第6話「昇格依頼」

 翌日、冒険者ギルドに向かった。もう少し日を開けようと思ったけど、

昨日の市を利用して、そこでライレムを買った事にして、

仕事を受けようしたのだったが、


「今日は随分人がいないね」


と一緒にいたユズノが言う。確かに閑古鳥が鳴いている。

ただ冒険者ギルドは営業している様子。


 とりあえず、仕事を探そうと掲示板に行くと、

仕事依頼が殆どと言うか、昇格用のむずかし依頼しかなかった。


「仕事がほとんどないから、人がいないんですね」


と言うカナメだったが、なぜ仕事が無いかは分からないが、

まあ僕が受けたい仕事はあったから、別に関係なかったのだが、

受付に行き、依頼の受注すると、


「ところでライレムはお持ちですか、無くても受注は可能ですが、

達成は難しいですよ」


とどこかバカにしたような口調で言うので、


「ご心配なく、昨日の市で購入しましたから」

「それは運が良かったですね。勇者一族が、すべて買い占めていったようですから」


知ってはいたが、


「そうなんですか、その頃には市場にいませんでしたから」

「でしょうね。いたら、そのライレムも無理やり売らされていたでしょうし」


そんな会話をした後、


「そう言えば、依頼が殆どないですけど」

「勇者様たちが、全部引き受けちゃったんですよ」


勇者の一族が来ると、冒険者ギルドが扱っている依頼の殆どを、

引き受けてしまうという。


「仕事は、ちゃんとしてくれるんですけど」


言うまでもないけど、街の冒険者たちの仕事を奪う結果になっている。

ただ、全部じゃないのは仕事を残しているというアピールだろうが、

残っているのは昇格用の、難しい依頼だけである。


(嫌がらせみたいだな)


そんな事を思いながら、依頼を受注した。ギルドを出ると、サファイアが


「酷い、勇者……」


とだけ言った。僕も同感だ。


 勇者の事はともかく、依頼だがライレムことロボが推奨されると言うだけあって、

巨大なモンスターの討伐である。ゲーム中でも怪獣と戦う事もあるから、

似たようなものだろう。なおモンスターの名は、


「ギガントオークか」


後で知るんだけど、オークの変異種の巨大なオーク。

ただ依頼書には、全長30メートルと書かれていた。

なおこの世界にもメートル法があるらしい。


「それにしても30メートルのオークか、

ファンタテーラにも、同じものがあると聞くけど……」


するとカナメが、


「我々の力をもってすれば、容易いでしょう。誰で行きますか?」


と聞かれ、図体がでかくてもオークには変わりない。

その行動パターンは、腕力による格闘だろう。ならば、


「ユズノで行こう」


すると、


「やった!」


喜ぶユズノ。カナメも、


「まあ妥当でしょう」


と納得していた。サファイアは、


「………」


納得いかないのか不機嫌そうだった。


 とにかく、今回は前のゴブリンとは違って遠いので、

カラドリウスで向かう事にした。ただ騒ぎになったら面倒なので、

光学迷彩で身を隠して向かう。航行中、僕はブリッジにいてオペレーターが、


「艦長、目的地に到着しました」


そこは大きな木に覆われた広い森であった。


「目標を確認、モニターに映します」


映されたのは、見るからに巨大なオークと言う感じだ。

それは、巨木の間から姿を見せた。その大きさ故なのか服は着ていないが、

大木を根っこから引き抜き、こん棒の代わりにしていた。


 目標は確認したところで、


「出撃するよ」


そう言うと僕は、格納庫に向かう。そこにはユズノいて、


「行こう」

「うん!」


するとユズノは、素早く服を脱ぎだす。ゲームでもそうだったが、

彼女はロボになるとき、全裸になる。

ただゲーム画面では首肩下は見えないし、すぐに変身するから、

裸になっているのは示唆されるも、実際に裸を見る事はないが、

ここは現実だから、もろ見えなので僕は目をそらした。


 そして彼女の体は光に包まれ、

巨大化しスーパーロボット、ラグナロクに姿を変えた。

乗り込むときは転移ゲートで乗り込む。


「それじゃあ、行こうか」

『オッケー!』


コックピット内にユズノの声が響く。


(しかし、ロボに乗るとやっぱりワクワクするな)


