第7話 ぼくの部屋

 淳子はコーヒーを半分くらい飲んだだけで帰って行った。

 ぼくは、送ろうか、とも言わなかった。

 雨はやんでいたので、傘を貸すこともなかった。

 そのコーヒーを捨て、コーヒーカップについた口紅のあとを念入りにき取ってカップも片づけ、テーブルを片づけようとして、ふと、思った。

 さっき、あんな冷たい言いかたをせず、かわりに淳子を背中から抱いていたら、どうなっただろう?

 でもその続きは容易に想像できた。

 「何やってんだよマッツ!」

と言ってその非力な体でぼくを突き飛ばし、怒って帰って行っただろう。

 そういうことか、と軽く笑って、ぼくは座敷テーブルを片づけた。

 蛍光灯に照らされたぼくの部屋が、がらんとして、ずいぶん広く見えた。

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