第9話 商業作品大相撲な令嬢のあとがき

 マジか、凄いなこのマジカル聖女。俺の心でも読んだのか。そして受け止めようというのか。

 聖女は堂々としたもので、サッと着替え薄着だったものから、神官服へと装いを新たにしている。

 くそっ、着替え描写する間もない。今ので男性読者の何割が離脱した!

 色欲な女性読者も何割かは消え失せたろう。

 そもそもよくここまで読んだな。

 残った奴らはせめて最後まで付き合え!


「と、俺がまだなろう民だったら言っていただろう」

「なんかこう、嫌らしいことを考えていたことは理解出来ます」


 真顔の聖女は実に大人な対応。やはり許しがたい。

 だが受け入れねばならない。

 ぬいぐるみ女神をむんずと掴み直し、懐に仕舞う。


「そうか、ありがとう。では決着をつけようか」

「どうしても戦わないとダメなの? ところでそのぬいぐるみは何?」

「カケヨメに訊いてくれ。小説投稿サイトだ。公式イベントで謎にお題となっていた。成人男性に対する嫌がらせかもしれないが、現実と化したから恐ろしい」

「ごめんなさい、そのサイトって何? 書け読めって凄い命令口調ね……サイトの意味が分からないわ」


 んー説明するの手間だな。これが異世界交流か。仕方ない、簡潔に。


「なんか色々な人々を創作に掻き立てながら、結局誰にも読まれないという悲哀を感じさせる場所だ」

「そんなものがあなたの世界にはあったのね。酷いわ」

「たまに読まれるから同情は無用」

「でも、もっと積極的に交流すればいいのに。人と人とは、そういうものよ。だって大抵は皆見習いの作者、そうでしょう?」


 なんと、日本もインターネットの実情も知らず本質を見抜くとは……この聖女、やはり次の女神となりかねない。

 だからこそ告げる。


「プロもいる」

「専門業と争うの、なんて過酷。でも交流すれば、得られるものもあるのでしょうね」

「そう、交流相手がプロとなり、俺とのエピソードがあとがきに記されている。だがもはや、どうでもいい」

「ちなみになんて作品?」

「大相撲な令嬢。悪役令嬢追放ものに、相撲という日本古来の伝統を織り混ぜた一風変わった作品だ」

「面白い試み。読んでみたいわ」


 そうか。大相撲な令嬢、全く関係ないがどうぞよろしく。

 俺とのエピソードが巻末に載っている。それ目的で買っても誰も文句は言わないが、エピソード自体は実は大して長くない。当然だが、あとがきは作者さんの創作歴や苦悩、そして出版に至る過程が主に記されている。

 ぜひ作品を楽しんで欲しい。俺はついでというかオマケだ、事実。


「聖女よ、言っておくが俺がアドバイスしたのは、今なろうで人気な作品についてだ。俺がプロへと導いたのではない勘違いするな。そしてお前がそれを手に取る機会はない」

「分かったわ。じゃあ私も名乗らせて」

「最初に聞いたのに今更か。よかろう名乗れ」

「シルビア・グランハント。みんなにはシルビーって呼ばれているわ。一応聖女ってことになってて、それはさすがに知っているのよね」


 当然だ。首肯し無言で向き合う。ここからは果たし合い。

 実力だかなんだか知らんが、人気者に対する俺からの復讐。

 ライトユーザーを勝手に代表し、貴様の首をかき獲り神棚に飾ってやる。

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