うさぎのぬいぐるみ

清瀬 六朗

第1話 ぬいぐるみ

 引っ越し荷物をまとめることになって、押し入れのものを整理しなければならなくなった。

 しばらく使わないものを片端から文字どおり「押し入れ」ていたら、その「雑然」さは限度を超えていた。

 とりあえず押し入れの上の段の右側にあった衣裳いしょうケースの山を引っぱり出してみる。このケースのさらに奥に何か置いていたというかすかな記憶があった。

 果たして、そこには緑色のカラーボックスが入っていた。

 学生のころに使っていたマグカップや懐中電灯、まとめ買いした布巾や紙コップ、何かに使えると思って取っておいたらしい大きい缶がその棚に無秩序に突っこんであった。

 そのカラーボックスの上に、点灯しなくなった蛍光灯のスタンドと並んで、お行儀ぎょうぎよく、うさぎのぬいぐるみがちょこんと座っていた。

 あ、と思った。

 体の前ににんじんを持って食べている姿だ。

 耳は長いがふにゃふにゃ。それでも、いちおう耳は立っている。

 小さい黒い目はもの問いたそうにこっちを見上げている。

 ゲームセンターのクレーンゲームで取ったぬいぐるみだ。

 こんなぬいぐるみの存在はずっと忘れていた。

 でも、それがぼくの手に入った事情は、瞬時に思い出すことができた。

 まったくドラマチックではないその事情を。

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