第42話「血筋」

 さて、出発の前の晩、ドローンを飛ばして森を探り、

盗賊団の事や、その企み、奴らがロボを持っている事を知り、

更に洞窟を根城にしていたので、潜入し状況を探るのは容易だった。


 罠だと分かってここまで来たのには理由がある。

今回の企みは村人は一切関係なく人々は、

アニタさんと懇意だったので、彼女を誘き寄せる為に利用された。

そして、奴らが酒の席で話していたのだが、

もしアニタさんが来なければ、もっと状況を悪化させるつもりだったらしい。


 もう一つ、今回の企みは僕らも無関係じゃない。

これも奴らの酒の席での話だが、僕らも誘き寄せ、始末する予定だったらしい。

今回の依頼では、アニタさんが声をかけてきたが、

もしアニタさんが僕らに声を掛けなくとも、

奴らと通じている奴が、僕らを誘っていたらしい。


 でも一番の理由は、目的の為に多くの人々を巻き込元する連中に、

腹が立って、一泡吹かせたくなったかな。

もちろんアニタさんを守りたいという思いもある。

まだ会って、間もないけど調べた限り王様候補として立派だと思うから。


 敵のロボ対策として、僕らの方もロボ、即ちキュロプスを送りこんでいた。

最初は、僕らが到着する前に先回りしてキュロプスが、

敵の機体を破壊して置く予定だった。

ロボが一番要注意だったのと、やらかしに繋げないため。


 ただ問題なのはロボが結界を張っていた事。

話に聞いていた盗難防止用のものと思われるけど、これが結構強力で、

破壊するには、森を吹き飛ばすほどの攻撃力が必要となるので、

それは出来ず、ロボを動かすときは解除しなければいけない代物なので、

結局、連中がロボを使用した際に、攻撃を仕掛けるという形になってしまった。


 キュロプスの登場にリーダー格の男は、


「コイツ、ギガントワーウルフを倒したライレムじゃねえか!」


と驚きつつも、


「かまう事はねえ、さっさと起き上がって、やっちまえ!」


と倒れたロボに向かって檄を飛ばす。

するとロボは、立ち上がって、ガドリング銃をキュロプスに撃つ。

だがキュロプスは防御力も強いので、

銃撃をものともせずに、近づき、ハンマーを叩きつける。この状況に、


「化け物……」


と唖然となっているリーダー格の男に、僕は近づいていく。


 だが向こうはこっちに気付いて、逃げだした。


「待て!」


と僕は声を上げつつ、二体のロボの戦いからくる金属がぶつかる音を聞きながら、

追いかける。同じように、


「待ちなさい!」


とアニタさんも、後を追ってきているようだ。


 僕は追いかけながら、


(ドラマじゃ、ここで見失って、黒幕に口封じだから、そうさせない!)


そんな思いを抱きつつ、走りながら狙いを定めて、麻酔弾を撃った。


「!」


弾は命中し、男は倒れた。その様子を見たアニタさんは、


「殺したんですか?」


尋ねてきたので、


「殺傷性のない弾を使ったので、眠っているだけです」


するとホッとした様子で、


「それは良かった。この人にはいろいろ聞きたいことがありますから」

「取り敢えず、起きてくる前に、縛り上げますね」


そしてロープを取り出し、拘束する。


 丁度、二人で男をロープで縛っていた時、


「ここにおられましたか」


リルナリアにおいてきた筈のドットとルシアナがいた。


「勝手をされては困りますね」

「そうよ。仲間を置いていくなんて」


アニタさんは目を細め険しい表情をしつつも、彼女は二人の傍に行き、


「丁度良かった。あの男を縛り上げるのを手伝ってくれませんか?」


そう言って、背を向けた。するとドットは、


「分かりました……」


と言っていたが、次の瞬間、金属がぶつかり合う音がした。

一瞬の事だったから、僕はすぐに対処できなかったが、

どうも、ドットが後ろから切りかかり、それをアニタさんが、剣で受け止めていた。


「アニタさん!」


と声をかけるが、彼女は顔色を変えることなく、

逆にドットが悔しそうにしていた。

不意打ちを仕掛けたつもりで、失敗したからだろう。


「セイッ!」


と言う掛け声で、アニタさんはドットの剣を振り払い。

二人の方を向き、間合いを取る。

僕は男の方は、急な事なので放っておき、彼女の傍に向かう。

なお男の拘束は中途半端だが直ぐには逃げられない程度には縛っている。


 さてドットだけでなく、ルシアナも短剣を手にして、

こっちに殺意を向けている。

アニタさんは、分かっていたからか落ち着いた態度で、


「やはり、貴方達は敵だったようですね。本当のお目付け役は何処です?

