第7話 聖女とざまあ
ベッドに近づき、寝顔を確かめるとなるほど聖女。年齢は二十歳前後と言ったところか。素っぴんでこれなら確かに偉い。うっとり見惚れる者もいるだろう。とりあえず肌がきれいだ。透き通るような白。
二十歳ぐらいね、この世界の俺と変わりない。
確かに美人だが、可愛い系も兼ねている。なるほど人気が出るわけだ。薄いシーツから肢体が見て取れるが、スタイルもいい。脚が無駄に長いな。
ふんっ、長く艶やかな黒髪を月明かりが照らしても今更遅い。
月に変わらずともおしおきだ。
血の異世界転生は実にハロウィン。
トリックオアトリート! そしてブラッドなブレンディでブラッディ。
命くれなきゃ話が進まないよ!
さ、やるかとベッドに手を付けた瞬間、ぬいぐるみな女神が先んじた。
いや、お前じゃ無理だ。体重というか色々足りない。なんでこう猛るかね。自分を知らないとは恐ろしい。
布製ナイフを顔面に突き立てるが、当然意味はない。眠っていた聖女が呟いた。当然SNSなあれではない。
「んっ……え……誰? 誰かいるの?」
あなた以外に異世界転生者と女神がいます。
あなたを殺りに、はるばる日本から転生して参りました。なんて言えるわけない。
聖女が目覚めてしまった。
「ど、どういうこと! 私の結界破ったの!? 嘘、信じられない!」
自分の力を過信し過ぎだ、聖女も女神も。どうする、こうなっては戦うしかないのか。それとも説得して飛び降りてもらうか。なんてハードボイルドというかホラーというか、サスペンス展開。
テンプレも何もありはしない。もはやこの女神を追放したいが、ぬいぐるみ差し出したら見逃してもらえるだろうか。
むんずと女神なぬいぐるみを掴み、聖女に差し出す。女神はジタバタするが、お前が悪い。
「あ、あのねあなた、熱心なファンというか信者さんかもしれないけど、部屋まで押し入ったら犯罪よ」
聖女は努めて平静を保とうとしている。だいぶ的外れだが、言わんとすることは理解出来る。
聖女は寝起きとは思えぬ口調で続ける。
「気持ちは分かるけど、こういうのは絶対ダメ。ぬいぐるみ渡しに来ましたって言いたいのは分かるわ。でもそれが通用する程、社会は甘くないの」
なんか諭され始めたぞ……説諭のつもりか。
「確かに私に会うのは大変よね。だからって結界解錠してまで侵入なんて、聞いたこともないわ。あなたが今すぐ出て行くなら、今回だけは見逃してあげる」
許すというのか? これは驚いた、聖女ぶったその言行、試してやりたいがさてどうしよう。ぬいぐるみがめっちゃジタバタしてるけど、目に入ってないんだろうか。
「とりあえずそのぬいぐるみは受けとるわ。なんか変な物仕込んでても、私には分かるから。というか一回お腹とか開けちゃうけど、それはごめんね」
聖女はなんだか申し訳なさげに、頭まで下げている。
気まで遣われて、俺は一体どんな様だ。
これがざまあという奴か。
心理的にはだいぶざまぁだ。
なるほどこれがテンプレか、むしろテンプレ展開なのか。よかろうならば戦争だ。
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