第10話「リザードマンの鎧」
依頼を終え、リルナリアに戻る。なおドローンは自力で
カラドリウスに戻った。街に到着後、人気のない場所でエクスレイドは、
カナメに姿を変え、二人で冒険者ギルドに依頼完了書を提出に向かうが、
僕たちが建物に入ると受付嬢が、突然向かってきて、
「あのナツキさんたちは、
ギガントリザードマンの装備を持って帰られたんですよね?!」
妙に興奮しているようだった。
「ええ……」
実は後日思い立って、魔物の身に着けていた装備を持ってきたが、
問題はないか聞いてみた。
「特に問題はありませんよ。ただ呪われてる場合もありますから、
その辺は自己責任ですが」
と受付嬢が言っていたが、この様子だと何かあったのだろうか。
「それで、装備は全部持って帰ってきたんですか?!」
と少し大きめの声で言うので、少したじろぎながら、
「……一部だけですよ。そう言ったでしょ」
と僕は答えた。あんな巨大なものを全部持って帰ってきたと言えば、
妙に思われるので一部だけと言っていた。
「そうでしたね……」
と恥ずかしそうにする受付嬢。
「何か、あったんですか?」
「実は、ギガントリザードマンの鎧を調査する事になりまして、
まだ現場に残ってるであろう鎧の回収に向かったのですが、
無くなっていたもので……」
それで、僕が持ち帰ったという話を聞いていた上に、
一部のと言うのを忘れていて、こんなに興奮していたようだ。
実際は僕が持って帰ったわけなのだが。
「そうですよね。あんなもの全部持って帰れませんよね」
と言って笑う。僕の事を馬鹿にしているように思えたのか、
ユズハが、怖い目で受付嬢を睨む。
しかし受付嬢の様子が気になったので、
「なにか、悪いことでもあったんですか?」
と僕が聞くと、
「おかしいと思いませんか?」
「はぁ?」
実は、ギガントリザードマンは殺し殺さず問わず、
冒険者の持ち物を奪う、あるいは盗む癖がある。
リザードマンの装備は冒険者から盗んだものという事になる。
「剣はともかく、鎧はおかしいと思いませんか?」
ギガントリザードマンの鎧は、金属製の胸当てに、
後は革製と思われる肩当と籠手、ブーツといったものだった。
「おかしいんですか」
「あんな大きさの物、何処から持って来たんでしょうか?」
剣とかはライレムの武器で説明がつくが、金属製の胸当てともかく、
革製の肩当と籠手、ブーツを装備したライレムは聞いたことが無いという。
「そうなんですか……」
言われてみれば、おかしな話。
だからギガントリザードマンが持っていた装備を調査するという話になったらしい。
「一部とはいえ、持って帰ったんですよね?それを持ってきてくれませんか」
「ホント一部ですよ。人の手で持って帰れるくらいの」
この事は、事前に話している。
「それでもお願いします。もちろん今すぐとは言いません。出来るだけ早く」
「わかりました。でも期待しないでくださいね」
僕は受付嬢に念を押しつつ、書類を提出し、一旦カラドリウスに戻る。
戦艦に戻るとユズハが、
「ナツキ~寂しかったよぉ~♡」
といきなりユズハに抱き着かれた。
「うわっ!ちょっ!」
ゲーム中でも、長期遠征のミッションをやると、
帰還時に、こんなイベントがあったんだった。
「ちょっと艦長に何やってるんですか!」
と言いながらカナメが引き離す。
「ごめんね。カナメ先輩♡」
そう言うと、今度がカナメに抱き着く。
「ちょっと!」
「カナメ先輩って、あったかい♡」
カナメは顔を赤くしながら、
「良いから、離れなさ~い!」
と言って、ユズノを引き離す。ここまでが、帰還時のイベントだった。
例によって、個々でのゲーム中における最善の行動は、見守る事だけである。
さて帰還時イベントも見守ったところで、
ギガントリザードマンの鎧の事もあるので、ラボに向かった。
ゲーム中ではここで、戦利品を解析、場合よっては分解し、
素材にして、それを基に新たなアイテムを作り出す。
その機能は完全再現してあるみたいだけど、鎧はまだ分解していない。
なお鎧は解析では、大きいものの、なんて事の無い普通の鎧である。
「言われてみれば、何でこんな大きな鎧があるんだ?」
すると一緒に来て浮いたカナメが、
「ロボの追加武装としては貧弱すぎます」
と言った。僕も同感だった。
ここでユズノが、
「聞いたんだけどさ~巨大な魔物って、普通の魔物が急に巨大化するんだって」
その話は、僕も聞いたことがある。原因は定かじゃないらしい。
