奴隷呼ばわりしている。
まあ、二人に限らず、いつもの事で、
いちいち訂正するのも面倒なので何も言わなかった。
でもアニタさんは、僕の事を全く知らないわけじゃないにせよ、
一目で、クランマスターと気付いて、加えてドットやルシアナを敵だと見抜いた。
その洞察力、人を見る目は凄い事だし思わず、
「アニタさんこそ、王にふさわしい……」
と口走っていた。
すると、ルシアナは顔を真っ赤にして怖い顔で、
「何もわからぬ奴隷ごときが!」
と声を上げ、より攻撃が熾烈となった。
「奴隷ごときが、生意気なのよ!」
とその後も、「奴隷ごときが」を繰り返しながら、切りかかってくる。
僕は、煌月流を使う踏ん切りがつかずにいたけど、
(仕方ないかな……)
腹を据えようとして、僕は一旦間合いを取った。
「うわっ!」
と横に吹っ飛ぶルシアナ。
「今のは……」
側面から光弾が飛んできて彼女に当たったようだった。
そして飛んできた方には、
「雫姫……」
彼女はいつもの和装姿に、両手に鉄製の扇を持っていた。
この扇が、雫姫の武器だ。
なお彼女が、ある事情からこの場にいてもおかしくはない。
雫姫は、左手の扇を口元に当て、
「我が殿を奴隷扱いとは……」
そして扇を相手に向け、
「万死に値するのう」
と静かに言った後、一瞬のうちに間合いを詰めて、
左手の扇で、ルシアナの腹部に一撃。
「ぐふぅ」
と鈍いうめき声を上げるルシアナ。
「まだじゃ」
そう言うと、今度は右手の扇で彼女の胸を突いた。
「がぁ」
と再びうめくルシアナ。
「クッ……!」
彼女は地面を蹴ってバックステップで間合いを取る。
「逃がさぬ」
そういうと左の扇を右胸にあてたかと思うと、
扇が輝きだす。僕はハッとなって、
「殺しちゃだめだからね」
と言うと、
「それが殿の望みならば、仕方ないのう」
と言いつつも、胸にあてていた扇を、前に突き出すと、
扇から無数のレーザー光線のようなものが発射され、
ルシアナに向かっていった。
「こんなもの!」
と叫んで、ルシアナは、両手の短剣で弾こうとした。
この時、僕は知らなかったが、
ドットの剣やルシアナの短剣は魔法も弾くことができたので、
彼女は光線を魔法攻撃と思って、防御を試みたようだったが、
しかし光線は剣そのものを、貫通して、
破壊しつつ、ルシアナの体を貫いた。
「キャアァ」
悲鳴を上げて倒れるルシアナ。
その様子に、敵ながらも大丈夫かなと思ってしまったが、
「殿の望み通り、殺さなかったぞ。気絶しておるだけじゃ」
と雫姫は不本意そうに言う。
「ありがとう。ついでだから彼女を拘束してほしい」
さすかの女性を縛り上げるのは抵抗があるので、彼女に頼む。
「ロープはあるかな?」
と尋ねると
「あるぞ」
と雫姫は言いながら、帯の後ろ側から赤い縄を取り出し、ルシアナを拘束する。
この赤い縄はゲーム中でてくるらしいが、
なぜ持っているかは不明ななので、ネットでは謎の赤縄と呼ばれている。
一方、アニタさんとドットの戦いは続いている。
アニタさんが強いのと、あと僕との戦いで疲弊している事もあって、
彼女の方が優勢にようで、
「中々やりますね。姫……」
「私は兄上とは違い、王宮でぬくぬくと暮らしていたわけじゃ、ありませんから」
「あのお方を、愚弄するな!」
とドット激昂し、猛攻を仕掛けるも、すべて防がれ
「セイッ!」
と言う掛け声と共に、アニタさんはドットの胴体に斬撃を喰らわせた。
引き続き魔法で剣を切れなくして峰内の状態にしているが、
「グアッ!」
結構なダメージのようだった。そして追い打ちとして、
左手を突き出し、
「サンダー!」
と左手から雷のようなものが放たれる。
雷系の魔法のよう。
「ギャアアアアアアア!」
と言う悲鳴を上げ、ドットは倒れた。
アニタさんは、そんなドットを見下ろしながら、
「血統にこだわるあまり、ダメな王ばかり現れて、
国が滅びかけた事を忘れたのですか」
と低い声で言った。これもクロウの調査で知ったのだけど、
かつて王はドットたちの言うような血筋だけで選んでいた。
だがその結果、何もせずとも王になれる者が多く、
そう言った王たちは、慢心しており、きちんとした統治が行われず、
国が衰退の一歩を辿ったので、
今の様な実力主義なったという。それ以降は国が繁栄しているので、
この事は、成功のようだった。
さてドットは彼女の言葉に対し、
もごもごと何かを言っていたが聞き取れず、彼は意識を失う。
これをもって、今回の一件は決着したようだった。
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