第5話「ガチャと悪徳勇者」

 一旦、カラドリウスに戻った僕らは、何日かインターバルを置くことにした。

ライレム知り、それを手に入れてもおかしくないくらいの日にちだ。

その間は戦艦の状況、特に食料の在庫を確認した。

先にユズノから、十分余裕があるとの話は聞いていたが、

自分の目で確認したかった。


 確かに、まだ余裕はある。あと戦艦内には農場があり、

ある程度の自給自足ができる。だがそれでも限度はある。

取り敢えず、冒険者として稼ごうとも思うが、

しかし、ゴブリン退治は楽であったが、今後はどうか分からない。


(農場の強化もしておくか)


幸い金貨一枚で、日本円にして十万円の課金ができるから、

生前では、手が出せなかった課金アイテムを買える。

その中には、無課金では時間のかかる農場強化をすぐに行えるアイテム、

「農場拡張キット」というのがあって、

それで食料生産力を上げようと思うが、それは購入制限があって、

限界まで買うと来月まで買えない。


 それに農場があっても、人員がいないと意味はない。

今は、モブの職員がやっているが、やはり専用の人材が必要だ。

まずはショップで、鉱石を買う。大きなモニターはタッチパネルで、

項目を選択し、必要な鉱石の量を指定し、決定ボタンをタッチする。

その時、取り出し口から出てきた鉱石は直ぐに消えて、

アイテムボックスに移動する。その後、僕は召喚機の前に立った。

操作はコンソールの下にあるダイヤルの様なものを回すだけ、

まさしくガチャである。なお鉱石は、アイテムボックスから自動的に消費される。

ショップで買った鉱石は、天井まで回せるだけの量だ。

僕は確実の手に入る事が保証されないと、どうもガチャは回せない。

だから、ユズノ達を手に入れた初回限定ガチャを除いた初めてのガチャとなる。

 

 そして、僕はガチャを回す。最初に出てきたのは強化用素材、

最初から当たるとは思わない。次に出てきたのは武器の素材、

そして次に出て来たのは、


「またハズレ……」


三個目は強化用素材、四個目が武器の素材、五個目も同様

面倒くさくなって、設定を変更、一度、回すごとに十回引く設定にする。


 そして5回まわし、ちょうど五十五回引いた時、当たりがでた。


「やった!」


ピックアップされていたロボが登場した。

召喚機のコンソールから事前に情報は得ている。

名前はクインハデス、見た目も中々カッコいい上に、

現時点ではかなりの攻撃力を持つチートロボで、

両腕の拳を胸の前で組み放たれるエネルギー波、

「ヘブンズアタック」は、周囲の敵をそれこそ原子レベルで、

一瞬のうちに消滅させる代物。


 出現したクインハデスは、光に包まれると縮んでいき、

髪型はボサっと感のあるショートカット、

たれ目で純朴そうな顔立ち、小柄だけど爆乳の少女へと姿を変える。

服装は、農作業着と言う格好で、見るからに農家の娘という格好。


「初めまして艦長、オラ、アカネっていいます」


妙に訛りがある口調。


「ああ、よろしく」

「これから、お世話になります」


ぺこりと頭を下げられる。


「ところで、オラは何すればいいですか?」

「農場で働いてくれるかな」


すると彼女は嬉しそうに、微笑む。


「ありがとうございます。頑張ります」


クインハデスは、化身はアカネと言う少女で決まっている。

事前情報では、アカネは農作業が得意で、農場で働かせれば、

食料の自給率が大幅に上がる。因みにゲーム中でも自給率は、

ヒロインやロボのステータスに影響があるので、重要である。


 ただ彼女は戦闘が嫌いと言う設定なので、戦闘させれば好感度が下がってしまう。

好感度も攻撃力に影響があるので、チートな性能を維持するには、

極力出撃を控えねばならない。故にゲームバランスは保たれる。


(ゲームスタッフも考えたな)


