第2話 ぼくをマッツと呼ぶ女
大学生になって東京に出て来て住んだ最初の家の最寄り駅――。
いまは高架になってしまったけれど、そのころ、その駅はまだ地上駅だった。しかも、駅舎の一部に木造の部分が残っていて、「これが東京の駅なのか」と思うほどのんびりしたレトロな駅だった。
東京に住み始めてひと月ほど経ったころ、ぼくはその駅の出口で声をかけられた。
「お? マッツ? マッツじゃん! やっぱりマッツじゃん!」
「マッツって何?」
ぼくは
反応してから気づく。
その反応をして通じる相手が、ここにいるわけがない。だから、偶然、ぼくの昔のあだ名と同じあだ名の人間がいたのだろう。
「うわっ! すごい偶然っ! ひさしぶり? 元気だった? ねえ、元気だったぁ?」
何? その人なつこさ。
というより、なれなれしさ!
「はいっ?」
二つの黒い目でぼくを正面から見、そう言いながら直線的に接近して来たのは、レザーのジャケットに白いスラックスを穿き、白い革の小さいバッグをぶらぶらさせた小柄な女だ。かっこいいとも、フェミニンとも、ボーイッシュとも言いかねる、「自分をかっこよく見せたいんだろうな」感満載の女だ。
顔のお肌はざらざらで、髪はぼさっとしている。
歳は、その服装や身のこなしからは歳上に、でも体の小さい印象からは歳下に見えた。だから、ぼくと同じくらいの歳なのだろう、ととりあえず判断する。
でも、とりあえず、心当たりは、ない。
しかし、その子の顔を
「え?
「そうだよお!」
偉そうだ。
昔のとおりだ。
「ねえねえ。なんでマッツがこんなところにいるの?」
「いや、だから、マッツって何?」
迷惑そうに言う。
「こいつがこんなところにいるわけがない」という感覚はまだ続いている。
しかし、ぼくを「マッツ」と呼ぶ人間はほかにはいない。
ぼくの名前は
何の根拠もなくぼくの
そいつの名は
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