当選おめでとう!

@ramia294

 

 その翌日の昼過ぎに、警察が訪ねてきた。

 昨夜は彼女の誕生日だった。

 僕たちは、普通の恋人たちがするように、彼女の誕生日を祝い、食事に出かけた。

 ワインが、僕たちを、少し酔わせたようだ。

 夜の都会は、まだまだ活気に溢れ、街を歩く僕たちは、初めてゲームセンターに入った。


 クレーンゲームのぬいぐるみを欲しがったのは、彼女だった。

 彼女にしては、めずらしく、僕に執拗にねだった。

 酔いも手伝い、僕は張り切った。

 ゲーム初心者の僕は、何度も失敗した挙句、ようやく目的のぬいぐるみを手に入れた。

 そのために使った額は、彼女に用意したプレゼントに、せまる勢いだった。


 僕の部屋に泊まった彼女は、早朝仕事に出かけていった。

 その日、僕は休みだった。

 ウトウトしていた僕が、ようやく活動を開始しようと、コーヒーを淹れているときに、警察が訪ねてきた。


 昨夜のクレーンゲームのぬいぐるみから、血が流れだしたという苦情があり、調べてみたところ、ぬいぐるみに切断された死体が、隠されていたということだ。


 殺人の死体処理と証拠隠滅に、ゲームセンターで遊んでいる人達を利用したらしい。

 ぬいぐるみを荒っぽく扱った者がいなければ、そのまま見つからずに済んだかもしれない。

 小さく切り分けられた死体の包装が、破れたのだ。


 ゲームセンターに設置された監視カメラで、ぬいぐるみを手に入れた者たちをひとりづつ訪ねているそうだ。

 床の上に、放り出された昨日のぬいぐるみを警察に手渡す。

 しばらく調べていたが、そのぬいぐるみには、死体は隠されていなかったようだ。


 しかし、調べてみるため持ち帰りたいそうだ。

 犯人逮捕のための何らかの手がかりが、見つかるかもしれない。


 警察は、犯人逮捕後に、問題がなければ、ぬいぐるみの返却を希望するかの連絡をすると言って帰っていった。


 その夜、昨日のお礼にと、僕の部屋で夕食を作ってくれている彼女に、その話をした。

 台所で包丁を研ぎながら、彼女は話を聞いていた。

 聞き終わった彼女は、包丁を片手に台所から出てきた。


「あら、あのぬいぐるみには死体がなかったの。当たりを引き当てたのは、あなただったのね」


 そう言って、彼女は、右手を僕に突き出した。


                 終わり

 

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