第2章「陰謀は渦巻く」

第8話「村からの依頼」

 それから数日経ち、僕らは冒険者として日々依頼をこなしていた。

冒険者ランクは昇格用の依頼が無くて、その関係でFランクのまま。

受付に聞くと、昇格用として認定できる依頼が無い時期と言うのが、

不定期にあって、今が丁度その時期だという。

目指しているDランクまでは、まだまだ遠かった。


 さて物件探しでは、なかなかいい物件を見つけた。

商店向けとしては、立地条件も良く建物もいい。

買値は、金貨50枚、日本円にして50万円と言ったところ。


 不動産屋の話では、この手の建物にしては格安との事だったが、

安いには事情があって、実は事故物件だった。前の店主が自殺したらしい。

ただ話を聞くと当時、店はもうかっていたらしく。

人間関係も問題はなかったそうで、不可解な自殺だったそうで、

かなりキナ臭いが、何かあっても僕たちなら対処ができそうだから、

その点は、問題は無いだろう。


 あとはお金の問題だが、事故物件で直ぐに買い手はなさそうだから、

急がずに、お金が貯まったら買おうと思った。


 そんな中、ある依頼を受けることにした。

それは、近隣の村で多発する家畜が襲劇事件の原因の調査及び解決。

魔物の仕業であれば、討伐してほしいとのことだった。

報酬は銀貨5枚、もし魔物退治となると金貨一枚追加。


 Gランクの依頼だが、上のランクは無理だが、

下のランクなら受けれるのと、報酬は冒険者の間では安いという事だけど、

何か気になって請ける事にした。

依頼人は村の村長で、初めて会った時、使用人と間違えられたので、

カナメは不機嫌そうにし、村長からは、


「失礼しました」


と平謝りされた。例の勇者だけでなく、

依頼人に会うたびに、同じような扱いを受けるから慣れた。

間違えられたからと言って、イメチェンする気はない。


 そして村長から、被害状況の説明を受けた。


「家畜が夜中に何かに襲われ、いくつかは食い散らかされ、

多くは持っていかれるんです」


昨晩も被害があって、まだ片付けてないとの事で、

現場も見せてもらったが


「これは酷い」


と思わず口に出してしまうほど。

家畜は、汚く食い散らかされ原形をとどめておらず、

肉片だけとなっていた。


「あとは畑の作物や薬草類も同様です。こちらも荒らされてます」


村長は悔しそうに言った。


 村長の話では、最初は野獣の仕業と思い、

対処をした。例えば柵を高く丈夫にしたり、罠を仕掛けたりした。

しかし結果は変わらずで、柵は破壊され罠も壊され、むしろ余計に酷くなる一方。

村の若い衆は見回りを、行っているがそれさえ掻い潜る状態。

 

 その内、魔物の仕業じゃないかと言う話になり、

そこで冒険者に頼む事にしたという事だった。

あとすぐに魔物の仕業と思わなかった理由は、


「この村は、長年、魔物に襲われた事が無くて……」


この時冒険者ギルドで依頼を見た冒険者たちが、

珍しいと言っていたの思い出した。


(そうか、それでか……)


