ぬいぐるみ好きなの?

もふもふ大好き すぐお腹痛くなるマン

第1話 

 小さい頃は動物が飼いたかった。猫とか、でっかい犬。可愛くてモフモフしている生き物。

 俺はとにかくモフモフに飢えていた。テレビで放送されてる動物特集、あれを見る度に俺の中のリビドーは膨らむ一方。両親にその度お願いするが、暖簾に腕押し、糠に釘、全く響かない。それどころかしつこく付きまとえば、怒られ泣かされた。

 仕方ないんで諦めて、近くで猫を飼っている友達の家に入り浸る日々。

 その家の猫ちゃんは積極的な子で、よく俺の股座に入り込んで丸くなる魔性の猫だった。可愛すぎる。

 でも、やっぱり他人の家の猫ちゃんなのだ……。その隔たりに言い知れぬ虚しさを感じていた。

 そんなアンニュイさを胸に抱え、母ちゃんの前で露骨にため息ばっかりついていた時分であった。母ちゃんがぬいぐるみを俺にくれたのは。

 大人気アニメ映画のキャラクター。『ぼぉあ~~!!』って大きな口で叫ぶ可愛いやつ――の小さい方。袋を持った青色のやつだ

 動かない、鳴かない、温かくない。だけどモフモフしてやぁらかい。悪くなかった。ト〇ロ好きだったし。名前を付ける。抱っこもする。抱きしめるし、お話しもする。返事はないけど。

 俺はぬいぐるみが大好きになった。『動物飼いたい!』もあんまり言わなくなったと思う。母ちゃんも喜んでた。

 動物、魚、虫など、いろんな生き物をデフォルメして可愛らしくしたぬいぐるみ。アニメキャラクターのぬいぐるみ。どれも可愛い。

 でも、周りの子には言えなくて黙ってた。

 男でぬいぐるみが好きっていうのは……変な目で見られるから。

『お前、男の癖にぬいぐるみなんてもってんのかよ』

『なんか気持ち悪い』 

――――――――――――――― 

 

 一目惚れ、だった。

 

 高校の廊下。展示物が並べられている長テーブルに何気なく置いてあったイルカさんのぬいぐるみ。つぶらな瞳。イルカなのにフワフワした毛並み。お腹は真っ白、他は鮮やかな青。

 あまりの可愛さに、衝動的に手に取り撫でまわしてしまった。頬ずりしなかったのはなけなしの理性が働いたんだろう。

 フワフワ柔らかで、素晴らしい出来――

「ぬいぐるみ好きなの?」

 女の声が廊下に響く。明らかに俺に向けられた質問。

 終わった……。

 出来の悪いブリキ人形みたいに、声のした方へ顔を向ければ――

「それ、私が作ったの。かわいいでしょ~」

 可愛らしい顔に、柔らかな笑みを浮かべている名前も知らない女生徒。

「友達もいるんだよ~。よかったら見てく? 見てくよね? 行こう!」

「……はい。お邪魔でなければ」

「いいよぉ~全員紹介したげる! ちなみにね~その子の名前は――」




 ぬいぐるみがきっかけの恋が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみ好きなの? もふもふ大好き すぐお腹痛くなるマン @jake26s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