第9話 そんなことってある?⑨

一ヶ月のうち三週、土曜日には決まって男装をして配信をしていた。

最推しや二推しに憧れる乙女心もあるけれど、彼らみたいに画面越しに人をドキドキさせて、リアルで疲れきったファンのメンタルケアまでしてしまうそんな存在になりたい気持ちの方が強かった。

最初は推しを意識して始めた男装だったけど、思いのほかしっくりきて今では推しとは関係なく男装を楽しむようになった。

私を推してくれるお花たちを騙すようなことはしたくないので、配信を始めた時に自分が男装している女性であることは明かしてある。

語呂がいいから調子に乗って男装美少女なんて枕詞をつけてしまったけれど、私(26歳)はもう少女という年齢ではない。

年齢も明かしているけど、お花たちは優しいからそこはツッコまないでくれている。


仕事場は論外だとして、親もリアルな友達にもこのことは話していない。

一緒に暮らすことになった彼は自然と知ることだから隠しはしないけれど、口止めしておく必要があった。



「以上、守れるかしら?」



ノートを閉じた蝶々が男装のまま問う。



「もちろん」


「今は具体的に思いつかなくても、追加したいルールはきっと後から出てくるわ。その時は必ず二人で共有しつつノートに書き足しましょう」



私からの一方的なルールの提示だったから、何かあれば彼にもルールを追加していいと断っておいた。



「ところで、あなた名前は?」


「申し遅れました。私はコスモスと申します」


「私は野薔薇のばら蝶々ちょうちょ。色々不安なことはあるけど、よろしくねコスモス」


「こちらこそ、精一杯蝶々さんをお世話させていただきます!」



こうして居候型地球外生命体、コスモスとの生活が始まったのよ。

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