第2話 原因は遡ること幾つか前
部屋から出ると父親の情けない言葉をスルーしながら衣装部屋にはいった。
「王都までは急げば半日。パーティーは夕方からだけど準備もあるから前日までには着きたいところだけど」
「そうしたら明日には出ないといけないわ」
雑談に笑って返すイーリャは急がないといけない現実を口にするも行動には現れていなかった。
それもそのはず、準備なんてほとんどすることがないのだ。
「アレク様、イーリャ様、いつものは馬車に積み込みました。あとはあちらの屋敷に揃っております」
背後に控えていた侍女が唐突に要点だけを言った。
「本当かい?それならあとは私達の準備だけだね。イーリャ。今回は長いから多めに選ぶんだよ」
いつの間にか衣装部屋の奥に行ってしまった自分の片割れに声をかけると、間延びな返事が聞こえた。
ちなみに私とイーリャはほぼ同じ体型だからドレスを共有するため衣装部屋も同じにしている。が、どちらのかは区切りがついているので対して問題ないだろう。
にしても社交パーティーかぁ。こっちはまだ全然寒いけど、王都はどのくらいかな?
季節にあった服装にしたいし、でも暖かくなってもしばらくはいるからなぁ。いや、向こうでも買えばいいから好きなのを多く持って行けばいいか。
さて、双子たちが衣装選びしている間にこの家について説明しよう。
エルマーニャ侯爵家。
王国の北に広大な領地を有し、建国から歴史のある由緒正しき貴族中の貴族。
家名を名乗ることは血縁者でも許されず、名乗るものは実力者の証らしいのだとか。
とにかく素晴らしい噂の絶えない家のなのである。
この家に生まれるものは才能持ちが多いが、努力を怠らず、己に奢らない精神の持ち主であったことが家を大きくし続けた要因であることは間違いないだろう。
隠し続けた事実だが、色々と変人が多かったのも認めたくないが大成した要因であろう。
さて、成功し、偉業をなし、意図が無いにしても家の発展に貢献し続けた結果。趣味に走りがちの人間が増えた。
それが何故か領民も大助かりのことに繋がって咎められることは一度もなかったが、領地に引きこもりがちになってしまったのである。領地で完了する衣食住。貿易なんて自領地がメインであったし、事業で儲けているので王都に行く必要がなくなってしまったのである。下手に権力があるせいで政治に参加できなくなったというのもあるが現在では完全な余談である。
そんなほぼ引きこもって領地から出てこず、すべて手紙や代理人で関係を終わらしていたあのエルマーニュ家が社交界に来たと大騒ぎになった事がある。ざっと百年ぶりだったとかで。よく消えなかったものである。
ちなみに騒がせた当事者は現在世界一周の旅に奥さんとでかけてしまったアレクとイーリャのお祖父様。つまりは前侯爵様であった。
出てきた理由は今の奥さんに一目惚れして追っかけたとかそんな理由であったが、国の防衛軍のトップとして現場で走り回った猛者である。二つ名は不死身のエルマーニャ。領地は国境と面していたため指揮は昔から取っていたので問題はなかった。
では不死身のエルマーニャの息子、アレクとイーリャの父親フュージャはというと貿易面で凄かったのだが、一族を驚かせたのはそこではなかった。貿易面の才能の持ち主、フュージャはとくに話術が凄かったのだが、一世代に一人はいたので珍しくはなかった。ではなにが驚かせたのか。それはフュージャの容姿であった。
熊のような大男の脳筋父親と童顔以外は普通であった天然な母親から生まれたとは思えないほどの美貌の持ち主であった。美しすぎて領民は失神し、ある程度の美形に慣れているはずの貴族ですら微笑まれれば失神するほどで、めでたい社交性のある2代目であったのにフュージャは出禁を食らってしまうほどであった。やはり二つ名もついてしまった。いろいろあったが無難なのは傾国のエルマーニャだろう。
類まれなる才能を持ちながらも一癖二癖もある人間の住む家。年々いろんな意味で悪化しつつあることが話題で今世代は大丈夫かと不安がられてもいた。
さて、一度も領地外の公共の場に出たことがないのに話題の双子はエルマーニャ家にとってもいろんな意味で想定外であった。
誰かに言ったわけではないので雰囲気だけであろうが双子は大人のような子供であった。いや、大人の理性を兼ね備えながらも無邪気に子供として謳歌しているように見えたのだ。
まあ、簡単である。双子は大人を一度経験していたのだ。この世界ではないどこかで生きた人生をすでに過去として持っていたのであった。ゆえに子どもたちは大人の賢さを存分に遊びに使っては周りの大人達を困らせていたのだが、周りもまあ常識外の人たちだったので制限されることなく育ってしまったのであった。
双子の___どちらが先に生まれたかはわからないので名前で言おう。
アレクと呼ばれるのはアレクサンドラ=エルマーニャ。美しい黒髪に濃い青い瞳を持つその人は領地では理想の王子様と慕われている。一見冷たい色が冷酷に感じ、パッとみ悪魔のようだと囁かれも、そんな人にやさしくされ、微笑まれるとそれはギャップ萌えでいいとも言われている。
イーリャと呼ばれるのはイリヤ=エルマーニャ。豊かな金髪に薄い青い瞳を持つその人は領地では天使のようなお姫様と慕われている。
そう、ふたりとも父の魔性の美貌まで引き継いでしまったのだが、一番の問題はアレクサンドラが令嬢であり、イリヤが令息であるということだろう。
そんな双子が社交界に出ることは問題の予感しか無いとさすがの一族も思ったが、招待したのは国王だったことを思い出すと、とりあえず国王に全責任を追わせることで落ち着いたのは双子が領地を出たあとなので完全な余談であった。
日が暮れる頃、双子たちは満足げにトランクをひとつ用意した背後で侍女や執事が苦笑いをしながら数着の衣装をしまっていた。
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