第12話「陰謀は渦巻く」

 とあるビルから、配達員の姿の神が出てきた。手には書類の入った大きな封筒。


(このまま帰ってもいいけど、でもゲームの続きもしたいし)


その後、公園に向かいベンチに座る。このままゲームをしようと思ったが、

それよりも、書類の方が気になり、封筒から取り出し読み始めた。


「えっ?こんな展開になるの!」


ここで、


「どうしたの?急に声を上げて?」


そこには、修道女がいた。


「何でいるの?」

「あなたが、この世界に来たのを感知して、様子を見に来たのよ

またおかしなものを届けに来たんじゃないかって」

「おかしなものって、私は注文されたものを届けていただけよ」


と言いつつも、


「今日は届け物に来たわけじゃないわ」


手にしている書類を見せつけながら、


「これを取りに来たのよ。郵送じゃ送ってもらえないから」

「何それ?」

「『ロボット&ハーレム』の今後の展開に関する資料」


言うまでもないが門外不出、出たら大問題の資料である。


「よく持ち出せたわね。まさか盗んだんじゃ」

「失礼な、頼んでコピーを貰ったのよ」

「よくもらえたわね?」


すると目線を逸らす神。その様子を見た修道女は、


「神の力を使ったのね」

「だって気になるんだもん。夏樹君の今後の展開が」

「いくら転生石だからって、この先の展開まで再現するとは限らないのよ」

「それは、わかっているけどさ」


と目をそらしたまま言う神。


「私だからよかったけど、ルシファーなら大目玉だろうから気を付けなさい」

「わかってるわ」


と神は答えた。


 そして修道女は、


「でも口止めとして、その資料、私にも見せて」

「あなたも気になるわけ?」

「まあね」


と意地の悪そうな笑みを見せ、神の横に座る。


「いいわ。でも他言無用よ」


と言いながら書類を確認する。


「へぇ~随分ぶっ飛んだ展開になるのね」

「問題は、終わりの方だよ」


資料をさらに読み進めると


「これは……」

「もし、その通りになるなら、私は夏樹君と敵対することになるのかな」

「まあ、さっきも言ったけど、転生石がこの展開まで、かなえるとは思えないけど」


と言いつつ


「敵対するのは、貴方じゃないわね」

「えっ?」

「戦う相手は偽神ね。これは偽神のやり口よ」


と言いつつ、


「あなたは、自分の創った世界を管理してないでしょ」

「私は放任主義なの、それに神がなくとも世界は育つものよ」

「その代わり、偽神が蔓延りやすい。奴らが本当の神になれる存在ならいいけど、

もし『ナナシの弟子』だったどうするの」


その言葉を聞いた神は、顔を青くして、


「まさか……」


という。


 修道女は、書類を返しながら、


「とにかく、世界の事を確認しなさい。

貴方の世界で力を付けて、他の神の世界に影響を及ぼす真似をしたら、

責任問題になるわよ」

「わかったわ」


と答える神に、ベンチから立ち上がりつつも、


「急いだほうがいいわよ。干渉不可になることもあるんだから」


と言って修道女は去っていった。

そして残された神も、ベンチから立ち上がり、どこかに消えていった。








 バルトルトと会った二日後、依頼を終えて、

カラドリウスに戻ってくると、転移ゲートとつながっている格納庫に、

プリシラがやってきていて


「艦長、例の鎧の分析結果が出たわよ」

「どうだったの?」

「未知の魔法の痕跡があったわ」

「そうなの?」

「ええ、別の魔法でうまく隠していたようだけど、

最強の魔女である私はごまかせないわ」


ギルドでの分析で分からなかったのは、

別の魔法のせいらしいが、その魔法も未知の物らしい。


 そして鎧にかけられていた魔法の効果は言うまでもなく


「効果は巨大化よ。ただ直接かけられたという感じじゃないわね」

「どういう事?」

「別のものにかけられて、その余波を受けたという感じかしら、

そもそも、この魔法自体は単純に掛けただけなら非生物に効果がないみたいなの。

余波を受ける際に初めて効果が出るというところかしら」


非生物に効果がない。逆に言えば生物の効果があるという事。


「生物と言っても人間や動物には効果がないわね。

あるとすれば、魔獣くらいかしら」


この世界では魔物という事になるが、


「それじゃあ、魔法自体はリザードマンにかけられた。

じゃああのリザードマンは人為的に巨大化していた」

「そうなるわね」


なおプリシラには、ギガントリザードマンの事は話してある。


 なお報告を聞いていた際に、側にはユズノ達もいて、

一緒に聞いていたユズノは嬉しそうに、


「やっぱり私の言う通りだったじゃん!」


と声を上げて、得意げにする。これもゲーム内ではよくある展開だったりする。


 それはともかく、例のリザードマンは人工的に巨大化していた。

つまり勇者が倒されたことを含め、あの一件には、

なんだかの陰謀があるという事になる。


(それを僕らは倒しちゃったわけだから、

何かおかしなことに巻き込まれなければいいんだけど)


