第6話 侯爵令嬢の華麗なる追放劇

 だだっ広いスイートルームにはいくつもの部屋がある。寝室はどこだ、ぬいぐるみも見回しているな。

 目ざとく見つけ、また女神なぬいぐるみが親指を差し向ける。こいつ欧米か。仕草が実にそれっぽい。まあ見てくれは日本人離れしているが、今は布製ぬいぐるみ。ほのぼのしてしまう謎展開。


 空気感ごとテンプレから外れるな。読者が離れる。殺伐とした追放展開からのざまあこそ至高。

 嗜好を読み取り至高を描く。振りするだけで日間一位になれる。

「侯爵令嬢の華麗なる追放劇」

 俺の遺作だどうぞよろしく。


 ーーついにターゲットの寝室にたどり着いた。男と寝てたらついでに殺ってしまうつもりだったが、今宵相手はいないらしい。ふんっ、清純派気取りか笑わせる。今その心臓貫いてやるからな。


 携えたぬいぐるみ女神が、闇夜の中妖しく嗤う。

 恍惚とした表情を浮かべるそのぬいぐるみは、実にファンシー。やるだけ無駄と止めたいが、鏡の一つもない。これじゃ自覚を促せない。いや鏡は探せばあるだろうが、そんなことはどうでもいい。


 ふっと外を見れば、月がまた顔を覗かせていた。

 ん? 異世界に月ではなく、カーテンの一つも閉めていないのか。全くどういう神経だ。そんなに寝顔を見られたいのか。

 いや、建物が高すぎて気にする必要がないと、そういうことか。甘いな、古来から熱心なお友達は容赦ない。住居はおろか交際相手の家ですら押し掛ける。どこで買った服かなど、ブランドまでチェックする執拗さ。なまなかでいかぬのがファン心理。ちったあ警戒せえよ。


 まだ中学生だというのにアイドル業に勤しみ、そして交際相手がバレ、その相手が男性アイドルとバレた輩を知らんのか。

 そのアイドルは握手会で、かなりのファンにこれみよがしに素通りされ、涙を流したという嘘のような逸話が存在する。今や常識となった恐ろしさ、およそ大人の所業とは言えぬのがファン心理。


「そもそもいい大人は握手会に行かない」と言ったら俺が炎上しかねない。

 が言ってしまったのでもう遅い。人生様々、皆さんの多様な価値観は憲法で保障されています。最高法規は伊達じゃない。私の意見など無視して下さい。


 堂々と交際が発覚したアイドルの前を素通りするといい。そういうビジネスだし、俺はそれを見て笑うから。もうニュースもSNSも見れないけど。


 ぬいぐるみな女神が、急かすよう脇腹を小突いてきた。

 よかろうならば暗殺ミッション。

 初志貫徹は気分屋な俺にぴったりだ。


 とりあえず聖女の面だけでも拝んでおくか。

 誰似だろう。「会議は踊る捜査線」のヒロイン似ならかなり躊躇うが、それ以外ならザクザク殺ろう。

 モデル系でも容赦はしない。

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