第8話 そんなことってある?⑧

①心臓に悪いから推しの姿にならないこと


主の好みに合わせて姿を変えることが彼には可能らしい。

私が見たのも夢じゃなく、全て彼が部屋にあるグッズや携帯の待ち受けから私の好みを知ってその姿になったと言う。

ちょっと、いや、かなり嬉しいけど、たまーにやってくれればいい。

というのも、姿を変えるのには物凄く体力を消費してしまうらしい。

同居すると決めたからには、どちらかが大きな負担や我慢をするのは違うと思うから、無理せず本来の姿でいてとお願いした。

本来の姿でも十分美系だし。



②私の趣味を人に言わないこと(絶対!)



「趣味、ですか?」


「待ってなさい、そろそろ時間だから。けど、私がいいって言うまで声を発さずそこから動かず物音を立てないで」



彼を侘しいダイニングテーブルの椅子に座らせ、自室でメイクやら着替えやらを済ませるとリビングに戻った。

息を飲む彼のリアクションに満足しながら、配信を始める。



「こんばんは。今日もお花のみんなに会いに来た、男装美少女AGEHAだよ」


流れるコメントに音はないものの、今日も黄色い歓声が上がる。ちなみにお花というのはAGEHAのファンの呼称だ。



「今日は思いがけないことが起きてね。予定していたお酒の飲み比べはまた今度、ごめんね。代わりに、リアルタイム相談コーナーを設けるよ。何でも相談してね」




☆ ☆ ☆




配信を終え、すました顔で彼を振り向く蝶々。



「私、男装が趣味なの」

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