と納得した。

しかし、まだ魔獣の仕業かどうかは、半信半疑らしく、

故に依頼はあくまで調査で、もし魔物なら追加報酬で倒すという形らしい。


「さっそく、調べてみます」


そう言って、調査を開始した。


 この時、村には僕とカナメで出来ていた。

調査だからみんなで来る必要はないし、

あとユズノとサファイアはライレム推奨の依頼を頼んでいる。

ユズノがラグナロクになって、サファイアが操縦と言う形で、

依頼をこなしているはずである。


 そして僕達は村長と別れた後、カナメに、


「どう思う?」


と聞いた。人間の姿でも、見たものを分析できる能力を持つ彼女は、


「現場を見ましたが、変ですね」

「変?」

「はい、分析の結果、家畜を食い散らかしている割には、

体液が検出されないんです」


あの現場には、家畜自身と村人たちのモノと思われる体液以外はないという。


「確かに唾液くらいはつくよな」

「唾液が無い魔物がいるかもしれませんが」


それはこの世界に来たばかりなので、何とも言えないが、

ただ冒険者としてこっちに来てから戦った魔物は、大抵、唾液を出していた。


「これは推測ですが、野獣か、魔物に見せかけた家畜泥棒……なのでしょうか?」


という自信なさげに言うカナメ


「どうかしたの?」

「いえ、肉片を分析した所、食い散らかされた豚の中に、

かなり上質なものが、紛れ込んでいます」


家畜泥棒だとすれば、食い散らかしは偽造だけど

その目的は、主に転売のはずだから、

上質なものを持って行って、売って金にするはずで、

偽造には、金にならなそうなものを使うはずだ。


 しかし、上質なものを偽装に使っているとなると、


「もっと上質な家畜があったのか。それとも見効きが最低なのか」


他に何かあるのか。


「少し情報を集めてみようか」

「わかりました艦長」


村で被害のあった他の人々にも話を聞いた。

自分が育てた家畜や野菜を奪われて、憤慨していた。

中には、家畜泥棒を疑った人たちもいた。

ただ上質なものが食い散らかされていたから、

違うのではと思うようになったらしい。

 

 あと僕は、話を聞いているうちに、思い立ったことがあって、

以降、会う人たちに、


「最近、変な人来ませんでした?

例えば村にやって来て無礼な事して追い出されたとか」


と聞いてみた。要は最近恨みを買いましたかという事。

そう僕は、襲撃が村への怨嗟だと思ったのである。

ただ直接恨みを買ったか聞くと、村人たちの機嫌を悪くしそうだから、

こういう形にしたんだけど、村人たちは、


「そう言う奴、時々来るねえ、でも最近はないなぁ」


との事だったが、ただある村人から、


「そういや、用心棒に雇えってうるさい奴らがいたな」

「用心棒?」

「ああ、村長の所に来た五人組でな、村で自分らを雇えって、

しかもライレムを保有してるからって、

かなりのお金を吹っかけてきたんだ」


もちろん断った後の事。お金の問題だけでなく、


「この辺は魔物は出ないし、盗賊も若い連中がどうにかしてくれるから、

必要ないからな」


その頃は、家畜の襲撃が無かったころである。


「それに態度も、上から目線の偉そうな奴らでな。

そう言ったところが、村長も気に入らなかったらしい」


そして、断られた連中はご立腹で、


「後悔するぞ!」


と怒鳴り散らしながら、村から出て行ったという。

ただ、その後は何事もなかったので、特に気にしてなかったという。

あと家畜への襲撃も直後に、起こったわけじゃないので、

関連付けては居ないようだった。


 僕は、


「お話、ありがとうございます」


と言って頭を下げて、その場を離れた。その後、一緒にいたカナメは、


「どう思います?さっきの人が言ってた連中の事」


とカナメが質問してきたので、


「怪しいな。多分、雇ってもらえなかった腹いせだろう」


と答える僕。


「私もそう思います」

「しかし、証拠が無い。それに断られて、

すぐに行動を起こさなさかったのも気になるし」


連中が断られた後、間が空いている。

まあ準備に、時間が掛かったと言えば、それまでかもしれないが、

他に何か理由があるような気がした。


 しかし証拠が無い。指紋とかDNAとかの採取は、

戦艦に設備も人員もあるから、可能だが、

この世界では意味が無さそうだし、現行犯で捕まえるしかない。

ただ村人たちの見回りもうまくかわしているから、相当用心深いと思われる。


(もし魔法か何かで、こっちの状況を把握していたとしたら厄介だな)


