第18話



 一人きりの部屋は寂しい?

二人ならどう?

いっそのこと大勢でシェアーハウス?

とんでもない。

人は一人の時間が必要なこともある。

心を共有できているなら一人でも寂しくはない筈。

それでもあなたと暮らしていたい。

永遠という言葉があるなら、

私はこの愛を永遠に、

あなたと共に育て続けていたい。


 商店街から帰ってきた乙女は意気消沈しているように見える。

暫く草食系吸血鬼は乙女を見ていたが、


「乙女、大丈夫?」


 と声を掛ける。


「うん、ちょっと取り乱してしまっただけなの」


「何かできることはある?」


「そこに居てくれるだけでいい」


「・・・・・・・・。」


「本当よ、吸血鬼さん、そこで座ってて」


「コロッケ、食べる?」


「ううん、今はいいの、ありがとう」


「乙女、私はここに居てもいいのか?」


「いいよ、あなたは食費もかからないし、今まで掃除洗濯食事の準備までしてくれた。それに癒しの波動、とても素敵だったわ。ありがとう」


「そんな・・・。本当に、それで、いいのか?」


「どうしたの?」


「あの男、昔の乙女の恋人。奴は肉食系吸血鬼だ」


「ええ、何言ってるの? 彼は私が勤めてる会社の社長の御曹司よ?」


「奴は人間じゃない。その社長さんは子供ができなくて、彼を養子に迎えて育てた。奴は、どういう訳か私と同じように光に耐性がある。進化したようだ」


「そう言えば、社内で実の息子じゃないって噂を聞いたことがあるわ」


「そう。実の息子じゃない。そして奴は私を見つけた」


「え」


 と乙女は声を上げてしまう。

そう言えば、あの時のあの男の動きが一瞬だけ止まった時、乙女と目があった訳ではなかった。

別の方向を見ていたように思い返される。

そうか、そうなのだ、あの男は草食系吸血鬼を見つけたのだ。

最初から乙女など眼中にない、乙女など見ていなかったのだ。

あの男は、吸血鬼、蚊族、草食系吸血鬼を捕食できると思ったに違いない。

草食系吸血鬼の天敵、コウモリ族、肉食系吸血鬼なのだ。


「乙女に迷惑はかけられない。此処には居られない」


「何言ってるの?」


「そうだ、乙女、奴には何回やられた」


「え、何? 何? 何聞いてるの?」


 そう言う乙女の言葉も聞かずに、草食系吸血鬼は乙女に飛びついて、いきなりシャツのボタンを外しだした。


「何よ、だめよ、こんな時に、こんな所で、まだシャワーも浴びてないのよ。しかも、突然すぎる。突然すぎるから駄目だって言ってる訳ではなくて、心の準備っていうのがあるじゃない。それに私たち出会って間がないわ」


「大丈夫だ」


 と草食系吸血鬼が言うが、シャツのはだけた姿の乙女の前で動きが止まっている。


「え?」


「まだ噛まれていない」


「何?」


「血を吸われてはいない、首の付け根から肩にかけて傷が無い。3回血を吸われると、乙女は肉食系吸血鬼になってしまう所だったんだよ」


「なんですって」


 乙女は怒りに近いものを感じ出す。

この私を愛していたんじゃなくて、遊び相手でもなくて、吸血鬼にしようとしたのか・・・。


「許せない、絶対に許せない」


「お、乙女、どうしたの?」


「許せないって言ったのよ、あの野郎、絶対に許さないから、うら若き乙女(独身!)(処女?)を舐めやがって、ぶっ殺してやる」


「お、お、乙女」


「あんたは絶対に此処にいなさい! あの野郎を返り討ちにしてあげるわ!」


「え? 私は? 囮(おとり)? なの? ですか?」

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