第13話



 乙女はコンビニ弁当を食べている。

その向かい側で額に絆創膏を貼っている草食系吸血鬼が、トマトジュースを飲んでいる。


「いやー、ほんと、トマトジュースは美味しいですね」


「・・・・・・・・。」


「次は、ミックスジュースでも飲もうかなぁ、でも、いっぺんに飲んじゃうとなくなるもんねぇ、明日にしようかなぁ」


「・・・・・・・・。」


「でも、飲みたいなぁ、だって久しぶりだものねぇ、ミックスジュース。どうしようかなぁ、迷っちゃうなぁ」


「飲みたきゃ、飲め」


「だってぇ、飲んじゃうとなくなるじゃないですかぁ」


「また、買って来てやるから、飲め」


「え、ほんと、よーし、飲ーむーぞー」


「その代わり」


「え?」


 乙女は箸を持ったまま、俯き加減で、小さな声で、喋りかける。


「その代わり、二度と蚊に化けるな。蚊に化ける時は一言くらい言ってからにしろ」


「分かった、乙女に言ってから蚊になります」


「それと、今夜、どうするつもりなの」


「・・・・・・・・。」


「行くところがないんでしょ」


「私は蚊になれる、だから外ででも眠れる」


「雨が降ったらどうするのよ」


「蚊だから、野宿は平気です。あ、でも、ちゃんと乙女に言ってから蚊になるから」


「馬鹿、そんなことを言ってるんじゃない」


 乙女は、食べかけていた卵焼きを箸と共に弁当に叩きつけて、


「泊まってもいいんだって言ってるの!」


「乙女・・・。」


「その代わり」


「その代わり?」


「その代わり、掃除洗濯食事の用意、全部すること!」


「乙女、ありがとう」


 翌日、乙女が会社から帰ってくると。

ベランダには派手な女性物の下着が、少し冷たい春風に吹かれて揺れていた。


「あの馬鹿!」

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