第10話 エターナル
聖女は殺気をまとう俺に動じず、一つ尋ねてきた。
「一応、戦う理由を教えてくれるかしら」
「ない。お前がお前であることだ」
「問答無用というわけね。たまにいるわ、そういう人」
聖女は鷹揚に受け取り、悠然と構えている。
それでもあえて、俺は告げる。
「当然。妬み嫉みは世の常なり。苦しみエタる放置勢、奴らに真の戦いとは何か伝えねばならない」
「まるで誰かの代弁者気取り。お似合い、きっとあなたそういう星の下に生まれたのよ」
「やかましい、運命論者は死して尚許さず。災害で亡くなる命は運命か。ふざけるな。防げるものも防ごうとしない輩には鉄槌だ」
「それは賛成。私が言いたいのは、あなたの資質の話よ」
くだらん。しかし手持ちはナイフひと振り。
さあ、どうする俺。啖呵切っておいてなんだが、ほぼ策がない。
その様を見て、聖女シルビアが口を開く。
「とりあえず場所を変えましょう。ここじゃ後で弁償って言われるわ」
「ふざけるな逃げるつもりか。戦いから逃れてどこに行く。エタって放置は無様にしかり。かつての俺のようで見ていられない」
「逃げたりしない。ちなみにエタってって何?」
「完結しない作品という意味だ。永遠や永久を意味するエターナルから来た造語」
「説明ありがとう。完結しない作品は悲しいわね。何か対策はないの?」
対策だと……創作活動はどこまでも自由。放置しようが他人がどうこう言う話ではない。読者もまた自由。互いに自由に振る舞えばいい。
しかしだ、言いたいことはある。
「こちらはきっちりエッセイでアドバイスしているのに、奴ら見もしようとしない。そういう姿勢だから、いつまで経っても同じところをグルグルと回っているのだ。WEB小説はWEBコンテンツって言ってんだろ。小説作法を統一しろ! 読みにくいわ! 読者の立場になって考えろ!」
「私にはどうすることも出来ないけれど、伝わるといいわねーー」
ーーその一瞬で、景色が変化していた。
屋外、月明かりの下。
荒野が広がり、遠くに街の灯りが見えている。
空間、瞬間移動系の魔法!
くそ、やはりこの聖女戦闘系だ。
聖女でもあるのだろうが、戦える戦闘型。
女に戦わせる作品にケチをつける輩が見たら、きっと発狂するだろう。
ーーなんて短絡的な作品! これだから日本は諸外国に馬鹿にされる! 女性を、性別を理解していない! 女を主人公にして戦わせればいいという発想が、程度の低さを表している!
とかSNSで呟きまくって、散々無視されるか玩具にされるのだろう。
どうでもいい。とにかく今、俺は窮地に立たされている。
聖女は伸びをしてから、しっかりとこちらを見て捉えた。
「じゃあ始めましょうか」
「ちょっと待て。屋外は計算外だ。二回も続くと殺る気が失せる」
「何それ。いいけど」
聖女はきょとんしているが、こちらは女神に用がある。
聖女シルビアにあえて背を向け、懐の女神に小声で問いかける。今、聖女は余裕ぶっている。まさか不意討ちはしてこんだろう。
「何か策はないか。戦う機会は得たが、たぶんこのままだと俺は死ぬ。いや、生き恥を晒す羽目になるだろう。珍しい異世界転生者を飼い慣らし、奴の評判は更に上がるかもしれん」
ぬいぐるみ女神はジタバタとするばかりだが、しばらくするとぐったりとしてしまった。
嘘だろ、と言いたいところすぐ元気に動き始める。
「くそっ、喋れるようにするのに力を使ったわ。あなたずっと何を主張していたの? 私ですら理解出来なかったのに、あいつちょっと理解してたじゃない」
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