第23話



 二人の紳士が剣を合わせている。

決して互角とは言えない。

肉食系吸血鬼の一方的な攻撃である。


 またもや乙女はハラハラしながら勝敗を待っている。

いや、このまま行けば確実に草食系吸血鬼を待っているものは、死、のみである。


 何とかしなければ、と乙女は思う。

然し、前回の、喧嘩をやめて、作戦は成功したが相手は二度も通じるような阿呆ではない。


 そうこうしているうちに、ロマンの細いサーベルが、遼太郎の剣の威力に負けてZ型に近いくらいに曲がって来ている。


 どうする乙女? 自分に聞いてみる。


 さらにロマンの剣が曲がっていっている。


 さぁ、どうするのよ、乙女!


 ロマンが一方的な攻撃に疲れを見せ始めた時、ここぞとばかりに遼太郎の剣が振り下ろされる。


 堪らず、乙女が叫んでしまう。


「私のために喧嘩をするのはやめて!」


 一瞬、遼太郎の腰が抜けたように落ちた。

彼も同じ手に乗る阿呆であった。


 すかさず、そこへロマンが体当たりを当てる。

遼太郎が後ろへ飛ばされたところは、乙女の足元であった。


「死んで天国に召されやがれ!?、じゃなくって地獄へ戻れ!」


 乙女は純金製の十字架を倒れている遼太郎の胸に力を込めて叩きつける。

遼太郎の胸に小さな十文字の炎が上がると、体が燃え盛る。

やがて肉食系吸血の体が灰になって行く。

完全に灰になって、灰が夜風に飛ばされると、そこには純金製の十字架だけが残った。

それをロマンが拾い上げようとするが、躊躇いながら首を振る。


「あなたも?」


「ええ、吸血鬼は悪魔族に属していますから、金の十字架には弱いんです」


 それを聞いて、乙女は自分で十字架を拾い上げる。


「よく、そんなものが買えましたね?」


 とロマンが尋ねる。


「うん、破産よ、しかも借金だらけになっちゃった。会社にも戻れないし、生きて行くお金も無いし、どうしよ」


 乙女の掌から、拾い上げたばかりの十字架が音を立てて屋上のコンクリートに転がる。


「何とかなりますよ」


「何とかしてくれるの?」


「私にできることなどありません」


「だよね」


「そう、人は生きて行くしかないのです」


「・・・・・・・・。」


「二人で頑張りましょう」


「二人で・・・? 二人で? そう! そうだわ! 二人で生きて行くのよ」


「?」


「ロマン、お願いがあるの」


「?」


「血の交換をして、お願い」


「賛成できません。一度血の交換をすると二度と人間に戻れないのですよ」

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