と設定を見たとき感心した。


 まあ僕はロボを持っていると思うだけで、満足だし、

今回はロボの能力よりも、彼女の能力の方が目当てなので、

その辺は関係ない。その後拡張キットも買ったし、

これで農場の強化はうまく行った。


 あと気になる事はライレムである。

最初の偵察時に、存在の確認はしているが詳しい調査はしてなかった。

あの時は、街の事や今後の仕事の事で気を取られていたからだ。

受付嬢の話では、街の郊外に貸出業者や売買しているとの事なので、

様子見に僕とユズノ達の四人で向かった。

アカネは農作業に集中するので留守番である。

 

 さて、郊外に向かうとこの前以上に、ロボが置いてあった。商人らしき連中が、


「ウチのライレムはすごいよ!一家に一台、どうだい!」


とか


「こっちは最新のライレムだよ!」


など客寄せをしている。どうやら今日は、見本市をやってるらしい。

立ち並んでいるライレムは、色んな形状のものがあったが、

共通して、西洋の甲冑を思わせるようなデザインが含まれていて、


(ファンタテーラの魔機神ほどバリエーションはないな。

まあ、あっちは逆にファンタジー世界にそぐわな過ぎるが)


そんな事を思いつつも、ロボ好きだから凄くワクワクしながら、

見て回った。高額なものが多くて、

まだお金がそんなにないから、買えないのが残念だ。


(お金に余裕ができたらいつかは買おう)


と思っていた。


 そんな中、


「お嬢様がた、新人さんだね」


と三十代位の商人風の女性に声を掛けられた。


「ウチのライレムは新人向けでお安いよ」


見本として置いてあるロボは新人の兵士と言うデザインで、

見るからに量産型で、言ったら悪いけどザコっぽい。

値段は金貨十五枚、大体15万、原付くらいの値段。なお一緒にいたサファイアが、


「弱……」


と言いかけたんで、素早く口を塞ぎ、


「もう間に合ってますから」


と断る。まあロボは好きで、買えなくもなかったけど

なんだか買う気にはなれなかった。それに実際間に合ってるし。


「残念だねぇ。でも、武器なんかどうだい?

ウチは新人さん向けの商品を扱ってるんだ」


他にも剣や槍とかあったが、どれも安物の量産品と言う感じ、

値段は高くても金貨一枚だった。要は一万円ほど。

ただカナメが、


「これは、なかなか丈夫ですね。値段の割は使い物になりますよ」


と言いつつも、


「私は、間に合ってますけど……」


と言うので、その人はガッカリしたようだった。


 ちょうどその時だった。腕時計型の通信機に通信が入った。

相手は、戦艦で待機しているオペレーターだった。

先のゴブリンの巣も含め、ロボで直ぐに戻れそうな距離なので、

戦艦はオペレーターに任せていた。


「艦長、大型の空中戦艦が向かって来ています」


大型と言って、カラドリウスに比べれば、ずっと小さいが、

それでも、複数のロボを格納できる大きさだという。

それは内陸部から、僕たちがいる場所に向かっているらしい。


「攻撃の気配はありませんが」

「それじゃ、引き続き監視を頼むよ」


そう言って通信を切った。

そして状況を、ユズノ達に耳打ちする。カナメは


「何者でしょうか?」

「とりあえずは様子見だ」


やがて巨大な飛空艇が姿を見せた。


 すると周囲に人間たちの様子が、二つに分かれた。

一方は、商人たちを中心に大喜びする人々。

もう一方は、市場に買い物をしにした冒険者を中心に、

嫌な顔する人々、僕たちにこえを掛けてきた商人は嫌そうな顔で、


「勇者の一族だわ……」


と言った。現れたのは、勇者の一族が乗る飛空艇だという。


「でも何で嫌そうな顔をするんです」


勇者と言うくらいだから、魔王を倒すくらいの偉業、

あるいは倒そうとしているのかもしれないが、

どちらかと言えば、歓迎させそうだし、実際歓迎している奴らもいる。


「お嬢さん達は新人さんみたいだから知らないけど、

アイツらは、金に物を言わせて、市場の物を買い占めていくのよ」


その後、飛空艇は着陸し、数人の美形だけど偉そうな雰囲気の男女が降りてきて、

買い物を始めるが、


「すべて買おう」

「あるものすべてちょうだい」

「お金ならあるわ」

「これも、これも、これも!」

「全部よこせ!」


などと傍若無人な態度で、金をばらまきながら買い漁る。

次々とロボを買って行くから、羨ましさを感じつつも、


(昔の成金みたいだな……)