「その際に、着てたものも一緒に巨大化したんだよ」
そんな訳はない。その事を伝えようとすると、
いつの間にか来ていたサファイアが、
「バカユズノ……」
とボソッと言う。
「誰がバカよ!」
と声を上げるユズノだが、
「ユズちゃん、それはないと思うわ」
僕も、
「もしそうなら、ギルドの方で調査なんて話になってないよ」
実際、ギルドに言った時、巨大化の瞬間を見た冒険者たちの話を、
小耳に挟んでいる。それもリザードマンだったが、
着ていた装備は破壊されていたそうだ。因みに話題になったのは、
その時、着ていた装備がいいものだったらしく、
それが壊れる様を見てもったいないという事だった。
なおそのリザードマンは、そんなに巨大化していなくて、
ロボを使うまでもなかったとか。
自分の考えを否定されたユズノは、
「そうなのかな……だって私たちだって似たようなものじゃん」
と納得していない様だった。ユズノ達は特殊であって、
一緒にしてはいけないと思うし、
(それに、ユズノだって変身の時に必要のない脱衣をしてるのに)
とも思う。
その後、鎧の一部、手で持っていけるくらいの量を、
冒険者ギルドに持って行っていき、
その場で、分析魔法を使った簡易的なもので暫定的あったが、
特に何もないとの事だった。
分析を行ったギルドの職員は、
「巨大化の魔法ならすぐに残滓が出るんですけど」
魔法で巨大化と言うのはあり得るらしいが、それでもないらしく、
現時点での結論は、目的は不明だが何者かが、巨大な鎧を作って、
それをギガントリザードマンが、強奪したとしか言えないらしい。
因みに鎧は、僕たちだけじゃなく、他の冒険者たちも、
持って行ったんじゃないかと言う話になっている。
通りすがりの冒険者が、廃棄された装備や、
他にも破棄されたライレムの残骸を持っていくことは、よくある事らしい。
なおそれが罪にならないからでもある。
さてギルドからの調査結果を聞いて、
それを艦内の食堂で、食事をしながらみんなに話すと、
「やはりこちらでの解析結果と同じですか」
とカナメが言う。ただカラドリウスの解析は超科学的なものであり、
ギルドが行ったのは、魔法によるもので、
違った結果を期待してはいたけど、暫定的とはいえ結果は同じだった。
「高名な魔法使いの元に持ち込んで、更に詳しく調べてもらうらしいけど……」
「そこで、違った結果が出るかもしれませんね。
我々のラボでは、科学的な分析しかできませんから……」
そう言うとカナメはパスタを口にした。
今日の夕飯は、農場でとれた作物を使ったナポリタンである。
作物は取りたて新鮮なのと、農場を仕切っているアカネの力も合っておいしかった。
カナメの言う科学的分析という事を聞いた僕は、
(そう言えば、魔法ラボと言うのがあったな)
これは、ゲーム内で行われる期間限定イベントを遊ぶことで、
入手可能なもので、僕がゲームを始めた時には、
とうにイベントは終わっていて、現在は課金することで入手可能。
このラボも役割自体は、通常のラボと同じだけど、
作るアイテムが特殊で、ポーションと言ったファンタジー的なものだった。
しかしネットでの評判は、「気分転換」と言うものだった。
理由は作られるアイテムの効果は既存のアイテムと同じ、
いわゆるコンパチアイテムだったのである。だから、気分転換になるくらいの存在。
ただし、魔法ラボを購入するとオマケがついてくるので、
そっちの存在は大きかったりする。
ただし剣と魔法の、この世界においては大きな意味があるように思えた。
特に魔法による分析が、今後この世界で暮らしていくの必要な気がしたのだ。
(まあ、課金用のお金は十分あるしな)
収入から一部を課金用にとってある。食事が終わったらショップに行こうと思った。
さてこの時、ユズノもいたのだが、彼女はパスタを頬張りながらも
「やっぱりさあ、巨大化の際に一緒に大きくなったんだよ
確か巨大化の理由ってわからないって話だし、
今回に限って不思議な力が作用して、装備の大きくなったんだよ」
と言い張っていて、同じく側で食事をしていたサファイアは、
「まだ言ってる……」
とジト目で見ながら言った。
ゲーム中のユズノは、ちょっとおバカなところがあり、
突拍子のないことを口走り、突っ込みを入れられるというのがお約束だが、
時々、的得ている事がある。
今回もそうである事を知るが、それは後の事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます