第11話「勇者再び」

 さて食後、僕は、ショップに向かった。魔法ラボを購入するためだ。

なおユズノたちは、付いてきていてる。

そして早速ショップで、タッチパネルを操作し、魔法ラボを選択する。

チャージされていたお金が減り、購入完了。

これで自動的に、戦艦内に増設されている。


「今後は、魔法関係の分析ができますね」


と言うカナメ。


 そして購入と同時に、取り出し口から一枚のカードが出てきた。

魔法ラボを購入すると付いてくるオマケである。

僕はそれを手にする。カードには魔法使いを思わせるロボを背景にした。

魔法使いの少女が描かれていた。


 このカードを手にした瞬間から、どうすればいいのか、

自然と理解できた。僕は召喚機の元に向かい、コンソールの上にカードを置いた。

すると、カードはコンソールに吸い込まれた。そしてダイヤルを僕は回した。

鉱石は消費せずに光と共に、カードに書かれていたロボが姿を見せた。


 大きさは18m、エクスレイドと同じくらい、

頭部はとんがり帽子を被った魔女風のデザイン。

金色の髪のように見える装甲。顔は女性的な鉄仮面。

また胴体の形状も黒く可愛らしい魔上の衣装と言う感じで、

下半身はスカートのようなものを履いている。金属でできているから、

ヒラヒラはしていない。背中にはマントのようなものを付けており、

杖のような物を持っている。


 このロボの名はマギカシア、魔法を使うロボ言う設定で、

魔法ラボが手に入るイベントで、入手可能なロボである。

イベントが終わった今では、魔法ラボ購入のおまけとして入手できる。

そしてマギカシアは、化身が決まっているロボで、光に包まれると縮んでいき、

とんがり帽子でブロンドのセミショートでロボと同じような

衣装を着た少女へと姿を変えた。顔は可愛らしくも、どこか勝気な感じがする


 それはカードに書かれていた少女の姿だった。


「初めまして、艦長さん。私の名はプリシラ。最強の魔女よ!」

「こちらこそ初めまして」


マギカシアと魔法ラボは、「ロボット&ハーレム」と同じ開発会社のゲーム、

「カオスティック・ザ・ワールド」略称CTWのコラボイベントによるもの。

因みにこのゲームは剣と魔法の世界を舞台にしたMMORPGである。

「型にはまらないRPG」というだけあって、

結構ぶっ飛んだゲームでもあるが、「ロボット&ハーレム」も似たようなもの。

それはともかく、プリシラは元々はCTWのNPCで、

人気の高いキャラの一人でもある。自称「最強の魔女」で、

「最強」と言う言葉に誇りを持っており、 その言葉に恥じない強さを持つ。


「それで、私は何をすればいいのかしら?」

「魔法ラボで働いてくれるかな?」


すると彼女は、不敵な笑みを浮かべると、


「任せて」


と言ってくれた。彼女は魔法ラボを任せるというのが、最も適している。


 農場がそうであるように、通常のラボも含め、

各施設は、適したヒロインを配置する事で、

より効率的に運営が出来るようになっている。なおユズノ、カナメ、サファイアは、戦闘向けで、施設の運営には適していない。


「それじゃあ、よろしく頼むよ」


 そう言って握手をした後、プリシラは早速、魔法ラボへと向かった。

そこで、手始めに鎧の分析を行ってみる。


「ちょっと時間が掛かるけど」


とすぐに結果は出ないようだが、


「私に、任せなさい」


と自信たっぷりに言った。

この魔法ラボが、後に思いがけない幸運をもたらす事になる。


 さて魔法ラボ購入の翌日、ベッドで目を覚ました僕は、


(もっとヒロインが必要かなあ)