と思いつつ、その光景を眺めていた。

中には、とある冒険者が買おうとしていたところで、

割り込んで、商品を買っていくという横取りする場面もあり、

冒険者たちが嫌そうな顔をする理由が分かる気がした。


「金払いはきちんとしてるんだけどね。

むしろ多く払ってくれることもあるし」


商人が喜ぶわけだが、ただこの人は商人だけど歓迎していない様子。

その理由をすぐにすることとなる。


 一団がやって来た。リーダー格は金髪のショートで

美形だが、嫌味ったらしいというか、イケメンの悪党って感じがする。

だが、商人は、


「これはこれは、勇者様」


どうやらこの男が勇者らしい。


「商品を見せてもらうぞ」

「いいですが、ウチは新人向けの安物ばかりですから、

勇者様の様な腕利きの方には、そぐわないと思いますが」

「構わん!見せろ!」


と命令口調で言う。


「わかりました」


すると勇者は商品を見定めて、


「全部買おう、下っ端共の練習用にはちょうどいい」

「そうですか……」

「あとライレムは」


見本を指さしながら


「コイツと、追加で10機ほど、一か月で納品はできるか」

「可能です」

「なら頼む。これは連中用の的にはちょうどいい」


その後、大量の金貨をばらまき、


「先払いだ、これだけあれば十分か?」

「十分です……」


商人は、笑ってはいたが、僕にはどこか悔しそうに見えた。


 勇者は、使いの者に売り物を全部持って行かせ、


「ああ、それと」


今度は僕たちの方にやって来て、僕の方を見た後、カナメに向かって、


「そこの奴隷を売ってくれないか?」

「今、なんと?」

「だから、そこの奴隷を売ってほしいと言ったんだ」


と僕を差し示す。どうやら僕の事を奴隷だと勘違いしているらしい。

確かに、僕の格好は使用人みたいだけど。するとカナメは怖い顔で、


「奴隷などいません!この方は、私たちの主人です!」


と強く言い放つ。まあ正確には艦長だけど、

ただ外で、艦長と言うと妙に思われるだろうから、

別の呼び方で言うようには行っていた。


 すると勇者は、僕の方をじろじろ見ながら、


「君が主人?本当か?」

「すいません奴隷っぽい格好で、これが僕の趣味ですよ」

「そうなのか?まあ、お茶でもどうだ」

「お断りします。奴隷扱いされて、許せるほど僕は寛大ではないので」

「ほう、断るのか……」


この時、僕ら以外の周りの人間が顔を真っ青にしていたそうだ。

それもそうだろう、勇者に面と向かって断ってるんだから、

まあ僕らは、この世界の住民じゃないから、

その恐ろしさを知らないから、こう言えたのかもしれない。


 勇者は、不機嫌そうにしたが、


「まあいい、興が削がれた」


と言って、去って行った。そして勇者の一族が、

飛空艇で市街地の方に向かって飛び去って行く。すると商人が


「アンタら運がよかったね。勇者の誘いを断ると、

切り殺されても文句は言えないからね」


と言う。知らぬこととはいえ命知らずな事をしていたようだ。


 勇者の一族が買い占めていった為、売り物は無くなり、

市場は解散。新人向けの商品を売っていた商人は、


「いくら安物だからって、的代わりはないでしょ、的代わりは……」


と愚痴を言いながら、片づけをしていた。

それを聞いた僕は、彼女が歓迎していない理由が分かった気がした。


 市場は、お終いなので、僕らはその場を後にした。帰り道カナメが


「何なんですか、あの勇者は!」


ユズノも、


「ホントに勇者なのかな?案外偽物だったりして」


サファイアは、


「間違いなく、悪徳勇者……誰か追放されている」


確かに、追放ものの小説によく出て来る悪徳勇者みたいだった。


(あんまり関わりたくないな)


と僕は思っていたが、そう思うこと自体がフラグかもしれない。


 この後は、街を適当にまわって、カラドリウスに戻った。

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