そんな不安を感じていた。


 余談だけど、冒険者ギルドが頼んだ高名な魔法使いによる分析の結果は、

何もないというもので、見破れなかったようである。







 その頃、勇者の一族の飛空艇


「くそっ!」


バルトルトは酒を飲みながら荒れていた。

未だに、あの時の醜態を引きづっているようだった。


「くそっ!くそっ!」


と悪態をつきながらも酒をあおる。


「その辺にしておいてはいかがです?」


ブラウンのロングヘヤーの美女が声をかけた。

彼女の名はミア。バルトルトの恋人でもある。


「俺は、衆人環視で恥をさらした。リザードマン如きに負けるとは……」


加えて、


「あの小娘には、偉そうなことを言われるし……」


と愚痴を言い続ける。


 ここで、一人の少女が入って来た。赤い髪のセミショートで、

美人だが、どこか高飛車な雰囲気の少女。


「情けないですわね。お兄様」


その少女の名は、 アドリーヌ・ドラン。勇者の一族きっての魔法使いで、

バルトルトの妹、ただし腹違いであり、あまり仲はよろしくない。


「しかし、リザードマンはお兄様の自業自得ですわね。

謎の多い魔法なのですから、いつもの様にわたくしに任せてくれていれば、

うまく調整して、ちょうどいい強さのギガントリザードマンを作れましたのに」

「うるさい、黙れ!」


と怒鳴る。


 実は、ギガントリザードマンはバルトルトが、魔法で生み出したもの。

討伐自体が自作自演だった。これまでも自分たちの戦うさまを魔法で、

中継して民衆に見せつけることで、自分たちの強さを誇示し、地位を維持していた。

魔王のような存在がいつもいるわけじゃないのだから。


 あと毎回ではないものの、時には自作自演もする。

だが今回、自分で用意したギガントリザードマンが予想外に強くて敗北。

プライドを傷つけられてしまったのだ。


「まあ勇者とて、たまには敗北しますわよ。まあ人的被害が無かったのが、

幸運でしたわね。もし出てれば、お兄様も立場は地に落ちてたでしょうから」

「うるさい!」


と言ってグラスを投げるが、それは空中で止まり、ゆっくりと床に落ちる。


「立派なグラスですから、壊れてはいけませんわね」


彼女の魔法によるものらしい。


「くそっ!」


アドリーヌは、余裕な表情で、


「そうだ、これを」


と書類を渡す。


「なんだそれは」

「最近、活躍している同業者の調査報告書ですよ」


彼女は、これを渡しに来たのだった。バルトルトは悔しそうな顔で、受け取ると、


「それでは、飲み過ぎにご注意を」


と厭味ったらしく言うと、アドリーヌは出ていった。


 バルトルトは、悔しそうにするが、


「まさか、奴が……」


アドリーヌは強力な雷魔法も使える。だからギガントリザードマンを倒したのが、

彼女ではと思ったのだ。もちろん間違いなのだが、彼はそれに気づく由もない。


 この後、バルトルトの部屋を出た後、

ミアは飛行艇内の自室に向かい、魔法でどこかに連絡を取り始める。


「バルトルトは、リザードマンの件をアドリーヌの所為と思っているようで、

うまく行けば、同士討ちを誘えるかと」


連絡を取っていた相手は、


『それは幸運な事だ』


と返事をする。


「ですが、リザードマンを倒した者たちが気になります」

『こっちの調べでは、未知のライレム使っているが、

異世界から来た連中とは違うようだ。

あと姿を消せる巨大な飛空艇を使っている』

「姿を消せる飛空艇?」

『強力な迷彩魔法を使っていると思われるが、

リザードマンの魔石や、装備を運び込む際に姿を見せている。

なかなか巨大な飛空艇だ。立ち去る際に姿を消したから、

追う事は、叶わなかったがな』

「魔石や装備の一部をギルドに持ち込んだのは、ナツキと言う少女と、

その仲間たちですが、この飛空艇と関係があるんでしょうね」

『そっちの方は、我々で調べる。お前は引き続き、勇者の一族の動向を見張れ』

「わかりました」


と言って通信を切る。その後ミアは、再び魔法でどこか別の所に連絡を始めた。





 情報収集と言ったら、おこがましいけど、

冒険者の仕事ばかりでなく、街をうろつき、

人々の会話から、世界の情報を得る。今は、人員が足りないのでこの程度だが、

揃って来たら、方々に派遣して、本格的な情報収取をしようと思う。


 さて僕とユズノ達の四人で、二手に分かれたが、


「何だかデートしてるみたい」


偶然にも僕とユズノ、カナメとサファイアという組み合わせになった。


(デートね)


僕は生前は女性と付き合いと言えば、病院で女性の患者の人と親しくはなったけど、

恋人って感じじゃないし、当然デートなんてした事が無い。

いやゲームでは、何度した事はあるしユズノとも初めてじゃない。

だけど、こんな風にリアルで女の子と一緒に歩くのは初めてであるから緊張した。


 しかも、彼女は腕を組んできた。


「ちょっと、人前だよ」

「いいじゃん。別にさ」


と言って離そうとしない。


「でも、恥ずかしいし」

「気にしちゃだめだよ。ナツキ♡」


と言って更に強く抱きついて来る。

結構人目に付くので、凄く恥ずかしかった。


 そんな中、僕は教会の前に来た。


「んっ?」


入り口には、大きな石像があった。

聖母様と言うより、女神さまの様だった。


(もしかしてこれが、この世界の神様……)


その石像を見た時、思わず、


「違う……」


と言ってしまった。


「どうしたの?」


と言うユズノに、


「いや、こっちの事」


と言って誤魔化す。


 さてなぜ「違う」と言ってしまったかと言うと、

女神像が、転生の時に会った神様とは違っていたからである。

この事が、後に僕らに大きくかかわってくることになるのだった。

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