今後の商店を開くためにも、適したヒロインが必要だとは思っていたが、

農場や魔法ラボの様に、戦艦内の施設を運営するための人材が必要だと思った。

現時点ではモブにやらせてる状態で、最小限の運営しかできていない。


 僕は、ゲームを進める上でそっちの方は全く考えていなかった。

ユズノ達だけでも、ミッションはこなせていたわけだし、

そもそも、商店や施設の運営は、エンドコンテンツや、

他のユーザーとの競争の為の物で、ストーリーを楽しんでいる僕としては、

眼中になかった。


 あとロボは欲しかったけど、天井分貯めないと、回す気になれなかったから、

必死で鉱石を集めていた。定期的に開催されるイベントも、

鉱石を集めるために参加していた。

しかし、それでも死ぬまでに貯まらなかったこともあって、

転生するまで、初回以外のガチャは回していない。


 しかし、転生した今となってはエンドコンテンツをやってるに等しいし、

現実だから、投げ出す事も出来ない。

そして何より、みんなを養っていかなければいけない。

だからこれまで考えてこなかったことまで、考えなければいけない。


(今は、冒険者として稼がないと)


今は、鉱石の入手を含め、人材を集めるには課金しかないのだから、

とにかく今は働かなければいけない。


 そう思った僕はベッドから起き上がろうとしたが、

ベッドには膨らみが、上布団を剥ぐとカナメが寝ていた。目を覚ます彼女


「おはようございます、艦長」

「ああ、うん。おはよう……」


カナメは、起きると背伸びをした。

彼女の胸元が大きく開き、豊かな谷間が見える。

思わず視線を奪われるが、なんとか平静を保った。


 しかし、ここで彼女はハッとなったように、慌ててベッドから離れて土下座して、


「私とした事が、寝ぼけて艦長のベッドに、

潜り込んでしまうなんて、 本当に申し訳ありません!」

「気にしてないから」


と僕は言うが


「すいません!すいません!……」


と平謝り。これがカナメの寝起きイベントだ。

真面目キャラの彼女でもこういう事をする。


 そして、この後の展開は、


「ナツキ~おはよ~」


とやって来るユズノ。


「あ~カナメ先輩ズルい!抜け駆けしてる~!」


と頬を膨らませるユズノ。


「ユズちゃん、これは違うの!」

「罰として、ハグの刑だよ!」


と言って、カナメに抱き着くユズノ。


「ちょっと、ユズちゃん!」

「カナメ先輩も、嬉しいくせに~♡」


とユズノはニヤリと笑い、すりすりとする。


「ちょっと、恥ずかしいわよ……ユズちゃん」


と顔を赤くするカナメ。

ゲームでは、ここで立ち去ったり邪魔をすると二人とも、

好感度が下がるので、カナメも満更じゃないのかもしれない。


 さて寝起きイベントが終わった後、皆で食堂に行き食事をとる。

その後は、何時ものように冒険者としての活動を行うべく、

冒険者ギルドに向かった。すると妙に、物々しい雰囲気だった。

そして受付嬢が、


「ナツキさん。勇者様が貴女を、探してますよ」


ここに来る途中、勇者の一族の飛空艇を見たので、

またこの街に来たことは知っていたけど、


(まさか、この前の事を根に持って)


するとここで、その勇者がやって来た。


「この前の市の時、以来だな」


と声をかけてきた。なおこの勇者の名はバルトルト・ドランと言うらしい


「どうも、それで僕に、何か御用ですか?」

「今、この前のギガントリザードマンの魔石を持ち込んだ奴を探している。

お前は何か知らないのか?」


バルトルトは、直接、僕を探し当ているわけじゃないらしい。

まあ魔石を持ち込んだのは僕だけど。ここで誤魔化したら、後が怖い気がするので、


「持ち込んだのは僕らですが何か?」


すると彼は、少し驚いたような表情を浮かべた後、


「どうやって手に入れた?」

「雷が落ちて死んだリザードマンの魔石を……」


と言いかけた所で、


「嘘だ!」


と彼は声を荒げる。その様子にユズノ達が僕を守るよう前にでる。


 彼の言う通り、確かに嘘だけど、しかし真実の方が嘘くさいから、


「本当ですって……」

「戦ったから俺にはわかる。俺の自慢のライレムを倒した奴が、

雷くらいで死ぬわけがない!」

「でも、死んだのは事実ですよ。それにリザードマンは雷に弱いですから、

それは大きくても同じでしょう」

「それはそうだか……だがあれが倒されるとは思えない!」


とにかく、信じてくれない。

先も述べた通り、真実の方が余計に信用できないだろうし、

まあラグナロクで証明はできなくはないけど、

そうなったら警戒されるし、争いの元にもなりかねない。

僕らは、この世界を侵略しに来たわけじゃないんだから。

 

