魔法に使われて

MURASAKI

レナニミル・グイヌレソ

「よく見ていてね、レナニミル・グイヌレソ!」


 私の手から魔力が溢れて、目の前に咲いていた花がその形のまま無機物へと変化する。魔法が使えることが嬉しくて、無邪気に母に披露した。

 魔法を覚えたのは数か月前。村の子どもたちと街へ行くという馬車に乗せられた日のことだ。私が村に戻ってきた時には、既にこの魔法を使えるようになっていたことだけを覚えている。


「お母さま。素敵なお花を差し上げるわ」


 そう言うと、まだほのかに香る造花を母に差し出す。しかし母はうっすらと笑みを浮かべ、私のお気に入りの黒猫のぬいぐるみを抱いたまま花を受け取ろうとしない。その態度に腹が立ち、母の膝の上から黒猫のぬいぐるみをひったくると、造花を無理やり押し付けてその場を後にした。

 部屋に戻り、ベッドに仰向けに寝転がる。抱いていた黒猫のぬいぐるみの頭をなでながら愚痴をこぼす。


「ルーカスは私のお友だちなのに、お母さまったらいつまでもあなたを抱いて離さないんだもの。お友だちを取り上げるなんて、酷いわ」

『そうだね。キミは使命を果たしているだけなのにね』

「いつもルーカスの言う“使命”って何のことだったかしら」

『キミは大変な目に遭ったから覚えていないのも当然だよ。そんなことより、ボクのこと愛してくれる?』

「もちろんよ」


 会話の最中に脳の内側からじわりとゆるやかな痛みを感じ、ルーカスを撫でる私の手が次第に硬直していく。

 手だけでなく次第に動かなくなっていく身体――そして交わした成約を思い出す。

 崖から転落した私を治す代わりに村人の生気を全て渡すと約束した。私たちを売った村など滅亡して構わなかった。何より全身を駆け抜けていく激しい痛みをすぐに消してしまいたかった。


『ようやく全部だ。この短期間でよくやったよ、キミは。最後の一人はえらく時間がかかったようだけど、無事コンプリートだ』



『レナニミル・グイヌレソ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法に使われて MURASAKI @Mura_saki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