第5話



 うら若き乙女(独身)(処女?)の女性の部屋で

タキシードを着た美男子が、


「うう」


と言う。


「神様、彼を助けて」


仏教徒の祈りが神に捧げられた、その後に。


「ありがとう、ございます」


と美男子系草食系吸血鬼が倒れた時よりも少し元気そうな掠れ声で礼を言う。


雨戸にカーテン、全て閉め切って、豆電球だけが灯いている部屋で乙女が目を潤ませている。


「よかった、死ななかったのね」


「死? 私は死なない」


「馬鹿、死にかけていたじゃないの」


「ああ、そう、お腹が空きすぎて。それよりも暗い、とても暗い部屋ですね。少し窓を開けて朝の新鮮な空気を入れましょう」


「?」


彼はゆっくりと体を起こすと、カーテンを開け、


「やめて、死なないで」


「?」


今度は男の方が不思議な顔をするが

長い腕を伸ばして

優雅に彼女の唇へ持って行くと

男とは思えないような細い指で

人差し指一本を静かにあてがい

優しく微笑む。


(美男子系)草食系吸血鬼が窓を開け放ち

雨戸を開けると

冷たいが清々しい空気が乙女の部屋に流れ込んでくる。


驚いている彼女の前で

吸血鬼は両手を広げ


「ああ、なんて気持ちのいい朝なんだろう」


と言う。


「あのー、なんていうか、そのですね」


「なんでしょうか」


「吸血鬼って朝日に弱いんじゃなかったですか?」


「ああ、肉食系のことですね」


「ええ、まぁ、あなたが、そう言うのであれば、肉食系?」


「そうですよ、彼らコウモリ族は光に弱い。でも私たち蚊族は暗闇を好むだけで、光を嫌いなわけじゃ無い。特に今日みたいな朝は、素敵な光じゃないですか。そう思いませんか?」


彼女は彼の言葉が終わると共に両肩をがくりと落とす。


そして独り言を言う、


「私の心配と努力は何だったの? この野郎、私の血を返せ」


「何か言いましたか?」


「蚊のうちに叩き潰しておけば良かった、って言ったのよ」

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