母上が人選を間違えるとは思えません」


ドットは引き続き落ち着いた口調で、


「二人とも土の下ですよ」


この二人は本来のお目付け役を殺して、なり替わったらしい。


僕は、そんな二人に、


「貴方達が、この件を仕組んだんですね」

「何の事?」


と言うルシアナに


「依頼書を見ていない貴方たちが、この場にいるのが何よりの証拠です」


証拠としては弱い。一応仲間と言う事になっている二人になら、

冒険者ギルドに聞き出すことは容易いはずだった。

なお二人が黒幕と知ったのは、ドローンで盗賊共の会話を聞いたからなんだけど。


 ただもう敵だとバレてしまっているからか、ドットは隠す気は無いようで、


「あなたが、勝手をしてくれたおかげで、予定が狂ってしまいましたよ。

本来なら魔物との戦いの中で不意を突くはずでした。

まあ、彼女たちを連れてきてくれたのは、好都合ですが」


拘束している男を一瞥して、


「全く役立たずですね」


更にルシアナは、


「全く何のために、馬を飛ばしてきたんだか」


と吐き捨てるように言う。


 アニタさんは、二人を睨みつけながら、


「お兄様の手のものですか?」


と言うとドットは、


「いいえ、あのお方は関係ありません。私たちの独断です」


アニタさんは、


「嘘ですね」


と言うが、向こうは反論することなく。


「私たちは貴族の家の者で、二代にわたって庶民の出の王にはなってほしくないんですよ。アレクサンドラ姫」


その言葉を聞いて、ますます不機嫌そうな顔をするアニタさん。


 情報を集めたクロウによると結構有名な話との事だけど、

現女王は前代の王と使用人として城に奉公していた平民の女性との子供だという。

そして現女王の夫、すなわち王配で、アレクサンドラ姫の父親は、

元騎士団の副団長で、彼女の右腕だった人物。

共に国を救った英雄だったけど、彼もまた平民出身だった。


 この国では、血統が重んじられて所があり、王家も実力主義であるけど、

やはり王家の血筋でなければ王になれない。

ただちょっとでも血筋が入っていれば片親は平民でも王になれるのだから、

拘りは薄い所がある。しかし貴族の中には、強くにこだわっている人々がいて、

自分たちの血筋を誇り高きものとし、王は誇り高き血筋の人間でなければいけないと、強く訴えている。

こう言う奴らにとってみれば、現女王やアレクサンドラ姫を認められないという。


 ドットは、


「アンスガル王子は、素晴らしい血統の持ち主。あの方こと、王になるに相応しい。

だからこそ、あのお方の邪魔になるものは排除しなければならない」


ルシアナは


「そうよ私たちの高貴なる血を引くものだけが王に相応しく、

それ以外は不要なのよ」


僕は思わず、


「あんなクズのどこが王に相応しいんです?」


そう言った僕の言葉が気に障ったのか、

二人、特にドットが、これまでの鉄面皮が崩れ、

烈火のごとく顔を真っ赤にして怒りの形相で


「貴様に、我々の崇高なる理念が分かるまい!」


ルシアナは、顔を赤くしながら、


「そうよ! お前のような下賤なものに何がわかるっていうのよ!」


怒鳴りつけてきたので、思わずこっちもイラっと来て


「あんな父親そっくりなクズ、王にしたら国が亡びるよ!」


と言い返してしまった。すると二人は、


「何を言う! あの御人の事を侮辱するか!」


と再び怒声を上げてくる。


 兄妹なのに、アンスガル王子の血統が良いのか、

それは、父親が違うからアンスガル王子の父親は有力な貴族だった。

この血筋の良さが彼にシンパが多い理由の一つ。


 そしてこの父親と言うのが、ハッキリ言ってクズで、

自分の地位を嵩に来て横暴な態度を取り、女癖酒癖が悪い。

正に息子と同じだ。ちなみに、もう亡くなっている。

ただ悪評の割には慕っている貴族は多い。理解できないけど。


 これは有名な話だけど醜聞なので、大きな声では言えないけど、

女王が、即位するずっと前、騎士団の見習いだった頃、

王子の父親となる貴族の男に手籠めにされたらしい。

当時は、女王はある事情から自身も王族である事は知らず、

男は騎士団に影響力があった為、泣き寝入りするしかなかった。


 この時、身籠ったのがアンスガル王子で、

当初は跡継ぎを欲した貴族に引き取られたが、

女王が即位後に引き取った。しかし貴族の元での生活が、

彼をクズにしたのは言うまでもない。


 そして話は戻り、僕の言動に完全にキレた二人は、


「その物言い、許せん!貴様から血祭りにしてくれる!」

「やれるものならどうぞ」


といって、下まぶたを引き下げ、舌を出す。

所謂アッカンベーの仕草をした後、その場を離れる。

この状況を利用して、二人をこっちに引き付けようと思った。


「まて!」


頭に血が上った二人は、好都合な事に僕を追って来た。

僕は、二人をアニタさんから引き離す事で、

彼女の安全を確保しようと思ったんだ。


(付いて来い)


そう思いながら、森の中を駆け抜けるのだった。

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