と思いつつ考えていると、



「そうだ!」


いい手が浮かんだ。ただそれも賭けではあったが僕は、

通信機でカラドリウスに連絡を取り、

その後、まだ襲われていない農家の人たちの元に向かい、ある事を伝えた。

その日は、村から提供された宿泊場所に泊まり、交代で番をした。

その晩は何も起きなかったが、翌日の晩、事が動いた。


 その晩、


「ギャアアアアアアアアアアア!」


と言う悲鳴が、村に響いた。僕とカナメは、悲鳴を聞いた村人たち共に、

村の農場に駆け付けた。そこはまだ襲われてない場所で、

柵は壊されていたが、幸いにも家畜は無事で、

代わりに、二人組のガタイはよくて坊主頭の男と、

髪が長いチャラ風な男がのびていて、僕と一緒に駆け付けた村人が、


「あっ、こいつら用心棒になりたいとか言ってた奴らだ!」


例の五人組の一員らしい。


「しかし、一体何が」


ここで僕は、種明かしをする。


「これを使っていたんです」


すると目玉を思わせる球体が空中に姿を見せた。

これはカラドリウスに配備されている偵察用ドローンである。

それを呼び寄せて、村中に配置し見張っていたのである。

ただドローンのステルス能力が、

魔法を使っているかもしれない連中を誤魔化せるかは賭けであったが、

うまく行ったようだ。


 因みにこのドローン、ゲーム中では、披露されなかったが設定上は、

攻撃能力を持っていて、ビームのような物を発射できる。

これを使って二人を気絶させたのである。


 ドローンを見た村人は、


「もしや、メファミリアですか」


この世界でも、ドローンはあって、メファミリアと呼ばれている事は、

冒険者ギルドで偶然聞いていた。なお魔法で動くらしい。

とにかく見せても問題ないと思ったのである。

ただ、この直後村人たちは、僕たちに羨望の眼差しを向け始めた。


(まさか、異世界もの特有のやらかしか)


実は、メファミリアは、見た目は機械的だが、多くは使い手の魔力で稼働し、

しかも魔物や動物を操る、いわばテイマーでかなりの腕前でないと、

操れない代物が多いのだった。なので、村人たちからすれば、


「そんな凄いものを使えるなんて」


と憧れの目で見る事になったのだ。


 メファミリアの詳細は知らなかったが、話を出した途端に、

眼差しを向けだしたから、凄い人にしか扱えないと察した僕は、


「言っておきますが、このメファミリアは、

知り合い作ってもらったもので、

僕のような新人冒険者でも、扱える特別な代物でして……」


と誤魔化した。あながち嘘でもない。

僕の許可がいるけど、使おうと思えばだれでも扱えるのだから。

ただ


「そのようなものが作れるとは、そのお知り合いは、お凄いんですね」


今度は凄い人と知り合いって事になって、羨望も眼差しは収まらなかった。

紹介を頼まれても困るが、死んだ扱いは抵抗があるので、

ただ消息不明という事にしておいた。


 まあともかく、


「こいつらが犯人です。証拠もあります」


と言って、ドローンが撮った映像も、

空中にスクリーンを表示させる形で見せた。

二人が、忍び込んで家畜を殺そうとして、

ドローンで気絶させられる場面が映し出されている。


 なお勇者の中継の様にこういう形で、

魔法で映像を見せる事が、出来るようなので、

見せても問題ないとは思ったが、

さっきの事があったので、不安だったが、

この事にはあまり驚かれなかったので、 安心した。


 その後二人は縄で縛られた後、 村人たちが連れて行った。

最終的にはこの世界で警察に相当する衛兵に突き出すことになるが、

僕らの仕事は調査なのでここまで、

衛兵は犯罪者の引き取りしかしてくれないようなので、

残りの連中の確保も含め、あとは村人の仕事となる。その後、村長と会い、

報酬の銀貨5枚をもらい依頼完了となるのだが、その際に、連中の目的を知った。


「あの二人を問い詰めた所、

奴らは断られた腹いせと言うのもあるそうですが、

自作自演で騒動を起こして、再度雇ってもらおうとしたそうです」


この騒動で困り切ったところでやって来て、

物騒だからと言って、自分たちを売り込むつもりだったんだろう。

その目的は失敗に終わったけど。


 さて村長から報酬の銀貨5枚を貰ったところで、


「貴女達はライレムを持っていますか?」


と聞かれて、何を言わんとしているか予測が付き、


「はい」


と答えると、金貨を一枚出してきて、


「魔物ではありませんが、残りの連中を捕まえるのに協力しれくれたら

追加報酬を渡しますが」


と言い出した。連中がライレムを持っているのがわかっているので、

何もないと心もとないと思ったのだろう。


 このまま、去るといい気分はしないので、


「僕は引き受けたいのですが」


思わずカナメの方を見た。彼女はどう思っているのか

すると


「私は、か……主人の意向に従うまでです」


人前では、艦長とは言わないように頼んでいる。

妙な目で見られないようにだ。


 ともかく彼女は僕の意向に従うという事なので、

引き続き確保の手伝いに行く事になった。

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