そしてハッチが開くと、


「発進!!」


そう言って、僕らは出撃し、地面に向かって落下し、

轟音と、強い振動と共に着地する。コックピットにいるから分からないけど、

ゲームと同じく、しゃがみつつも両足で踏ん張る。

カッコイイ着地をしているはずだ。

 

 周りを見ると、木々がなぎ倒され倒れていた。


「まずは、小手調べかな」


すると目の前の巨大オークは、こちらを敵と認識したか、


「グオォォォォォォォ!」


と雄たけびを上げると、 持っていた大木を投げつけてきた。


「こんなもの、効かないよ」


両手をクロスさせガードし、地面に落ちる大木。


「さすが、ラグナロクは装甲は強靭だね。ビクともしない」

『えへへ~、もっと褒めてくれてもいいよ』


とユズノの自慢気な声がする。


「じゃあ行くよ!」


一歩踏み出す。その重さ故が、大地が揺れる。そのまま駆けだし最初に一撃は、


「フェンリルナックル!」


拳を作った右腕部が、分離しブースターで飛んでいく。

そして、巨大オークの顔面に命中し、怯むオーク。

その隙に、接近し飛ばしてない左で殴る。

なお飛んで行った腕は、転移で戻ってきて再び腕に再装着される。

あと技名を叫ぶのは、僕のだてや酔狂でもあるけど、

音声認識システムという事もある。


 右腕が戻って来ると、両手を使ってひたすら殴り、

そしてアッパーカットを食らわせると、巨大オークは軽く吹っ飛び、

ここで追い打ちで、


「ヴァルキリーアイズ!」


目から出るビーム攻撃で追撃する。


 なおモニターには巨大オークのHPゲージが、

予測と言う形だが、表示されていた。それが3分の1ほど減る。

すると巨大オークは、突進してきた。


「ヴァナディ・テンペスト!」


ラグナロクの口のあたりから、突風を発生させ、

それは無数の風の刃となり、向かってくる巨大オークに襲い掛かる。


 しかし、巨大オークは傷だらけになりながらも臆せず向かって来て、


「クッ!」


両腕で受け止める。


「うおぉりゃぁぁ!」


思わず掛け声をあげながら何とか押し返して、距離を取るが、


「やっぱり、大きいだけあって、パワーも凄い……」


そう呟くと、


『今ならスレイプニル・ストライクが使えるよ』


ゲームでは、ロボットごとに細かなシステムが異なる。

ラグナロクは、戦う事でエナジーゲージが貯まり、

更なる強力な必殺技が使える。それが現実でも再現されているようだ。


「よし、それで行こう!」


コックピットにいるから分からないけど、モニターの動き、

それ以前のゲーム中の様子を思い出し、腰を落として構える


「スレイプニル・ストライク!!」


するとラグナロクの足元に、光の車輪が現れ、高速回転する。

そのままブースターで、跳躍して上昇。

そして巨大オーク向けて、 急降下キックを喰らわす。

これが、スレイプニル・ストライク。


 攻撃を受けて大きく吹き飛ぶ巨大オーク、

HPはだいぶ減らしていて、見るからにフラフラだが、

まだ死んでいない。僕は使える技を確認し、


「これで決める! オーディン・バースト!」


機体は、両手を胸の前でクロスさせ、再び開くと

強力な熱戦が放出される。これがオーディン・バーストで、

ラグナロクの必殺技でも上位の威力で、

それは巨大オークを貫き、これが止めとなりその巨体は爆発した。


 爆発に伴う煙が晴れた後、そこには大きな石、すなわち魔石が残された。


(ロボで運ぶほどの物じゃないけど)


だからと言って一人で運ぶにはつらい大きさだし、

ついでという事で、このままラグナロクで運ぶことにした。


 ここでカナメが、


『楽勝だったね。もう一戦いけるよ』

「フラグになるからそう言うことは、言わないで」


実際ゲームでは、フラグにあることは多い。例えば予期せぬ敵の乱入。

そして予想通りというか、ここでオペレーターから通信が入り、


「艦長、未確認の大型生物が接近しています」

「何? どんなやつか分かる?」

「はい、全長30メートルくらいで、二足歩行でトカゲのような外見です。数は1匹」

「二足歩行のトカゲって……」


それを聞いて、思い当たるのは一つしかなかった。


 やがてそいつは、素早い足取りで、向かってきた。


「やっぱりリザードマン、だけど全長30メートルって」


さっきのオークとは違い、鎧も来て、剣のような物を持っていて、

しかも、こっちを狙っている。


「とりあえず、倒さないと」


そう言って、僕はユズノに呼びかけた。


「ユズノ、いけるかい」

『うん、問題ないよ』


ユズノの返事を聞き、僕は、


「それじゃあ、いこう」

『オッケー』


オークに引き続き、巨大リザードマンとの戦いが始まる。


 最初に振りかざしてくる剣をどうにかしようと思ったが、


(そうだ、アレを使う時に……)