 とにかく向こうが信じてくれないので、僕は頭を使って、


「今思うと、普通の雷じゃなかった気がします。

ひょっとしたら強力な雷魔法だったのかもしれません。

でも僕らには見分けはつきませんでしたし、

例えそうでも、僕らがやったんじゃないですから」


するとバルトルトは、


「お前らがやったとは、俺も思っていない」


とどこかバカにしたものいいなので、ムッとするユズノ達。


「誰がやったかは、身に覚えはないのか」


僕も、イラっとしていたので自然ときつい口調で、


「知りませんね。知ってたら魔法だと言ってます。

それに、魔法は近くに居なくと、遠くでも使えるでしょう。

通りすがりの魔法使いが、僕らが気づかないくらいの遠くから、

使ったんじゃないですか。なんせギガントリザードマンはでかいですから」


魔法の知識はこの世界の物じゃないが、この世界でもさほど変わらないらしい。


「それもそうだな……」


と言いつつも、


「何のためにだ?」


その一言に余計に、イラっとしつつ、


「あんなものがうろついていて、もし人里に来たら、

危ないって思うでしょう?

そうなる前に、どうにかしようって思う人もいるはずです」

「そんな殊勝な奴がいるのか」

「貴方が言っては終いですよ。

そう言う事をするのが、勇者だと思うのですが違いますか?」


この一言、バルトルトはショックを受けた様子だったが、


「知らないならもういい!」


そう言って出ていった。


 勇者が出ていくと、他の冒険者たちから


「よく言ったな嬢ちゃん」


と拍手喝さいを受けた。なんせ勇者は冒険者たちからは、

この前の市のような買い占めや、仕事を持っていくので、

よくは思われていないからだ。


「いえ、言いたいことを言っただけですよ」


と謙遜する。そして、カナメが


「カッコよかったですよ。ご主人様」


と尊敬のまなざしを向ける。ユズノも


「さっすがナツキ!惚れ直したよ~♡」


と僕に抱き着いた。


「ちょっ、ちょっと人前だよ」

「ごめんごめん」


そう言って、離れるユズノ。そしてサファイアは静かに、


「カッコイイ……」


と呟いていた。


 そして勇者が去って行った後、冒険者ギルドで依頼を探していた。

今回は聞きに来ただけなのか、勇者は仕事を持って行っていなかった。

そして掲示板で仕事を探していると思わず、


「勇者って何なんだろう」


と呟いていた。すると側で仕事を探していた年配の冒険者が、


「よう嬢ちゃん、さっきはカッコよかったぞ」

「それはどうも……」

「しかし、最近の若い奴は勇者の事はあまり知らんか」


と言いつつ


「奴は、と言うか奴の一族は、

かつて女神によってえらばれた勇者の子孫だ。そして魔王を討伐した」


なんとなくそうなんじゃないかとは思っていた。

その後も、世界の脅威を倒してきたのだという。


「ただ最近は、調子に乗って、傲慢になってる。まあ、その強さは健在だがな」


と言いつつ、


「最近じゃ、女神に見放されたと言われているがな」

「それはどうして」

「最近、新たな勇者の一団が現れてな、そいつらは中々の強さで、

勇者一族の活躍を奪ってるらしいぜ」

「新しい勇者ですか?」

「ああ、なんでも女神さまが異世界から呼び寄せたとか言う話だ」


(異世界……僕らのことじゃないよね。まだそんなに活躍してないし)


どうやら僕ら以外にも異世界から来た者たちがいるようだった。


 話を聞き終えた後、


(女神ってあの女神様なのかな)


あの時に会った配達員のような神様を思い出す。


(どんな人たちなんだろう。その異世界から来た勇者と言うのは)


その後、その人達とも関わっていくのだった。

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