ある事を思い立ち破壊せずに、利用する事にした。

幸い奴の剣、そんなに強くはなく、剣による攻撃は防御したが、

ラグナロクの装甲に傷一つ付けられずにいた。


 ただ鎧を着ているせいなのか、防御力は強く、

こっちの攻撃も、あまり効果が無いようだった。


(これじゃ、アレも効果があるかどうか……)


そう考えていると、 巨大リザードマンは、火を噴いた。


「うわっ!」


とっさに避けようとするが、

そもそもラグナロクの機動力は低いという事もあって、

間に合わず炎に包まれる。


『この程度の炎、なんてことないよ』


確かに機体自体は問題ない。

だが、コックピット内の温度が上がっている気がする。


『ナツキ大丈夫?』

「えっと、ちょっと暑いかな?」


コックピットは暑いが、どうにか堪えつつ、

ヴァナディ・テンペストで、吹き飛ばそうかと思ったが、


(逆に火が広がって森林火災になったらまずいな)


炎の中、暑いのを我慢して攻撃を続ける。


(そう言えば、課金アイテムに空調機器強化ってあったけど)


ゲームでは、ロボの戦闘力にはパイロットの体調も、

考慮されていた。これを使えばパイロットのコンディションが上がり、

戦闘力も上がるというものだったが、大して必要を感じなかった。


(こういう時の為に必要なのかも)


今更ながら、買っておけば良かったと思いながらも、


「ヴァルキリーアイズ!」


目からビームを出して、攻撃をするが、ダメージは少ない。

その後も攻撃を続けていると、天候が変化。

雷が鳴り、雨が降り出す


「スコールか……」


ちょうどこの時、


『グッドタイミング!ちょうど今トールサンダーが使えるようになったよ』

「わかった!トールサンダー!」


コックピットからは分かりにくいが、ゲームと同じなら、

左手を空にあげているはずだ。直後、雷が巨大リザードマンに落ちた。


「キシャァァァァァァァァァァァ!」


と悲鳴が上がる。


 トールサンダーは雷を発生させ、相手に落とすという技で、

ロボには効果が薄く、対怪獣向けの技だが、

命中率は極めて悪い。ただ金属も持っていれば、百発百中だけど、

先に述べた通り、ロボには効果が薄い。

あと天候の影響を受ける技で、雷雨の時は攻撃力が上昇する。

 

 巨大リザードマンの剣を破壊しなかったのも、

この必殺技を確実に当てるためだが、


「えっ?」


あんなに丈夫だった巨大リザードマンは、この一撃で悲鳴を上げ、

動かなくなってしまった。いくら雷雨で強くなってるとはいえ、

大ダメージを与えるくらいだと思っていたけど、

まさか倒してしまうとまでは思わなくて、拍子抜けした。

後に知ったんだけど、リザードマンは雷の弱いとの事。


 なお死体は魔石に変化するが、巨大な装備は残された。


「このまま置いておいてもゴミになるだけから、回収していくか」


そして戦艦に二つの魔石と装備を、持ち切れないので、

二回に分けで、戦艦に運んだ。積み込みの際は見えないと、

難しいので光学迷彩は解いてある。

 

 艦に戻ると、艦長代理を頼んでいたカナメが、

 

「艦長お疲れ様でした」


と迎えてくれた。因みに僕の後ろの方では、

ラグナロクから人の姿になったユズノが、


「私の服どこ?」


と探している様子で、


「はい……これ……」


とサファイアの声がして


「ありがと」


とユズノが言っているので、彼女が服を渡したらしい。

彼女の方を見ることなく、一休みすべく自室に戻った。

僕が休憩している間、戦艦の方は、光学迷彩で身を隠したまま、

リルナリア近くの海に向かう。道中は光学迷彩を使用し、

到着後は、再び潜航して身を隠す。


 リルナリアに戻った時、冒険者ギルドに行くことはできたけど、

面倒だったので、翌朝向かう事にした。

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